蛇口をひねり水を出す。少しよそ見をしていたら、水がコップから溢れていた。慌てて蛇口をひねり水を止めて、コップの飲み口をそっとこちらに寄せる。溢れそうになる水をゆっくりとすする。
目の前で水が溢れていたら、多くの人がまず「蛇口を止める」という行動を一番に取るはずだ。溢れだす水をそのままに、こぼれ落ちる水を別のコップで受け止めようとしたり、したたる水を眺め続ける人は少数派だろう。
しかし、現存する多くの社会課題に対する解決策は、往々にして「蛇口を止める」のではなく、根本解決につながらないアプローチにとどまっていることが少なくない。
自身をアーティビスト(アーティストであり、アクティビスト)と称するVon Wongは、プラスチック問題をはじめとした社会課題の解決に取り組む一人だ。Von Wongはこれまで、16万8千本もの使用済みプラスチック製ストローや、1万8千個の使用済みプラスチック製カップ用いたインスタレーション作品などを世の中に提示してきた。しかし、それらはプラスチックストローやカップといった個々の物に対する問題意識は醸成しても、「プラスチックの生産」という問題の根本を指摘することはできなかったと感じたのだという。
そこでVon Wongがはじめたのが「#TurnOffThePlasticTap」のプロジェクトだ。日本語にすれば、「プラスチックの蛇口を止めよう」となる。
彼のチームは、ビルの3階ほどの高さにある巨大な蛇口から、大量のプラスチックが溢れだすオブジェを作成し、それを複数の場所に設置して、順番に写真撮影を行った。子ども達の遊び場である公園、海辺、廃棄物を埋め立てて最終的に処分する施設である最終処分場。さらには、プラスチックゴミが各地に輸出されることを伝える目的でコンテナ集積場、10%のプラスチックしかリサイクルされていないことを伝える目的でリサイクル工場と、撮影は計5箇所で行われた。
このプロジェクトのユニークな点は、写真のインパクトやメッセージだけではない。ただ写真を見て終わりにならないように、Von Wongはプロジェクトにより多くの人が関わるための“関わりしろ”を複数用意している。
クリエイターやアーティストに対しては、本作品のリミックスを作ることを提案。実際にクリエイターたちは、呼びかけに呼応するように、下記のような作品を作りInstagramなどでシェアしている。
それ以外の人に対しては、「行動を起こす」「#TurnOffThePlasticTapの言葉を広める」の大きく2つの選択肢から、さまざまなアクションを提示している。
「行動を起こす」では、GreenpeaceやWWFなど複数の環境保護団体と提携し、ジョー・バイデン大統領に「世界プラスチック条約」への支持を求めたり、Amazonにプラスチックフリーの梱包の選択ができるように求めたりするなどの行動が示されている。
「#TurnOffThePlasticTapの言葉を広める」で提案されているアクションも面白い。このプロジェクトをInstagramでシェアしようというものに加え、Instagramで使えるGiant Plastic Tapフィルターや、TikTokで使える#TurnOffThePlasticTapの曲なども提供されており、楽しみながらできる、さまざまなアクションが用意されている。
さらにそれぞれの行動を起こすことで、スポンサー企業が用意した電動スクーターやカメラなど総額10,000ドル相当の賞品が当たるチャンスまである。
プラスチックゴミをどうリサイクルするか、海洋プラスチックをどう回収するかなど、作られてしまったプラスチックをどう処理するかを考えることも、もちろん重要だ。しかし、一番考えなくてはならないのは、プラスチックがそもそも生み出されない世界にするための「蛇口を止める」方法であろう。
目の前で水が溢れている。蛇口を止めよう。
【参照サイト】Von Wong Blog
【参照サイト】Von Wong Instagram
Edited by Motomi Souma