クックパッドと男子中高生が考える、料理の未来。ジェンダー平等に取り組むコラボ企画

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共働き世帯数が専業主婦世帯数を大きく上回る今の日本においても、「料理は女性がするもの」なのだろうか。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本の男性が日常の家事に費やす時間は1日あたり25分。これは調査対象となった28カ国のなかで、下から数えて3番目だという。また、持続可能な開発目標(SDGs)で5番目にジェンダー平等が掲げられているが、日本のジェンダーギャップスコアはG7の中で圧倒的最下位だった。

女性の社会進出が進んだ今、料理などの家事に関する価値観も更新するべきときが来ている。料理は性別を超えて誰もが楽しめるものであり、男性も料理をするのが当たり前の世の中であってよいのではないだろうか。

このような問いかけのもと開催された、クックパッド株式会社と東京都の聖学院中学校・高等学校、静岡県の静岡聖光学院中学校・高等学校のコラボレーション企画「SDGs Cooking Innovation Lab」が先月11月に、クックパッド本社にて開催された。聖学院と静岡聖光学院はどちらも男子校。今回は両校から男子生徒30名が参加した。男性が料理の未来について真剣に考える企画だ。

プログラムはクックパッド社の小竹貴子氏による会社紹介から始まり、生徒が実際に料理をする時間、クックパッドの担当者による料理とジェンダーに関する講演、聖学院の児浦良裕氏によるレゴⓇブロックを使ったワークと続いた。

聖学院と静岡聖光学院の生徒たちは、この日が初対面だ。各校の生徒が混合で作られた4グループが、それぞれ料理を作り始める。本記事では、イベントの中で特に印象に残った部分をご紹介したい。

料理とジェンダーに関する講演-2

料理とジェンダーに関する講演

そもそも料理にレシピは必要なのか?

この日の料理のために用意された野菜は、なんと静岡聖光学院の農園で栽培されたもの。他にもミンチ肉や調味料などが用意されたが、料理のレシピは生徒たちが自分で考えるというルール。「クックパッドを見て作ってもいいですか?」という生徒からの質問に、小竹氏は「ダメです。食材を見て考えてください。」と回答。最初は生徒たちの間で、とまどいとざわめきが起こった。

始まってみるとプランニングタイムもほどほどに、手を動かして料理を始める生徒たち。ハンバーグに焼いたメレンゲをのせる生徒、野菜の根っこを揚げる生徒、ミニトマトを刻んでソースにする生徒など、オリジナルのアイデアが光っていた。クックパッドの担当者によるアドバイスも適宜受けながら、1時間ほど経つと、各グループ3~5品の料理ができあがった。

何の料理を作るか、プランニング中|写真提供:クックパッド株式会社

この様子を見た小竹氏は「料理をしなれた人だと『こうしなければならない』と考えてしまって時間がかかりそうですが、みなさんは行き当たりばったりだからこそ速く進められていますね」とコメントした。男性の料理について考える際にはレシピや経験に頼るのではなく、「独創性」や「スピード感」をキーワードにしてみることは一つの可能性なのではないかと感じた。

あるいは男性に限らず、家事を担うことの多い女性にとってもキーワードになるのかもしれない。レシピ通りの料理を作るために、毎日材料を買いそろえ、調味料の分量をきちんと量って作るのが当たり前という固定観念にとらわれていると、料理を負担に感じる人が増えてしまう。

料理雑誌に載るような大層なものではないけれど、そのぶん日常に取り入れやすい大ざっぱな「名もなき料理」が当たり前になれば、性別を問わず料理の裾野が広がるのではないだろうか。生徒たちができあがった料理をおいしそうに食べているのを見て、「そもそもレシピは必要なものなのだろうか」と考えさせられた。

調理中|写真提供:クックパッド株式会社

男性が料理をしたくなる世界に必要なのは、AIの力?

聖学院の児浦良裕氏によるレゴⓇシリアスプレイⓇを使ったワークショップは、約2時間に渡り行われた。生徒たちは5人ごとのグループにわかれ「人間が料理をしなくなったときに起こる良いこと・困ることを挙げる」「料理は女性がするものと偏ることで起こる問題を挙げる」などのお題で5~6分単位で小さなワークをこなし、最終的にレゴⓇで男性が料理をしたくなる世界を表現して発表した。

筆者は取材に行く前「なぜこのプログラムで急にレゴⓇが登場するのだろう」と疑問に感じていたが、実際のワークショップの様子を見ると、レゴⓇは人それぞれの頭の中にあるイメージを具現化するための有用なツールだと実感した。例えば「こういう台所がほしい」と発表するとき、書き文字だけで説明するのではなくレゴⓇで作った台所のサンプルがあると、周囲にも意味が伝わりやすい。

生徒たちの発表をきいていて興味深く感じたのは、男性が料理をしたくなる世界にするために、何かしらのかたちでAIの力を借りるという意見が多かったことだ。AI対人間の料理対決をするというアイデアや、AIに料理のいろはを学ぶというアイデアなどがあった。「変わった食材でぶっ飛んだレシピを考えるのは、AIのほうが得意だと思います」と、AIの持つ可能性をポジティブに評価する意見もあった。

 レゴⓇで男性が料理をしたくなる世界を表現

レゴⓇで男性が料理をしたくなる世界を表現|写真提供:クックパッド株式会社

プログラムの前半で手作りの料理に挑戦した生徒たちは、みな口々に「料理が楽しい!」と感想を述べていた。自分で試行錯誤しながら料理を作ることの醍醐味を味わった生徒たちだが、そこから一歩先に進んで、世の中の男性に料理を普及させる方法を考えるときは「人間以外の力を借りる」という点に、思考の柔軟性を感じた。

「今日自分がクックパッドのプログラムに参加して、料理を楽しいと思った」からといって、仕事などで忙しい世の中の人が毎日の料理を楽しめるということにはならない。世の中に広めるときは楽しさを伝えるだけでなく、料理の手間を減らす工夫が必要だろう。最先端技術を活用することも、もちろん大切だ。意識的なのかどうかはわからないが、考えるテーマに応じて発想の転換が行われていると感じた。

写真提供:クックパッド株式会社

取材後記

今回の企画にはクックパッド社の担当者数名と、各校の教員たちが立ち会っていた。いわば「男性も女性も関係なく料理を楽しめる社会にしよう」と生徒にメッセージを伝える人たちだが、ふとした瞬間に「そういう僕は料理できないんですけどね……」と実態を明かす男性教員の姿が印象的だった。

料理とジェンダーをテーマにした講演で、「なぜ日本の男性はヨーロッパの男性ほど家事をしないのだろう」と問いかけられた生徒が「日本人は長時間仕事をしすぎて、家事をする時間がとれないからだと思います」と、率直な意見を述べたとき、身につまされたかのように俯いていたのは周囲の大人たちだった。

理想と現実の溝はなかなか埋まらないのが世の常だが、それでも着実に埋まっていく溝はある。たとえばクックパッドのような料理レシピ投稿・検索サービスは、料理のプロとそうでない人たちの溝を埋めることに大きく貢献してきたはずだ。

今回のような企画が成立し、意欲的な男子生徒たちが集まったという事実も、男性と女性の間にある壁が取り払われつつあることを示している。約6時間、これだけの人数の男性が料理と真剣に向き合う空間は、日本中を探してもなかなか見当たらないのではないだろうか。

参加した静岡聖光の生徒たちは料理の楽しさに気づき、週明けの放課後に早速農園野菜を収穫して料理をしていたとのことだ。着実に、意識は変わり始めている。

【参照サイト】クックパッド、「SDGs Cooking Innovation Lab」を開催〜聖学院・静岡聖光学院の男子生徒と、これからの料理を考える〜
【参照サイト】クックパッド株式会社