「研究所育ち」のコーヒー、フィンランドで誕生。細胞農業で“豆が足りない”危機脱出へ

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世界のいたるところで愛飲されている飲料、コーヒー。

国際コーヒー機関(ICO)の調査によると、2020〜2021年の世界のコーヒー消費量は推定998万760トンにのぼる。消費量を割合順に並べると、1位はヨーロッパで33%、2位はアジア・オセアニアで22%、3位は中南米で20%、4位は北米で19%だった(※1)

世界の人口増加に伴い、コーヒーの需要が年々増加するなか、コーヒーは絶滅の危機にあると警鐘を鳴らす研究者もいる。イギリスの研究機関であるキュー王立植物園の発表によると、気候変動や森林伐採、真菌性病原体や害虫の蔓延と深刻化によって、主要なアラビカやロブスタを含む全コーヒー種の60%が絶滅の危機に瀕しているという(※2)

コーヒーの未来をどう守るかに注目が集まるなか、研究機関フィンランド技術研究センター(VTT)で新しいコーヒーが誕生した。その名も「Lab-grown coffee(研究室育ちのコーヒー)」だ。

Lab-grown coffeeでは、アラビカの葉から植物細胞を採取し、細胞を培養することによって原料となるバイオマスを生産。焙煎された後、植物バイオテクノロジー、化学、食品科学など、各分野の専門家による厳正なチェックを経て、ようやく研究所育ちの一杯が完成した。

研究所生まれのコーヒー

一般に“細胞農業”と呼ばれるこの生産方法は、バイオリアクター(生物反応槽)などの機械内で、医学や科学の技術を用いて植物や動物の細胞から製品を生み出す。

細胞農業でコーヒーを生産すると、広大な農地を使用する必要がなく、生産の過程で排出される温室効果ガスの削減にもつながる。さらに、各地域の研究所で生産できれば、長距離の輸送が必要なくなり環境への負荷も小さい。

研究所生まれのコーヒー

VTTの研究チームリーダーであるハイコ・リシャー博士はプレスリリースで、「最初の一杯を飲んだときの感動はひとしおでした。味は通常のコーヒーに近いですが、コーヒー作りは芸術であり、最適化を繰り返す必要があります。私たちの研究はその基礎となるものです」と述べている。

細胞農業から生まれた製品が市場に流通するまでには、各国の認可を受ける必要があり、私たちの手元に届くまでにはもう少し時間がかかりそうだ。今後、世界が「コーヒーを失うかもしれない」という危機や、人口増加に伴う食料危機の解決策として、細胞農業は存在感をさらに増していくだろう。

世界ではすでに「豆なしコーヒー」が誕生するなど、コーヒーのこれからに熱い視線が注がれている。もちろん「研究所生まれ」「代替品」と聞いて、味や安全性に疑問を抱く人もいるかもしれない。ただ、さまざまな危機に直面するいま、こうした技術革新を否定的に捉えるのではなく、どう活用できるのかに注視していきたい。

※1 World coffee consumption
※2 Kew scientists reveal that 60% of wild coffee species are threatened with extinction, causing concern for the future of coffee production

【参照サイト】Sustainable coffee grown in Finland – the land that drinks the most coffee per capita produces its first tasty cup with cellular agriculture
【参照サイト】Coffee Development Report 2020
【参照サイト】What is the demand for coffee on the European market?
Edited by Kimika

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