新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、マスクの着用が当たり前となった今、そのごみが急増している。
2020年の研究では、世界で毎月1,290億枚ものマスクが使われていると推定されている(※1)。大量の使用済みのマスクから、新たな価値を生み出す方法はないだろうか。
モスクワ鉄鋼合金製造大学(NUST MISIS)の研究者らは、2022年1月、使用済みのマスクから電池を作る技術を開発したと発表した。
彼らが作ったのは、スーパーキャパシタと呼ばれるタイプの電池で、家庭用の照明器具や時計などに使えるという。この電池は、薄くてフレキシブルという特徴を持つ。
使用済みのマスクは、電池の電極とセパレータの部分に使われる。消毒したマスクをグラフェン(炭素原子からなる六角セルが集合してシート状になっているもの)でできたインクに浸し、それを加圧しながら140度に加熱すると、電極として使えるようになるという。そして、電池の正極と負極を分離するセパレータを、2つの電極の間に置く。
あとは全体を電解液に浸し、電池の外枠を取り付ける。外枠は、薬のパッケージであるブリスターパックをリサイクルしてできており、ここでも医療に伴って発生するごみが有効活用されている。
研究者らによると、この電池の重量エネルギー密度は98ワット・アワー毎キログラム。この値が大きいほど、電池により多くのエネルギーが蓄えられることを意味する。たとえば、現行のリチウムイオン電池の重量エネルギー密度は、100~265ワット・アワー毎キログラム前後だと言われている。
研究者らは今まで、ココナッツの殻、もみ殻、新聞紙、自動車のタイヤなど、様々な廃棄物を使って、スーパーキャパシタの電極を作ることに挑戦してきた。ただ、これらを電極として使うには、アニーリングと呼ばれる特殊な熱処理が必要だった。その点マスクは、比較的低温で簡単に処理できることがメリットだという。
研究者らは、今後はこの技術を応用し、電気自動車や太陽光発電所などで電池が利用されることを目指す。
レモンで作られた電池など、身近なもので電池を作れることは知られているが、”マスク電池”は意外だったのではないだろうか。今後、様々な用途に利用されるようになることを期待したい。
※1 COVID-19 Pandemic Repercussions on the Use and Management of Plastics | Environmental Science & Technology
【参照サイト】 Tonnes of Used Face Masks to Be Turned into Energy