SANUの「建てるほど環境を再生させる」キャビンはどう生まれた?建築のウラ側を探る

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今や、街には“サステナブルな建物”があふれている。壁が植物に覆われた商業施設、たくさんのソーラーパネルが屋上に並ぶオフィス、古いコンテナを再利用したレストラン。そんな建築物を、IDEAS FOR GOOD編集部は日本でも海外でもたくさん見てきた。

それらを素晴らしいと思う一方で、気になることもある。建築プロジェクトにおいては、環境性能や過ごしやすさなど良い面のアピールはされるが、材料の調達元や建設時のエネルギーなどは公表されないことが多いのだ。「生き物の生息地の消失や、解体時の大量の廃棄物の発生などを鑑みると、いっそ、新しく建物を作らない方がサステナブルなんじゃ?」──そんな考えすらも頭をもたげてくる。

一方、「建てれば建てるほど環境を再生する」建築に取り組む人たちもいる。「Live with nature. / 自然と共に生きる。」を哲学に掲げるライフスタイルブランド、SANU(サヌ)だ。八ヶ岳や白樺湖をはじめとした自然の中にオリジナルの木造キャビン「SANU CABIN」を作り、「自然の中のもう一つの家」として提供するサブスクサービス「SANU 2nd Home」を展開している。

▶ SANUのCEO福島弦さんのインタビュー:森の中に「第二の家」を。ライフスタイルブランドSANUに聞く、自分も自然も豊かにするビジネス

今回は、そんなSANU CABIN建設の裏側に迫る。世間では建設による木の大量伐採や、調達元の不透明さ、土壌の汚染などが問題になるなかで、人はどこまで「環境にやさしい」配慮ができるのだろうか。キャビンの設計を手がけた建築チームADXの代表・安齋好太郎さんに話を伺った。

話者プロフィール:安齋好太郎(あんざい・こうたろう)

ADX 安斎好太郎さん株式会社ADX CEO。1977年福島県二本松市にて、祖父の代から続く安斎建設工業の3代目として生まれる。 自然と共生するサステナブルな建築を目指し、2006年にADX(旧Life style工房)を創業。木の特色を活かし、木の新しい可能性を追求したダイナミックな建築を得意とする。 幼い頃から木に触れて育ったことから木材・木造建築に造詣が深いことで知られ、Wood Creatorとして国内外の大学や企業で講演活動を行う。登山がライフワーク。

ADXが作る、環境再生型キャビンとは?

八ケ岳の南麓にたたずむSANUのキャビン

八ヶ岳の南麓にたたずむSANU CABIN

地元福島の山で遊びながら育った安齋さん。SANUの共同創業者である福島さんや、本間さんとは別の建築プロジェクトで出会い、「『Live with nature. / 自然と共に生きる。』を体現するような事業を作る」という考え方に共感したことから、SANU CABINの設計に携わることになった。

約150本の木を使って作られたSANU CABINは、どれも日本古来の高床式で、風通しがいい。岩手県・釜石市から調達した間伐材(※1)を利用しており、キャビン建設に利用した分だけ植樹するSANU独自のプログラムも予定されている。

※1 森林の成長過程で、密集化している木を間引く際に発生する木材のこと。調達元の釜石地方森林組合では、樹齢50年~80年ほどの成長した木の伐採や造材を行なっている。

Q. 設計をするうえで、インスピレーションを受けたものはありましたか?

どこかの建築というよりは、自然から一番影響を受けたと言えるかもしれません。最初のキャビンを八ヶ岳と白樺湖に建てる前、SANU創業者のお二人とさまざまな地域の自然を訪れ、実際に何十か所も歩いて回りました。小鳥がいる地域や、木がしっかり生えている地域など、本当に場所によって違った景色があり、とても豊かだと思ったんです。

だから建築自体が主役ではなく、それぞれの地域の暮らしの豊かさや、自然の景色を見せたいという一心で、キャビンのデザインを始めました。

安齋好太郎さん

Q. ADX流の、空間を作るときのこだわりを教えてください。

僕たちが目指していることの一つが、深呼吸をしたくなる空間を作ること。日常のなかで深く呼吸する場面を考えると、安心する人と一緒にいるときや、今日は楽しかったなと1日を振り返っているときなど、落ち着いているタイミングが多いですよね。

だから何か特別なものを置くわけではなく、来た人が安心できるような見た目や匂い、質感にこだわっています。SANU CABINの設計では、都心に住む人が、時々帰って来られる「もう一つの我が家」になるイメージで作りました。

開放的な空間。自然からインスピレーションを受け、直線的ではなく丸みを帯びたデザインになっている。

開放的な空間。自然からインスピレーションを受け、直線的ではなく丸みを帯びたデザインになっている。

また、森の中に建物を建てるということは、本来自然界には無いものをそこに持ち込むということでもあります。なので、無機質な部材は最小限にして、なるべく自然のなかにある木や土を使っていくことも意識しました。建物内では、それぞれの部品をつなぎ合わせるための接着剤や、釘、ビスを使うこともなるべくしないようにしました。

そうすることで、一部が壊れても簡単に分解・交換などのメンテナンスがしやすくなり、キャビン自体が古くなってもう使われなくなったときにも金属は再利用でき、木材はウッドチップやペレットに変えることができるんです。

Q. 土地への負荷を最小限にするため、独自の建築工法も開発されたと聞きました。

自然に敬意を払って建築物を作りたいということで、土地を整地せずに斜面にも建築できる「基礎杭工法」を採用するため、30°の傾斜地でも使用できる杭打ち機を独自に開発しました。地中に杭を6本差すだけで建物を支えられるというものです。

一般的には、「べた基礎工法」と呼ばれる方法で建物を建てるのですが、コンクリートを大量に使用し地盤全体に直接基礎を配するため、谷から上がってくる風を建築物が止めてしまうんです。私たちの開発した「基礎杭工法」では、高床式にすることで、土壌への負荷を小さくし、風や水の流れを止めない工夫をしています。

一般的な建築とSANUキャビンの違い

一般的な建築とSANU CABINとの違い

Q. 「建てれば建てるほど環境が豊かになる」キャビンの仕組みについて、もう少し詳しく教えてください。

環境を豊かにする方法は色々あるのですが、たとえば建築物を建てたときに出るCO2排出量を相殺し、プラスアルファで森に良い影響を与える行動をしていく、というのは一つの方法でしょうか。たとえば、成長した木を素材として使い、新しい木を植えることですね。建材の7割を木材にすることや、建設に利用した木材に相当する本数の植樹を計画し、調達を行うことで、建設過程で排出されるCO2量を上回る量のCO2を吸収・固定化が実現できています。植樹の計画では、木材の調達元である釜石地方森林組合さんにその実行をお願いしています。

実際、どれくらいのCO2が削減されるのかを計算してみると、意外にも負荷が大きいポイントがあったりして。そこを改善しているうちに、キャビンの設計も必然的に「解体するときのことまで考えたもの」に変わってくるんです。

解体が前提というと、耐久性が気になる方もいるかもしれませんが、それにもしっかり対策しています。キャビンは、軽量ながら頑丈な構造を持つ蜂の巣の「ハニカム構造」を模しており、日本でも特に降雪量が多い、長野の白馬村に降る4メートルの雪でも耐えられるように作りました。

サステナブルな建築づくりの心得

Q. SANU CABINの設計をする上で、大変だったことはありましたか?

大変じゃなかったことを見つける方が難しいくらいです(笑)特に難しかったのが、オープンまでの1年という限られた期間のなかで、木材の調達から建設まですべての流れをデザインすること。どの木を切ったら森が健康になるか、まで考えました。

通常の建築物なら、デザインだけ、工事だけ担当する、ということもあり得るのですが、今回のプロジェクトは設計から実際に建てるところまですべてを担いました。

あとは、「自然と共に生きる」というコンセプトに基づいてキャビンを作ったとしても、「絶対にその環境が良くなる」とは言いきれない葛藤もありました。これまで手が入っていなかった自然の森のなかに私たちが街から道具を持ち込んだら、その森の環境に変化をもたらすことは避けられません。

SANU CABINを建てると決めた場所も、もともと平たい場所というよりは、傾斜地や、ボコボコな土地ばかりでした。隆起している形状の土地で建築を作ろうとすると、そこをまず工事し平らにして、それから基礎を作って建設する流れになります。

できる限り自然に手を加えたくはありませんが、人が安心して過ごせる空間を作るためには手を入れなければならないこともある。そこは本当に難しいポイントでした。

Q. なるほど……。実際、サステナブルな建物を作るために森を切り開くことの矛盾をどう捉えていますか?

できるだけその土地を傷つけないよう、自分たちができる最大限の配慮をすることが大切だと思います。今回のキャビンでいえば、工事をする敷地内の木の本数や樹形を1本ずつすべて特定しました。この木を切ることで日光が入って他の木が育つ、という間伐のようなものですね。

SANU CABINは、真っ直ぐ整然と配置されているのではなく、川のうねりのように曲がって配置されていることが多いんです。なるべく元あった自然に車や重機が入らないように、木を避けながら作業した結果でした。建築により伐採する木の本数は30%程度と、最小にとどめています。その地にもともとあったコブなどを避けながら、など地形に合わせて作っているので、キャビン自体も一棟一棟向いている方向が異なり、中から見える風景が違うんですよね。

自然を人間にとって都合のいいものとして扱うのではなく、自然の中にお邪魔させてもらって、一緒に生きていくという感覚を大切にしています。

Q. 実際に作業を進める建設現場の人にも、そういった考えは浸透しているのでしょうか?

全員でミーティングをしながら進めていったのですが、最初は全然腹落ちしていない様子でした。「環境にやさしい建て方って、今までのやり方とは何が違うの?」といったような。

だから、実際に僕たちの描いた設計図を見て、組み立てなどの作業をしてもらい、素材を手に取って実際に肌で感じながら、これまでの建築との違いを知ってもらうことにしました。これまでの建設作業と比べて、面倒だと感じることもあったかと思います。時間のかかる方法ですが、僕たちが「サステナビリティは大切だ」「環境を破壊しないでくれよ」と上から言うよりもいいと思ったんです。

建物を建てる、って一人ではできない作業です。だから、「建築物を持続可能にしたい」という想いがあり、それを実現させたいのなら、協力してくれる人が一人でも多いほうがいいことには違いないんです。

キャビン建設の作業風景

キャビン建設テストの作業風景

アップデートし続けることでさらに美しく、環境にも良く

2021年11月、八ヶ岳と白樺湖に最初のSANU CABINを建てたSANU。今では河口湖や山中湖にも同じデザインのものを建てている。さまざまな地域でキャビンづくりをしていくなかで、安齋さんが伝える想いとは。

Q. キャビンを建て続けることで、最初と変わったことなどありましたか?

ほぼすべてのSANU CABINにおいて、新しく建てるたびにマイナーチェンジをしています。実は最初の拠点と次の拠点では、100項目変わっているんです。ビスの固定の仕方や、ねじの入れ方、シャワーなどの設備の位置など、SANU会員の方からもフィードバックを貰いながら改善しています。

そうして繰り返しアップデートしていくことが、さらに美しく、過ごしやすく、環境にも良い建築を作るのではないかと。新しく建てるたびに、より“深呼吸したい”と思える空間を作っていきたいです。

Image via Sayuri Murooka

Image via Sayuri Murooka

Q. 今後、挑戦したいことを教えてください。

これからは、少しずつ建築業界全体を変えられるようなことがしたいと考えています。食の分野で生産者の顔が見えることを「Farm to Table」と言いますが、それの建築版で「Forest to Building」といったような。建築分野においても、作り手の顔が見えることによって現場では自分達の作るものに責任を持てるし、利用者としても、安心して愛着を持って長く使いたいと思ってもらえるからです。

また、森や自然と生きることには、関係人口が必要です。もっともっと、色々な人が森を好きになれるような、自然の良さが100%伝わるような建築を作り続けたいです。

Q. 最後に、これから環境を再生する事業をしたいと考える方に、メッセージをお願いします。

僕たちは、100年後の未来を見て仕事をすることを意識しています。この100年というスパンで生態系の変化を感じられることもありますし、100年後も続く事業かどうか、が一つの基準となるからです。

そうすると、近い未来に向けて短期的な収益をあげるだけではなく、必然的に建物の耐久性や、環境性能、ビジネスとしての成長などを複合的に見られるようになります。人間から見た成長、という短い尺度ではなく「生態系が一巡する時間ぐらい長いスパンで物語を作る」ことを軸にこれからも仕事をしたいと思っています。

安齋好太郎さん

【参照サイト】株式会社ADX

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