景観と生態系の回復に挑む、中国・成都近郊エリアのランドスケープデザイン

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人々の暮らす都市空間と自然との融合は、古来より様々な文明で行われてきた。古くはバビロンの空中庭園から、フランスのベルサイユ宮殿庭園、英国のイングリッシュ・ガーデンもそうした実験の結果だ。博物館や公共の概念が誕生した近代からは、植物園、公園、街路樹など、人類は自然を模倣し、人工的な自然環境を都市の中に作り上げてきた。今日でも、元からある自然をいかに活かすかは、都市設計の重要な要素である。今回紹介する中国の天府新区は、自然を活かした新しい都市の形を示そうとしている革新的なエリアだ。

Chengdu Tianfu City Landscape

中国四川省成都市中央近郊・天府新区のランドスケープデザイン。Image via Sasaki Associates

天府新区は、中国四川省成都市中央近郊に位置する。西は雄大な山々、東は丘に囲まれ、古くから集落の平野として知られるフラットな成都平野と異なり、新区はより山に近い、起伏に富んだエリアだ。総面積は173ヘクタール、東京ディズニーランド3個分以上の広さを持つ。元々は農用地で、長年にわたる農業と適切な森林管理不足のために、景観と生態系の回復が必要となっていた。

そこで新区は、開発の機会を活用して地方固有の景観を再解釈し、生態学的で本格的な没入型景観の設計をしようと計画した。2014年には、内地の先端産業の発展と国際的・自然環境を重視した国際的新型都市モデルを推進する地区に制定された。ランドスケープデザインは、ボストンと上海に拠点を持つデザインスタジオSasaki associatesが担当し、第一段階として全体の10分の1ほどの土地の施工が2019年10月に完了した。

ランドスケープは、成都市の元からある豊かな山の隆起や池など、現地の自然の魅力を生かし、よりその魅力を感じられるようにデザインされている。地区の動植物の生態系や環境を保護するとともに、住居者や訪れた人々が騒がしい都会から離れ、安らげるような工夫も、随所に凝らされている。

現代型製造業のより大きな発展と、持続可能な都市を目指す天府新区の目標を表すかのように、現地で大量に産出される赤色砂岩を用いて建造された壁は、すぐ近くの成都市の渋滞から人々への目隠しの役割を果たす。使用された砂岩には廃棄用瓦礫も含まれる。また、地理情報システムを利用して、天府地区に起こりうる様々な状況を想定した上で、水や路面などの造形が行われている。

Stone Wall

現地で大量に産出される赤色砂岩を用いて建造された壁。Image via Sasaki Associates

土地には、山の稜線と河口に流れ込む2つの支流によって、北と南に流域をわけるデザインがなされている。子供たちが自然や、アウトドアの遊びにより親しめるように、山、陸、川辺それぞれの自然の特色を生かした3つのゾーンが設定されている。山側には、有機的な曲線を描く小道や、山の形を利用したハイキングやサイクリングロード、キャンプ場、動物と遊べる公園など、様々なアウトドア活動用の場所が用意されている。

もちろん、様々な遊具も建造されている。その中でも目を引くのは、雲の形をしたユニークな遊具だ。横25メートル、高さ13メートルのこの巨大な遊具はネットの中で、子供たちが歩いたり寝転んだりできるようになっている。

“The Cloud” on the Hill Adventure Park

雲の形をした遊具が目を引く。Image via Sasaki Associates

“The Cloud” on the Hill Adventure Park

遊具の中で、子供たちが歩いたり寝転んだりできる。Image via Sasaki Associates

その他、川辺のゾーンには川や池の中を歩けるプール、陸のゾーンには迷路のようになった公園などもあり、一日中豊かな自然を満喫できるようになっている。

このランドスケープデザインの中に、伝統的な中国庭園の要素が全て揃っているのも心憎い。見た目は全く違うように見えるものの中にも連綿と伝統が根付いている。現代版桃源郷の建造を、今後も楽しみにしていよう。

【参照サイト】Sasaki Associates
【参照サイト】国務院 四川天府新区を認可(人民網日本語版)

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