「ペットボトル」という言葉の由来になっている、ポリエチレンテレフタレート(PET)。アメリカの国立再生可能エネルギー研究所によると、世界では毎年8,200万トン以上のPETが生産されている(※1)。
廃棄されたPETは自然界で分解されないと考えられていたが、その通説を一部覆したのが、PETを分解する細菌こと「イデオネラ・サカイエンシス」を発見したという、2016年の論文だ。日本の研究チームによる発見で、話題となった。
同研究チームは、イデオネラ・サカイエンシスがどうやってPETを分解するのかも解析し、「PETase」と「MHETase」という2種類の酵素が、PETを好んで分解することを突き止めた。
そして2022年4月、アメリカのテキサス大学オースティン校の研究者が、機械学習モデルを活用しながらPETaseに変異を起こし、「FAST-PETase」という酵素を作ったと発表した。
FAST-PETaseという名前は、「functional, active, stable and tolerant PETase(機能的かつ活性的で、安定性と耐性のあるPETase)」の頭文字をとっている。
機械学習とは、機械(コンピューター)がデータから規則性や判断基準を学習し、それに基づき未知のものを予測、判断する技術を指す。機械学習の研究初期には、機械が「学習」する点が注目されていたが、近年では学習に基づいて「予測」する点が注目されるようになっている。
テキサス大学オースティン校の研究者らによると、機械学習モデルが、PETを低温で分解する酵素の変異を「予測」したという。
その結果作られたFAST-PETaseは、PETを50℃未満で分解することができる。また、FAST-PETaseを使って約50種類のPET製品を分解したところ、ほぼすべてが1週間以内に分解されたそうだ。
研究に使われた機械学習モデルがどのようなものなのか、気になる人が多いだろう。研究者らは、「MutCompute」というサイトでモデルを公開している。学術機関に所属する人であれば、メールアドレスなどを登録して利用することができるそうだ。変異を3Dビジュアルで見せてくれる仕組みのようで、興味をそそられる。
PETを分解する酵素もすごいが、それを発見するために使われる分析技術の発展ぶりにも驚く。環境問題を解決するために、機械にもたくさん学んでもらいたい。
※1 Researchers Engineer Microorganisms To Tackle PET Plastic Pollution | News | NREL
【参照サイト】Plastic-eating Enzyme Could Eliminate Billions of Tons of Landfill Waste – UT News
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