日常の至るところで目にする標語、“スピードの出し過ぎに注意しましょう”。
法定速度以上のスピードを出していると、車やバイクが完全に止まるまでにより長い距離が必要になる。例えば、危険を感じてからブレーキを踏んだとして、100km/hなら27.8m、10km/hなら2.8m(※1)といった具合だ。
気づくのがちょっと遅れるだけで命に関わる事故にもなりかねないため、法定速度での運転が義務付けられている。しかし、内閣府によると、令和2年に発生した交通死亡事故のうち最高速度違反によるものは157件 で、全体の5.6%を占めたという(※2)。
ただ、わかってはいるもののついついアクセルを踏みすぎてしまって、違反切符を切られてしまったという苦い経験がある人もいるだろう。
「スピードの出し過ぎはよくない」ではなく、「スピードを守るといいことがある」。そんなアイデアで交通事故防止を呼びかけたのがスウェーデンのThe Speed Camera Lottery(スピードカメラくじ)だ。
スウェーデンの交通安全団体NTFと自動車大手フォルクスワーゲンが、道路に設置したカメラでスピードを守っている車を撮影し、制限速度を守っていた運転者からランダムに選ばれた人に賞金が贈られた。
このアイデアは2010年9月にストックホルムで初めて試験実施され、その後スウェーデンの5都市でも行われた。ストックホルムで3日間行われた実験では、期間中に24,857台の車を撮影。1人が2万スウェーデン・クローナ(当時約22万円)を獲得したほか、4人が1万クローナ(当時約11万円)に当選したという。
速度計の場所は運転手にわかるようになっており、車の平均速度は試験前の32km/hから25km/hに低下した。実際に走行した人からも「法定速度を守って、しかもお金も稼げる。完璧だね」と評判も上々だった。
オーストリアの通信社APPによると、2021年にFacebookのオーストリア人のコミュニティでThe Speed Camera Lotteryを見つけたという数千を超える投稿があったという(※3)。
“やめよう”や“変えよう”というメッセージが世界にあふれかえっているなか、ご褒美の3文字に心が動く人の心理をうまく利用したアイデア。もしかしたら気づかないところで、賞金を手にするチャンスをつかめるかもしれないというワクワク感も楽しい。
「法律を守ろう」「地球に優しくなろう」という漠然としたメッセージがいまいち響かないと感じているなら、行動に移した人にご褒美がある仕組みを加えてみてはいかがだろうか。
※1 最高速度違反による交通事故対策検討会 中間報告書
※2 令和3年版交通安全白書
※3 Sweden’s ‘speed camera lottery’ hit a red light years ago
【参照サイト】The Speed Camera Lottery – The Fun Theory
Edited by Kimika