クリエイティビティを取り戻す。廃材のアップサイクルDIYバー「Rinnebar」の哲学

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お財布。キーチェーン。蝶ネクタイ。私たちが普段から何気なく身につけているこれらの製品を、あなたは自分自身の手でつくる自信はあるだろうか。

もし自信がないとすれば、それはあなたにモノづくりの能力がないのではなく、自らが持っていたクリエイティビティをいつの間にか忘れてしまっただけかもしれない。

普段モノづくりに関わる経験がない人に、簡単な廃材アップサイクル体験を通じて「クリエイティブ・コンフィデンス(自分の創造性に対する自信)」を取り戻すきっかけをくれるのが、東京都台東区、新御徒町にある「Rinnebar(以下、リンネバー)」だ。

リンネバーを一言で表すならば、「お酒やソフトドリンクを飲みながら、友人や家族、一人でも気軽に廃材のアップサイクル体験が楽しめる大人のエンタメスポット」。米国・ポートランドのDIYカルチャーに刺激を受けて帰国したオーナーの小島幸代さんが、社会活動家を支援するMistletoeに融資をお願いしたり、クラウドファンディングを通じて資金を集めたりして、2020年2月に立ち上げた。

内壁から家具、照明までいたるところにアップサイクルのアイデアが散りばめられたお洒落な店内には、日本各地から届く色とりどりの廃材やアップサイクル品が所狭しと並べられており、いるだけでワクワクする気持ちがこみ上げてくる。

リンネバーの店内。Photo by Masato Sezawa.

廃棄物の削減に貢献しつつ、地域につながりをもたらし、人々の意識や行動変容につながるユニークな体験を提供しているリンネバーは、すでに多くのメディアからも注目を集めている。その優れたサービスデザインの背景には、どのような哲学があるのだろうか。今回IDEAS FOR GOOD編集部では、リンネバーの小島さんにお話をお伺いしてきた。

リンネバーのオーナー・小島幸代さん。Photo by リンネバー

ピラミッド組織で、クリエイティブに働いてと言われても…。

美術大学を卒業後、東京のITベンチャー企業を経てクリエイティブに特化した外資系人材紹介会社に入社した小島さんは、その経験を活かして2012年に起業。デザインやクリエイティブに対する理解を強みに企業の人事コンサルティングを続けるなかで、一つの疑問にぶつかった。

当時は、テクノロジーの進化によって誰もが気軽に手元で動画が撮れるようになるなどクリエイティブの世界が少しずつ民主化され、デザイン思考などの考え方も普及し始めた頃だ。また、それに伴い一人一人もより自立した働き方が求められるようになっていた。しかし、依然として多くの企業は旧来型のピラミッド組織のまま。企業は社員に対して「自立して創造的に働いて欲しい」と言うものの、組織の中ではなかなか難しいと感じたのだ。

本当の意味で人々のクリエイティビティを引き出すためには、デザイナーやクリエイターといった一部の専門家だけではなく、もっといろんな人がモノづくりの楽しさを味わるような場所が必要かもしれない。そう考えていた小島さんは、たまたま友人がDIYカルチャーで有名な米国オレゴン州のポートランドに移住するという話を耳にし、自らも現地視察に行くことにした。

DIYのまち・ポートランドで出会った衝撃

初めてポートランドを訪れた小島さんは、現地で多くの衝撃を受けることになる。

小島さん「ポートランドは自由で大らかで、寛容性が高いなと感じたのが最初の印象でした。朝の10時に着いて、ホテルのチェックインまでにお昼を食べようと思ってダウンタウンまで行ってみたら、大手のお店はほとんど見かけず、かわいらしいコーヒーショップやカフェみたいなのがあって。その一つに入ると、”Hi Sweetie”と席を案内されて、すごく嬉しそうに受け入れてくれて(笑)。その後、2週間ぐらい滞在していたのですが、その印象が崩れることはなかったのです」

米国オレゴン州・ポートランド。Photo by Shutterstock

「それはなぜかというと、ポートランドは小商いが盛んなまちなので、一人一人が自分の好きなことをやっていて、カフェもモノづくりのお店も『私が好きなものを買ってくれてありがとう』という気持ちがすごくあるのですね。それで、受け取った側も嬉しくなってしまうみたいな雰囲気があって」

たしかに、料理であれモノであれ、自ら創ったものの価値を誰かが認めてくれて、買ってくれるというのは嬉しいものだ。また、自営業者にとってはその売上が生活に直結するわけだから、冷たく接するのではなく温かく受け入れるのは合理的な選択でもある。その意味で、小商いのまちというのは人に優しいまちと言えるのかもしれない。

何気ない交流が生まれるDIYバー

こうしたポートランドのエコシステムについて調べるうちに小島さんが辿り着いたのが、お酒を楽しみながらDIYを楽しめる「DIY BAR」だった。

ポートランド・DIYバーで、製作に打ち込む小島さん。Photo by リンネバー

小島さん「DIY BARにはツーリストもいれば街の人たちも遊びに来ていました。ポートランドは人口60万人ぐらいの街でその中に70以上の醸造所があるのですが、DIY BARでもビールを飲みながら、モノづくりをするのです。そこですごく面白かったのは、隣のお姉さんが話しかけてくるんです。隣の人とも道具の貸し借りとか作ったものを『いいよね』とか言い合いながら、何気ない話をできるというのがすごく楽しくて、印象に残っていますね」

仲間とお酒を楽しむ「BAR(酒場)」という入口の設計は、人々がDIYやモノづくりに関わるハードルを大きく下げる。地元の人々や観光客に対して、楽しい時間の提供を通じて自然と環境によりよい行動へのきっかけを与えるDIY BARの体験デザインは、サステナブルな暮らしを人々に浸透させていくための仕掛けとしてもとても参考になる。

“廃材”を”欲しいもの”に変えるクリエイティブ・リユース・センター

DIY BARを含めて30ヵ所以上のスポットをめぐるなかで、もう一つ小島さんが印象的だったと語るのが、クリエイティブ・リユース・センター「SCRAP(スクラップ)」だ。

SCRAPは、1998年にポートランドの公立学校の先生たちが始めた取り組みだ。新しい子供たちが入ってくるたびに絵具や図工の素材などが新しく買われ、大きくなるとすぐに使われなくなるという消費のサイクルを問題視した先生たちが、教室の一つを廃材や不用品をストックしておく場所にした。すると、行き場のない資材がどんどんと溜まってきたため、1年後の1999年にNPO法人化し、それらを地域の人に販売するクリエイティブ・リユース・センターを立ち上げたのだという。それから寄付や購入者なども増えて、現在では全米4か所に展開しているそうだ。小島さんは、SCRAPの魅力をこう話す。

ポートランド・SCRAPの店内の様子 Photo by リンネバー

「SCRAPは店舗の販売だけで売上の7割方が回っています。なぜそんな運用ができるのかというと、ボランティアに入ってみると分かるのですが、単純な陳列ではなく、廃材が売れるようにすごく工夫して楽しい演出をしているのですね。働いている人も買いに来る人も、持ってくる人もみんな楽しそうで。そこにすごく刺激を受けて、日本でもやりたいなと思ってしまったのです(笑)」

楽しそうに働く SCRAPのスタッフと共に一枚。Photo by リンネバー。

SCRAPの活動に感銘を受けた小島さんは、日本に帰国後、持ち前の行動力を活かしてさっそく同じことを始めようと動き出した。しかし、すぐに壁にぶつかったという。

「友人などに聞いても『いいね』とは言ってくれるものの、『ごみみたいなものを子供たちに触らせても大丈夫なのかしら』みたいな感じで、何に活かされるか分からない状態で何かを持ってきもらうというのがなかなか難しかったんですね」

「子供にとっては素材なのかごみなのかの判別が難しいと思うし、それだけでもクリエイティブなのですが、親が『ごみ』と判断してしまっているという状態にはくじけましたね(笑)」

日本でクリエイティブ・リユース・センターの仕組みを理解してもらうにはまだ少し早いかもしれない。そう感じた小島さんは、まず先に子どもではなく大人のモノに対する見方を変えようと考えた。そこでポートランドのDIY BARを参考に立ち上げたのがリンネバーなのだ。

ポートランドのSCRAPで販売されている、素材キット SCRAP TO GO KIT。色別に分け、テニスボールの容器に入れるだけで、お洒落な工作キットになる。Photo by リンネバー

人にも環境にもプラスをもたらすリンネバーのサービスデザイン

まずは大人に「不用品からでも工夫すればすごく面白いものができる」ということを知って欲しい。その目的を実現するべく、リンネバーには、様々な仕掛けが施されている。

一つ目は、やはり何と言っても魅力的な店内の雰囲気だ。シェアハウスの1F部分をリノベーションして作られた店舗は、建材から家具までアップサイクルのオンパレードで、その遊び心が訪れるもののクリエイティビティを刺激する。アップサイクル体験に使う素材だけではなく、日本や世界各地のアップサイクル品も販売されており、立ち寄るだけでもおすすめだ。

Photo by リンネバー

二つ目は、リンネバーの最大のポイントでもある、お酒やソフトドリンクを飲みながら楽しく廃材のアップサイクルに取り組めるという体験だ。来店しても必ずしもモノづくりをする必要はなく、ただお酒を飲んだり、小島さんやスタッフとの会話を楽しんだりするだけでもよい。

Photo by リンネバー

そして三つ目は、モノづくりが全くの初心者の人でも安心してアップサイクルに取り組める工夫だ。リンネバーには、ドリンクメニューだけではなくアップサイクル体験のメニューと作り方ガイドも用意されている。獣害駆除された鹿などの革を使ってつくるキーチェーン、洋服などの端切れ生地を使って作る蝶ネクタイや小銭入れ、建築の端材を使って作る木の人形など、複数のメニューから自分の作りたいものを選ぶことができ、一つ一つのメニューに対して写真つきの分かりやすい作り方ガイドが用意されている。

Photo by リンネバー

説明書を読みながら自分を信じて黙々と作り続けるもよし。小島さんやスタッフに教えを請いながら、会話も楽しみつつ作るもよし。どんなスタイルも尊重し、適度な距離で接してくれるのがリンネバーの魅力だ。さらに、アップサイクル体験で使用する道具についても細心の配慮が施されている。

小島さん「危険なものを扱わないようにするというのがバーとしてのルールです。お酒を飲みながらドリルとかを使うと危ないですよね(笑)。なので、カッターナイフも使いませんし、アイロンも別場所で使えるようにするなど、怪我をしないように配慮しています」

気になる素材はどのように集めているのだろうか?小島さんによると、オープンして最初の頃は自分たちの家にあるものや家族などから不用品を集めていたものの、2年経った今では各方面から毎日のように継続的に寄付が送られてくるようになっているという。

リンネバーに届く廃材。Photo by リンネバー

さらに、リンネバーでは、福祉作業所で牛乳パックなどを原料として作られたペーパーを活版印刷の体験用素材として使えるようにしたり、障がいを持つ子どもたちの絵が描かれた画用紙をそのまま紙袋の素材として活用したりするなど、自然と包摂的な循環が生まれるデザインが設計されている。リンネバーというシステムの価値は、店舗の中だけではなく素材の提供者も含めた一つの生態系の中で成り立っており、店舗はあくまでそのインターフェースに過ぎない。

気軽さ。楽しさ。優しさ。これらの要素が融合し、誰かのいらないものが誰かの宝物へと生まれ変わり、そのプロセスを通じて人々が自身のクリエイティビティを取り戻していく。素材の循環と人々の意識変容が同時に起こるのが、リンネバーという空間なのだ。

クリエイティブ・コンフィデンスを取り戻す

小島さんは、人事コンサルティングの仕事をしているときから一貫して変わらないのは、人々が持つクリエイティビティを開放したいという思いだ。

小島さん「人材の仕事を始めたとき、本当はこういうことやりたいけど、食べるためには自分の技術や知識でやっていかないといけないという人が多かったのです。自分の世界観を吐き出すことを止めている人たちがいっぱいいて。自分の創造力が解放されるとか、もっと豊かになることが自分の手から生まれるという感覚をみんなに持ってもらいたいなと」

そのうえで小島さんが大事にしているのが、リンネバーのようにリアルな空間で素材に触れたり人と交わったりする中で得られる身体性を伴ったつながりの感覚だ。

「テクノロジーが進化したことで、どうしても身体的に遠くなってしまっている人たちが多いですよね。でも、やっぱり人心地(ひとごこち)がするというか、素材にも、道具にも、一緒にいる人にも誰かの影響があるので、そのストーリーとか意味を伝えることによって安心できて、創造力も開放できるという連鎖が生まれるようにしたら、自信もつくのかなと思うのです」

photo by リンネバー

寄付された素材や、道具の裏にある人々の想いをリアルに受け取り、アップサイクルを体験することで、私たちは自然と素材や道具が辿ってきたストーリーの一部に組み込まれることになる。そうすることで、私たちはその後も続いていくストーリーを語るうえで欠かせない登場人物となり、その連鎖するつながりの中で立ち現れる自分の存在価値というものが、安心感と自信をもたらしてくれる。クリエイティブ・コンフィデンスを取り戻すとは、そうしたモノや人との豊かなつながりの中で自らの価値や可能性を再発見するということなのかもしれない。

また、小島さんは、リンネバーを訪れる人々が実際にアップサイクル体験を通じて変化していく姿を目の当たりにしているという。

小島さん「来てくれた人が、作っているときはもう無心になって集中してやっているのですが、出来たあとは『こうだった』『こう思った』などいろいろ話したりしながら濃密な時間を過ごすのです。すると、帰り際にはみんな世界が違って見えるみたいになっていて。明日から家の中をチェックしてみるとか、タンブラーや水筒を持って歩いてみようとか。あとは、服などがどういうプロセスで作られているのかを立ち止まって考えるようになるのです」

リンネバーに行くことで持ち帰れるのは、自分の手で作り上げた愛着の湧くアップサイクル品だけではない。世界に対する新たな眼差しだ。みんなが廃棄物や無駄だと思っているものにも、実は新たな価値があるかもしれない。そう思いながら街の景色や自分の部屋を見渡してみると、とたんに世界は可能性とワクワクに満ちた場所になる。

その意味で、一人一人が自らのクリエイティビティを取り戻し、見逃されている価値を発見する力を高めていくことは、多様な資源や人々の才能が循環するサーキュラーな未来を作るうえでも非常に重要だ。小島さんが看板に据える「Rinne(輪廻)」とは、まさにその結果として立ち現れる状態なのだろう。

Photo by リンネバー

廃材のワンダーランドをつくりたい

最後に、小島さんがリンネバーを通じて実現したい未来について聞いてみた。

小島さん「私たちの仲間と廃材ワンダーランドみたいに楽しめる場所にして、そこから生まれる想像力や新しい価値を、社会をもよくするために使っていきたいなと思います」

小島さんがポートランドで目にしたクリエイティブ・リユース・センターのような廃材のワンダーランドが日本で実現するまでには、まだ少し時間がかかるかもしれない。しかし、その原形はすでにリンネバーの中にある。

いま、リンネバーには、小島さんとともに新しい未来の景色を創り出したい仲間や若者が続々と集まってきている。少しでもリンネバーの活動に興味を持った方は、ぜひ一度お店を訪れてみて欲しい。小島さんがいつもの優しい笑顔で迎えてくれるはずだ。

【DIYバー】創造性を取り戻す 廃材でクラフトを楽しめるRinnebarとは?

▶Podcastはこちら:廃材のアップサイクルDIYバー『Rinnebar』から学ぶ、クリエイティビティを取り戻すヒント

【参照サイト】Rinnebar

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