米カリフォルニア州が、ミツバチを「魚の一種」と認定した理由

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今年5月、米国カリフォルニア州の裁判所で実に珍妙な判決が下された。なんとミツバチを魚の一種と認めるという内容だ。なんとも冗談のような話だが、もしかするとこれが人類の未来を救う判決として歴史に刻まれる可能性もある。

この裁判では、カリフォルニア州の環境保護団体が、同州の絶滅危惧種保護法(California Endangered Species Act、以下CESA)のもとでミツバチの一種であるマルハナバチを保護対象とするよう求めたもので、訴えを認める判決が下された。CESAでは「魚」を保護対象としており、さらには「魚には軟体生物、甲殻類、無脊椎動物が含まれる」と定義されていることから、無脊椎動物の一種であるマルハナバチは保護対象となるというわけだ。これにより農薬の使用等に制限が及ぶことを懸念する農業団体は、この判決を不服として控訴しており、現在も係争中である。

この裁判の背景にあるのは、2000年代になって世界各地で散見される飼育用ミツバチが突然いなくなる「蜂群崩壊症候群」だ。米国では2018年の1年間にミツバチの群れの40%が失踪したとの報告もある。いまだ科学的に特定されていないが、ダニやウイルス、ストレス、開発による草花の減少などと並んで農薬の使用が原因といわれている。

野菜や果物などの植物で植物の花粉が同一個体の花のめしべに受粉し,次世代の植物をつくる自家受粉を行うものは少数派で、約80%が鳥や昆虫など動物の媒介により受粉を行っている。こうした動物はポリネーター(受粉媒介者)と呼ばれるが、なかでも重要な役割を果たしているのがミツバチだ。実に世界の90%以上の作物種の受粉を行っている。

つまり、ミツバチの減少がこのまま続けば、農産物の収穫減少による経済損失、供給不足による物価上昇や、最悪の場合には世界的な食糧危機に陥るリスクが高まるということだ。

一般的に「魚」とは水生動物を指す。その意味で、本裁判における「ミツバチは魚」との環境保護団体の主張は「法の抜け穴」を突く奇策と言ってよいであろう。しかし、この奇策を認めるかどうかは裁判官の考え次第だ。純粋な法技術的な側面からこれを認めたのか、それとも、ミツバチの減少が社会にもたらす将来のリスクを考慮してのものなのか。もし後者だとすれば、「法は共生のための相互尊重のルールであり、国民の生活をより豊かにするために存在するもの」という法の役割を踏まえて、あえて「魚」の定義について拡大解釈を行ったのであろう。

2020年11月、生物学者による共同研究プロジェクトの成果として、世界各地のミツバチの生息状況をまとめた地図が初めて作製された。世界経済フォーラムは、これをミツバチの保護に向けた大きな一歩と高く評価している。

本稿で紹介した「ミツバチは魚の一種」かを問う米国カリフォルニア州の裁判の動向はもちろん、今後のミツバチ保護に向けた国際社会の取り組みにも注目だ。

【参照サイト】米国農務省林野部 Animal Polination
【参照サイト】世界経済フォーラム  世界中のミツバチの地図を作製するプロジェクトが、重要な理由とは?
【参照サイト】法務省 法やルールって、なぜ必要なんだろう?

Edited by Erika Tomiyama

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