”発酵”で社会を変えていく。国際認証B Corpを取得した「ファーメンステーション」が描く未来とは?

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お味噌やお醤油、納豆や日本酒など、私たちの食生活に身近な発酵食品。

乳酸菌や麹菌といった微生物が有機物を分解し、人間にとって有益な物質をつくり出す化学変化を「発酵」と呼んでいる。

日本では古来から、この発酵を生活に取り入れ、技術を磨きながら文化として受け継いできた。食品は発酵することで保存性が上がり、味わいや香りが増し、おまけに栄養価も高くなる……と、いいことづくしだ。抗生物質をはじめとした医薬品や洗剤、化粧品といった日用品に入れる成分を作る際にも、実は発酵技術が使われている。

発酵食品

そんな「発酵」を通して、社会を良くしようとしている会社がある。

「”発酵”を広い意味で捉えると、“何かが別の何かに変わって付加価値がつく”ことだと思っていて。それはモノだけではなく、人や社会も同じです」

そう語るのは、創業13年目のスタートアップである株式会社ファーメンステーション(以下、ファーメンステーション)の酒井里奈さん。同社は、独自の発酵技術を用いて岩手の休耕田やそこで作られるお米、企業の食品・飲料工場から排出される残渣(ざんさ)などの未利用資源を“価値のある何か”に変え、化粧品や日用品などの原料として活用する事業を行ってきた。

そして2022年3月、ファーメンステーションは公益性の高い企業に与えられる国際認証「B Corp(B Corporation)を取得。日本では未だ数社しか取得しておらず、審査も厳しいことで知られる認証を取得することで、社会性と事業性を両立する会社であることが公にも認められた。

「Fermenting a Renewable Society」をパーパスとして掲げ、発酵の力で循環を作り、社会をも醸そうとするファーメンステーション。B Corp取得で次のステージに入った今、彼女たちはどこへ向かおうとしているのか。代表の酒井さんに、話を聞いた。

酒井里奈さん

株式会社ファーメンステーション代表 酒井里奈さん

未利用資源を、余すところなく循環させる

学生時代から環境や社会問題に関心はあったが、具体的にやりたいことが見つからなかったという酒井さん。生ごみをバイオ燃料にする発酵技術をテレビを通して偶然知り、発酵の「ごみをごみではない何かにできる」という力に魅了された。

「これなら私にもできるかも」

当時勤務していた金融機関を退職し、東京農業大学で一から発酵技術を学んだ。在学中に出会った岩手県奥州市の米農家や自治体と共同実証の形で休耕田や耕作放棄された水田を活用したプロジェクトに取り組むこととなったのをきっかけに、ファーメンステーションを創業した。

同社は、岩手県の休耕田だった水田を再利用し育てたオーガニック米を発酵・蒸留させて作る、オーガニックライス・エタノールの製造・販売から事業をスタートした。10年以上かけて磨いた独自の技術は食品や飲料工場で出る残渣(ざんさ)などを活用したいという企業からも求められ、化粧品の原料として使うことはもちろん、化粧品や日用品などの商品のコンセプト企画から一緒に取り組むことも多い。

また、お米などの原料を発酵させたときの副産物である発酵粕(米もろみ粕)は化粧品の原料として販売するほか、岩手の養鶏農家や畜産農家で餌として活用。さらにその鶏糞や牛糞は畑や田んぼの肥料に……といったように、事業によって生まれる資源を余すところなく循環させるモデルを岩手の地域コミュニティと共に構築しているのだ。

ファーメンステーションの循環の図

「事業をはじめたころはお金がなかったので、どうにかして出てきたもの全てを活用できないかと考えていたら、自然とこうなったんですよね。また、岩手の農家の方々がそのつながりの中で勝手にどんどんと循環の輪を広げていってくれたというのもあって。人との出会いと流れで作られていったとも言えますね」

自社製品では、オーガニックのお米からできたエタノールで作った「お米でできたハンドスプレー」や、オーガニック玄米を麹と酵母で発酵させてできた「米もろみ粕」を配合した「奥州サボン」など、未利用資源を活用しながら機能性も妥協しない製品ラインナップを持つ。OEM・ODMでは、りんごの搾りかすや規格外の焼きおにぎりなど、未利用資源を使った数々のユニークな商品を発表し続けている。

fermenstation_product

ファーメンステーションのプロダクト。手に取りたくなるスタイリッシュなパッケージデザインにもこだわっている。

「『Fermenting a Renewable Society』というフレーズは会社を作ったタイミングで決めたもので、『未利用資源を発酵することで価値のあるモノ・コトに変え、循環していく世の中を作りたい』という想いを表しています。

発酵でモノやヒトの気持ちを「Renew」していくこと。それを地域のみなさんと一緒にやることで、社会も変えていくこと。私のやりたいことは、そのときから一貫して変わりません」

B Corp取得で、事業性と社会性の両立は可能だと世の中に証明する

そんなファーメンステーションは2022年3月、公益を優先する事業活動を行う企業に与えられる国際的な認証制度「B Corp」を取得。国内企業では11社目、J-Startup企業(※)では初の取得となる。

※ 経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援プログラム。

B Corp認証取得のためには、「ガバナンス」「従業員」「コミュニティ」「環境」「カスタマー」の5つの領域において、認証機関である「B Lab」が定めた「Bインパクトアセスメント」に回答し、80ポイント以上を獲得する必要がある。その厳格な審査を通ることは簡単ではないが、世界では5,487もの企業が認証を取得しており、欧米を中心にB Corpのコミュニティは広がっている。

「認証取得を目指しはじめたのは2021年のはじめ頃で、ちょうど事業としてもスタートアップとして伸ばしていこうと決断した時期でした。そんななか、ずっと私の心の中だけにとどめていた『事業性と社会性を両立するビジネスを作りたい』という想いをもっと世の中に伝えよう、と決めました。

また、ファーメンステーションは、事業を成長させながらきちんと社会性のことも考えている数少ない会社だと思っています。そんな私達が成功することは、『事業性と社会性は両立できる』ことの証明になると考えています。

それを対外的にきちんと説明していこうと思ったときにB Corpは最適ですし、アセスメントの内容もしっくりくると感じました」

蒸留ファーメンステーションの場合、B Corpからの質問自体にはそこまで違和感はなかったが、“思っていること”と“やっていること”をきちんと一致させること──エネルギー関連のデータや雇用のあり方、福利厚生の制度などのエビデンスを出していくという作業は大変だったと酒井さんは振り返る。

一方でそのプロセスは、会社にとってプラスにも働いたという。

「B Corpを取得するプロセスは、『ソーシャル面でのKPI』を持つことにつながりました。

“環境や社会に対する良いこと”は、事業のように損益計算書で表すことができないので、“どこがどう良いのか”が曖昧な場合も多いのです。しかし、B Corpアセスメントの200の質問に答え、細かい部分まで数値で出さなければいけないとなると、雰囲気ではごまかせなくなり、それが自分たちを律するきっかけになります。

また、社内でも本格的にソーシャルインパクトを測っていくことにしたので、B Corpの基準があると管理や改善もしやすくなりましたね。ガバナンスも環境も地域も、アセスメントに沿って進めて行けば勝手に良くなっていく──B Corpはそんな制度だと思います」

さらに、取得後には、B Corpの信頼度が高い欧州企業とビジネスをするうえでも大きなメリットを感じた。取得後に入ることができるB Corpコミュニティも、同じ思想を持ち成功している仲間に出会える貴重な場だという。

取得を目指した2021年からは、会社全体でよりソーシャルインパクトに連動したボーナス制度を開始。製造・管理・事業それぞれにおいて目標を設定し遂行しており、B Corpについての理解が深まったことで、どういったことを目指すべきかを考えることができた。

ファーメンステーションメンバー

ファーメンステーションのメンバー

モノができる過程を一緒に面白がれる人を増やしたい

ファーメンステーションのこれまでの取り組みを見ると、はじめは岩手の地域を、次は協業する企業を、といったように、その循環の輪を少しずつ広げ、着実に社会を変えていっているように感じられる。

しかし酒井さんは事業を10年以上続ける中で、「期待したほど世の中が動いていない」と感じているという。

「10年前に比べたらサステナブルやアップサイクルという言葉が浸透しているのは感じますが、やはり商談の際には機能性の部分だけに着目されることも多くて。もちろん機能性に自信はありますが、私たちはそれと同じぐらい、休耕田を活用していることや未利用資源から製品を作っているという部分を面白がって欲しいと思っているんですよね」

そこでファーメンステーションがB Corp取得発表と同時にローンチしたのが、発信を通してモノの買い手を循環に巻き込むための新たなプロジェクト「PUKUPOTA」だ。

「PUKUは発酵、POTAは蒸留の様子──価値がないと思われていたものが、発酵することによって新しい価値に変わる様子を表しているんです」

pukupota

PUKUPOTA Journal

このプロジェクトの目的は、ファーメンステーションが手がける製品を中心に、モノが作られる“過程の部分”から共有することで、モノの表面的な部分だけではなく、その裏にあるストーリーを面白がれる仲間を増やすこと。そして、結果的に買い物をひとつのソーシャルアクションに変えていくことだ。

「私たちが売っているのはモノですから、どうしてもそれ自体が主役になることが多いです。けれども、モノには、どこから来て、どう作られて、その後どうなっていくのか……といった『裏側のストーリー』が必ずあります。そのモノの周りにくっついてくる“知らないこと”を知る喜びや、“自分も循環の一部だ”と実感できることが、私は本当に楽しいと思うんです。ですから、私が感じるそういった“楽しさ”をみなさんにも共有するチャレンジをしたいのです。

そして、モノを買ったり使ったりする中で、『自分に良いことだけではなく、他にも何か面白いことが起きる』という喜びや、自分の行動が世の中に影響を与えるのだということを実感してもらいたい。そうすると、人生はきっと豊かになると思いますし、同時に環境も地域にも良いことが起きるようになると思っています」

人も社会も、発酵させる

取材終盤、酒井さんはまさにファーメンステーションが掲げるパーパス──「Fermenting a Renewable Society」を体現していると感じられるエピソードを話してくれた。

「”発酵”を広い意味で捉えると、“何かが別の何かに変わって付加価値がつく”ことだと思っていて。それはモノだけではなく、人や社会も同じです。

例えば、ファーメンステーションのステークホルダーは、大企業から官庁、農家、ブランドオーナー……といったように、面白いくらい多様なんです。そういった、言語も働き方も違う、お互いのことを知る機会がとても少ない人たちが集まって交流すると、新しいものが生まれて、まさに“発酵”するんです。

また、岩手の農家さんや地域の方の元には、私たちが毎年100人を超える大勢の人を国内外から連れて行きます。すると、外から人が来ることの少ない地域に多様性が生まれて、訪ねた人たちだけではなく、そこに住む人々の価値観も少しずつ変わっていくことがあります。これも“発酵”です。

そんな風に、出会うはずがなかった人たちが出会って新しいことが生まれるのを見るのは、とても楽しいですね」

モノからはじまって、人、そして社会をも発酵させるファーメンステーション。取材を通して、その発酵の力が今、世界にも広がっていこうとしているのが感じられた。

「PUKUPOTAを通してもっとたくさんの方々と仲間になり、みんなで“ごみ”を“ごみ”ではないものにしていきたい。そして、世界中どこに行っても、未利用資源が製品の中に入っている、という世の中にしていきたいですね」

ファーメンステーションのステークホルダー

岩手のステークホルダーと

【参照サイト】ファーメンステーション(公式)
【参照サイト】ファーメンステーション 公式オンラインストア
【参照サイト】PUKUPOTA Journal
【参照サイト】PUKUPUKU POTAPOTA(公式Instagram)
【参照サイト】ファーメンステーションのB Impact Score
【参照サイト】B Lab

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