東海地域に根付く「地場産業」。株式会社RWが再発掘する、サステナブルなものづくりのヒントとは

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近年、日本国内の製造業は深刻な状況にある。経済産業省の報告によると、ものづくりに関わる事業所数は約40万あった1989年と比べ、2017年には約半分にまで減少している。また、日本政府の調査によると、2021年における製造業の就業者数は約20年間で157万人減少し、65歳以上の高齢就業者は2002年と比ベて約2倍増加しているなど、後継者不足の問題も深刻だ。

こうした問題に対して、地方のものづくり産業をデザインの力で盛り上げようとしているのが、株式会社RWだ。RWは、陶磁器などの豊かなものづくりの歴史がありながら、他の地域と同じく産業の存続に困難を抱える東海地域を中心に活動する。今回は「地場産業を未来につなげ、豊かな文化を残す」を掲げるRW代表取締役の稲波伸行さんに、これまで地場産業に関わる中で見えてきた持続可能なものづくりのあり方について伺った。

話者プロフィール:稲波伸行(いなば・のぶゆき)

SimonCook1975年三重県菰野町生まれ。名古屋芸術大学美術学部デザイン科卒業。大学卒業後、フリーランスとして独立。デザイナーとして活動するだけでなく、流通会社の立ち上げや、地域コミュニティをつくるNPOの立ち上げにも参画。2008年RW創業。2012年より株式会社RWとして法人化。企業や事業の価値の再定義に伴走し、ミッション、ビジョンの構築や、新規事業の立ち上げ、事業の運用までをサポートする。

デザインの力で、地域のものづくりを直接消費者へ

その地域にある資源や人々を基点に展開される「地場産業」。2008年にRWを立ち上げ、名古屋を拠点に東海全域で活動する稲波さんは、地場産業が持続可能とは言い難い状況であることに違和感があったという。

「デザイン会社を立ち上げ、デザインや流通を通して地場産業を持続可能にしたいという気持ちでブランディングや商品開発に取り組んできました。例えば、2014年には山口陶器のオリジナルブランド『かもしか道具店』などのブランディングなどを手掛けています。地場産業の会社を根本的に強くするためにも、ただブランドを作るだけでなく、彼らの悩みをデザインでサポートしたいと思っています」

他にも、稲波さんが三重県桑名市の焼き海苔会社「百福」のブランディングを担当した際は、直接消費者に向けて販売する商品企画を手掛け、デザインを通して海苔の魅力を発信。さらに、東海地域の他の地場産業とも共創する中で、稲波さんはブランドの基盤作りに意識を向けていったという。

「ブランドを作るときに大切にしていることは、ブランドの『ミッション』と『ビジョン』の策定です。ブランドが形だけの存在にならず、意思と行動を決めながら未来へ向かっていくことを重要視してデザインの活動をしています」(※ミッションとは「企業の存在意義である使命」、ビジョンとは「そのミッションに基づいて考えられた展望」を示す。)

「百福のブランディングで気をつけたのは、これまでと異なる斬新な海苔の世界をつくることでした。現状経営が厳しいと言われる海苔の業界がこの苦しさを乗り越えるために、『百年先に海苔をつなげる』というミッションを掲げました。そして、その仲間づくりとして、若い世代に魅力的と思ってもらえるようなパッケージデザインにする工夫をしました」

コミュニティを通して「地場産業」を伝える

近年、減少傾向にある地場産業。そこで、新しい地場産業のあり方を模索しようと、稲波さんもサポートしているのが、交流拠点「かもしかビレッジ」だ。かもしかビレッジは、三重県菰野町の窯元・山口陶器が運営し、食堂や畑を運営しながら地域住民や企業の人々、県外からの訪問者が楽しめる場を展開している。

また、地場産業の魅力を伝えるプラットフォームである「こもガク」を通してまちづくり活動も行い、街の魅力を発信している。開催地の三重県菰野町は人口が4万人程度の小さな街だ。地域に特化したメディアは少ないため、こもガクでは事業者や住民が地場産業を知るきっかけとなるようなイベントが開催されている。

ものづくりと住民をつなげる「オープンファクトリー」

「ものづくり」だけでなく、「場づくり」にも注力している稲波さんは、実際の工房でのものづくりの様子を一般に公開するオープンファクトリーが地域の活力になると考えている。美濃焼の産地では約500社の陶磁器関連会社があるが、10年後にはその規模が3分の1になると予測されるほど高齢化が進んでいるという。

「地場産業の生産者さんたちの間では、『自分たちは下請けだ』という意識が染み付いていると感じます。しかし、そうした意識を脱し、新しいことをしないと、地場産業の存続は難しい。だからこそ、オープンファクトリーを通していろんな方に地域に根付く企業を見ていただく機会を作ることで、職人さんたちが自分たちのやっていることに自信を持つ機会を作りたいと思っているのです」

「また、類似している業界が隣接する産地だと『他社の人に自分たちの技術を真似されてしまう』と思われがちです。それゆえ、同じ業種であっても関係者同士の交流が少ないこともあります。僕たちは、事業者とともにオープンファクトリーを展開することで、関係者同士が知識・情報を交換することも可能にし、地域の産業のコミュニティも盛り上げていきたいと思っています」

「地場産業が好きな理由は、それが『仕事』『暮らし』と不可分の領域で、無理をせずに育ってきた産業だからです。地域の特色を生かしながら『働き、暮らし、糧を得る』というシンプルな生き方が地場産業にはあると思いますね。都会だと、ある分野に特化して、その中で仕事をすることが多いですが、製造から販売まで一貫して取り組まないと、ものづくりの全体像や『本質』が見えにくいと思っています。多くの人に地場産業を知ってもらいながら、自分自身も地域にもっと入り込んでいきたいです」

生産から消費までを地域の中で。過程を含むものづくりこそが地場産業の「資産」

これまでさまざまな業種の協働でブランディングから場づくりに至るまで取り組んできた稲葉さんは、ものづくりを地域の資産として伝承していけるよう、デザインを通した事業者とのコミュニケーションを大切にしているという。

「まず『デザイン』という部分だけではなく、ものづくりの全体像を見ることを意識しています。僕は、デザイナーはお客さまの手足、すなわちお客さまの意図を具現化していく存在であるべきだと思っています。デザイナーの意思だけが先行してしまうと、お客さま自身のこだわりやものづくりついて考える機会を損ねてしまうことにもなりかねません。生産者さんたちも含め『自分たちが作った』と胸を張って言ってもらえるようなものづくりをしたいなと思っています」

また、地場産業の存続に必要なのは、最終的に出来上がる「もの」だけでなく、ものづくりの「背景」であると稲波さんは話す。

「日本のものづくり、中でも伝統工芸は、物体的な『もの』として切り取られ、伝えられてしまうことが多いですが、地場産業はもっと『場所』に根ざしているものです。もともと地場産業は、その地域で取れる素材を使ったり、その人たちの生活を支えるために作っていたりしたものが産業として大きくなった背景があります。だからこそ、多くの人たちに現場に来てもらい、その土地の人や空気感、その中で育まれたものを体験してもらえれば、地場産業を『資産』だと実感してもらえる。そこで初めて地場産業がもっと価値のあるものになっていくのではないかなと思います」

地場産業が教えてくれる「サステナブルなものづくり」のヒント

生産から消費までサプライチェーン全体を通して地域に深く根ざした地場産業のあり方。稲波さんは、そのような地場産業にこそものづくりにおける「サステナビリティ」のヒントがあると話す。

「本来の地場産業は、材料の調達から消費に至るまでがほとんど同じ地域で完結しており、手が届く範囲でものづくりがされていました。だから、大切な原料は取りすぎないように工夫するし、お客さまの顔が見えているから彼らの声を聞きながらものづくりを磨いていけます。しかし現在は、グローバル化に伴ってものづくりの過程が分断されています。こうした状況でこそ、地場産業のようなものづくりのあり方にヒントを得て、ものづくりの始まりから終わりまでを意識することで、持続可能なものづくりにつなげていくことができるのではないでしょうか」

さらに、今後RWでは、ブランディングや商品開発だけでなく、地域が抱える社会課題の解決に向けてデザインに関する教育プロジェクトを展開していく予定だという。

「RWでは、デザインをもっと楽しく、もっと深く活用するために『イナバデザインスクール』を2022年4月に開校しました。地域の課題解決をするには、自分たちだけではなくたくさんの力で臨む必要があると思っています。だからこそ、日本全国のデザインを結集してコミュニティにし、『ここに来ればなんとかなる』と思えるような、ともに学び合える場にしたいです。いろんな人が出入りする『知恵の場』として社会課題を解決していきたいですね」

イナバデザインスクールにはすでに約25名が参加し、デザイナーや学生、行政職員やマスメディア、企業など様々な職種の方が集まり、デザインを探究している。イナバデザインスクールでは毎月2回ワークショップを開催しているので、気になる方はこちらから詳細を見ていただきたい。

編集後記

稲波さんから地場産業のお話を聞く中で、ものづくりの川上から川下に至るまで、全体像を捉えていく視点の重要性に強く共感した。筆者自身も、現在大学院で日本のシルクの文化を研究したり、実際にテキスタイルをはじめとしたものづくりの産地を訪問したりしている。そうした経験を通して、それぞれの工程に特化する分業システムであるがゆえに「もの」がどこから生まれ、どこへ行くのかが不明瞭になっていると思うようになった。

昨今アパレル産業をはじめ「サステナブル」なものづくりが注目されているが、まずは地域で何十、何百年もの間、育まれてきたものづくりに目を向けることも重要だ。そうして少しアンテナの向きを変えてみることで、実は日本文化にはたくさんの「サステナビリティ」が存在することに気づく。その気づきこそが、「日本」だからできる持続可能なものづくりの議論へとつながっていくのではないだろうか。

【参照サイト】株式会社RW
Edited by Megumi

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