イケアのイノベーションラボ「SPACE10」が取り組む、ユニークなプロジェクト7選

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IDEAS FOR GOODでは以前、「未来のファストフード」と称したイケアの昆虫バーガーや藻類でつくるホットドッグを紹介したことがある。正直、名前を聞いただけではとても美味しそうには思えないが、実は世界の食糧危機に対して食の選択肢を増やすという目的でつくられたもので、そのコンセプトは実にユニークだ。

いったい誰がこんな奇天烈なアイデアを考えたのだろう?この「未来のファストフード」を企画したデンマークのイノベーション施設 “SPACE10”を訪れ、施設のコンセプトや彼らの取り組むユニークなプロジェクトについて聞いてきた。

場所はコペンハーゲンにある、かつて精肉工場が多く集まっていた「ミート・パッキング地区」。こじゃれたカフェやレストランを通り過ぎると、白い建物が見えてくる。

SPACE10はアイデア発信地

Image via Nikolaj Thaning Rentzmann

SPACE10は、2015年にイケアがデンマークの首都コペンハーゲンに開設した「次世代の持続可能な生活を探求するラボ」だ。ラボというだけあって地下には研究施設があり、1階のスペースは誰にでも開かれたイベントや展示会が行われる。2階はオフィスだ。

魚介類の流通センターを改築してつくられたこのラボには、デザイナーやエンジニアなどバックグラウンドの違うさまざまなメンバーが集まり、食糧危機や気候変動、住宅不足といった社会の課題を解決するためのプロジェクトを日々進めている。

個室のミーティングルームやラウンジ、シェアキッチンもあり、十数人がランチを食べながら談笑する風景も見られた。

オフィス Image via Nikolaj Thaning Rentzmann

取材に協力してくれたシモン・キャスパーセン氏 Image via Kimika Tonuma

SPACE10のコミュニケーションディレクターであるシモン氏は、SPACE10のゴールを「デザインや建築を通して、人々がよりサステナブルな暮らしを送れるようになること」だと語る。

社会をよくするSPACE10の7つのプロジェクト

ここからは、シモン氏らの行うユニークなプロジェクトの中から7つをピックアップして紹介していこう。

01. コンテナが住居になる「村」
コンテナを住居に

Image via Niklas Adrian Vindelev

SPACE10は、コペンハーゲンの住宅不足問題に取り組むCPH Villageと共に、都市の使われていない土地を「小さな村」に変えるプロジェクトを実施した。

住民たちの「家」となるのは、輸送コンテナだ。これを組み合わせ、自由に切り離したり、リサイクルしたりできる簡易的で小さなアパートに改築した。特に若者やお金のない学生たちの住居としてはうってつけである。

CPH Villageは2020年までに、デンマーク国内外に10の「村」、または2,500軒の「家」を建てることを目標としている。デンマークでは、都市計画において新たなエリアを開拓できる法律が承認されたこともあり、今後はコペンハーゲン内にあるコンテナの調査や、テスト、さらにイベント開催などを検討しているようだ。

プロジェクトページ:CPH Village + SPACE10

02. 明日からのミートボール

Image via Lukas Renlund

冒頭でも紹介した、未来の食の選択肢を増やすプロジェクトだ。多くの人に愛されるイケアのミートボールを昆虫や藻類で作るほか、費用を抑えた人口肉や廃棄直前の食品で作られたミートボールなども開発している。

牛や豚の畜産が持続可能でないのならば、テクノロジーを使って自分たちで新たな食糧を生み出そう、という発想である。

プロジェクトページ:Tomorrow’s Meatball: A visual exploration of future foods

03. オーディオガイドがいつもそばに

オーディオガイド『Rost』は、装着した人の目に映るものをリアルタイムに音声で説明してくれるインターフェース。ポケットに入れたままでも作動し、利用者がどこに行っても情報を提供してくれる。まるで、一緒に歩く友人のようだ。

これにより、目が不自由な人でも、たとえば快適に買い物をしたり、街歩きをしたり、美術館や博物館を楽しんだりできる。動画では、利用者がスウェーデンのイケアミュージアムを探索するようすを映し出している。

プロジェクトページ:RÖST:Audio as an interface

04. クリーンエネルギーのガイドブック
クリーンエネルギーガイドブック

Image via Kasper Kristoffersen

従来のエネルギーからクリーンエネルギーへの転換することのポテンシャルを探る研究書『A Clean Energy Future』も忘れてはいけない。クリーンエネルギーには、私たちの生活を豊かにする可能性が秘められているかもしれないのだ。

ガイドブックにはストーリーや図、データや引用などが盛り込まれており、コミュニケーションやプレゼンテーションの参考文献としても使われる目的で作られている。

プロジェクトページ:A Clean Energy Future

05. 若者による若者のためのシェアリビング
セントラル・セント・マーチンズの学生たち

Image via Rory Gardiner

SPACE10は、都市のシェアハウスやシェアアパートといったプロジェクトにも積極的だ。英ロンドン芸術大学のカレッジの一つであるセントラル・セント・マーチンズの学生たちを招き、2030年までに革新的な5つのシェアスペースを設計するよう依頼した。

そこで学生たちが考案したのは「地域住民のための住宅サブスクリプションサービス」「インフラを活用した移動式住宅」「自給自足できるオフグリッドなシェアハウス」と、どれも面白そうなアイデアばかり。

都市人口の増加による住宅不足や、一人暮らしの孤独の解消のためにも、これからスペースのシェアはますます発展していくだろう。

プロジェクトページ:Central Saint Martins + SPACE10

06. オープンな室内農業システム

Image via Alona Vibe

『Grow Room』は、世界各地で食糧需要を満たすためにつくられた室内農業(都市型農業)システム。この球状の小さな農園プロジェクトの特徴は、ただ室内で野菜を育てることだけではない。すべての設計方法をオープンソースで公開していることだ。

Grow Roomがコペンハーゲンの建築フェスティバルで取り上げられた際には、アジアや南米など世界各国から、ぜひ次はわが国でエキシビションを開催してくれないか、という声が届いたという。

そこでSPACE10のメンバーは、それぞれの地域環境に合った形でGrow Roomを自作するのが最善だ、と設計方法を公開することにしたのだ。「この農園が海を渡る必要はない。自分の地域で作ればいい。その方が炭素も出なくていいだろ」とシモン氏が笑う。

プロジェクトページ:The Growroom: Exploring how cities can feed themselves / SPACE10 open sources the Growroom

07. “ドライバーレス”で移動するスペース
移動スペース

Image via SPACE10

SPACE10が2018年9月に始めたプロジェクトは、「移動するスペース」をテーマとしたリサーチだ。たとえば車輪がついて移動するオフィス、カフェ、ホテル、農場、ヘルスケア施設…… 毎日1時間半かかる通勤時間がもっと短くなればいいな、低所得層が住む地域にいながらでも医療にアクセスできたらいいな、などさまざまな願いを叶える革新的なアイデアである。

“未来のモビリティ”を追求するため、人が運転するのではなく自動運転車での移動を想定している。先日配信されたスマートフォン用アプリでは、自分に合った「移動するスペース」を見つけられるそうだ。

プロジェクトページ:Spaces on Wheels: Exploring a Driverless Future

未来ってこんなにも自由

SPACE10を見学し、プロジェクト内容を聞く中で筆者が感じたのは、「こんなに自由でいいんだ」ということ。一見奇天烈で実現できるかわからないようなアイデアも、仲間たちと話し合い、クリエイティブなプロジェクトへと磨いていく。

SPACE10

Image via Nikolaj Rhode

シモン氏の案内で訪れた地下1階には、巨大な3Dプリンターやものづくりのための工具の数々。やりたいと思ったことは、一通り試しているようだ。

3Dプリンター

Image via Nikolaj Thaning

“何でもアリ。それが私たちの社会に役立つものならば。” 住まいや食べ物など、私たちに身近なテーマをもっと持続可能にするために研究しつづけるSPACE10。北欧のラボから発信された彼らのアイデアは、日本の私たちが抱える課題を解決するヒントにもなるだろう。SPACE10は、今日も未来の選択肢を増やしてくれている。

(※画像提供:SPACE10