近年、国内外の企業や団体が活動の中で意識している「サーキュラーエコノミー」。皆さんは「サーキュラーファッション」と言われる衣類を身に纏ったことはあるだろうか。
ファッション業界は衣類の製造に大量の資源を使うことから「汚染産業」として認識されてきた。そのため、現在も例えばポリエステルなど石油由来の素材をバイオ素材に代替するなど、資源循環への意識が高まっている。しかし、こうした移行は専門知識や技術を要するだけに、一つの企業や団体だけで行うのは困難だ。
その点で注目すべきなのが古くから特定のモノを生み出してきた「産地」だ。長い歴史の中で同業種が集まり、実践を繰り返してきた「産地」だからこそ、同じ志を持ってサーキュラーエコノミーを推進できるのではないか。
そうした意識から、「Remade in Japan」という岡山県の産地連携リサイクルデニムプロジェクトが2022年秋に立ち上げられた。実はこのプロジェクト、2020年からジーンズのサーキュラーファッションを提案してきた「land down under」の発起人・池上慶行さんが手がけるものだ。今回の記事では、池上さんがサーキュラーエコノミーを推進する中で発見した難しさ、そしてそれを克服するために設立された「Remade in Japan」プロジェクトへの想いに迫った。
話者プロフィール:池上慶行(いけがみ・よしゆき)
1993年生まれ。東京都出身。2019年に倉敷市児島に移住。2020年に「land down under」を設立。サーキュラーエコノミーの考え方を取り入れ、変化を楽しみながら永く楽しめるデザインと、リサイクルのしやすさを設計に落とし込んだ循環する服づくりを探求。2022年には、ものづくりを感じ考えるオンラインコミュニティ「bethink_」を立ち上げ、運営している。
サーキュラーエコノミーを、産地から体現する
デニムの産地として国際的に有名な岡山県倉敷市。倉敷市から井原市にまたがる「備中地区」は、デニムをはじめ、学生服や作業服、帆布など多岐にわたる繊維産業が盛んだ。
今回、産地全体で取り組むデニムのリサイクルプロジェクト「Remade in Japan」では、倉敷の5つのブランドが共同で一般家庭からデニム製品を回収したあと、反毛というリサイクル技術(回収した衣類を裁断し、綿状にしてから新たに糸を作る技術)を使って再び製品を生産・販売する。
このプロジェクトの特徴は、岡山県という地域に絞ってデニム製品を回収する点だ。全国規模でなく、まずは岡山県という地域に限定して取り組む背景には、産地の中で資源循環のプラットフォームを築いていきたいという池上さんの思いがある。
「全国からデニム製品を集めるのは効率的ではありますが、広範囲で回収するよりも地域の中で資源を循環させていく方が、輸送のコストも抑えられ、費用面・環境面で良いのではないかと考えています」
これまで岡山県で「land down under」というデニムブランドを展開してきた池上さんは、当初からブランドが掲げてきた「サーキュラーエコノミー」を体現させるため、岡山を軸にものづくりにおける地域活性化を目指した本プロジェクトの構想を重ねてきたという。
「一つのブランドだけでサーキュラーエコノミーを完結させず、他の組織とも共創するやり方を模索したい気持ちがありました。企業一社だけだと、費用面や技術面など負担が大きくなります。だからこそ、持続的な仕組みを作るには、自分のブランドだけでやるのではなく、岡山県倉敷市にあるデニムブランドが一丸となる必要があるなと思ったのです」
「実際に、資源循環に関心があるものの、自分だけでは実現できないと思っていたメンバーは多くいます。何社も集まれば、発注量を増やせるので最終的に費用を抑えることにもつながり、サーキュラーエコノミーの実現に近づく。そうした思いを持って、今回プロジェクトをスタートしました」
循環のためのつながりを作るのが難しい。現場のジレンマ
今回のプロジェクトに参加するブランドは、大小問わず多岐にわたっている。幅広く生産者たちが集い産地規模で取り組むリサイクルプラットフォームは、これまで全国的に見ても類を見ないという。
「これまで産地でものづくりをする上で、取引先同士のつながりはありましたが、業態を越えたつながりはあまりありませんでした。また、同じデニム製品を扱うがゆえに『ライバル感覚』のようなものが残っていることもありました」
こうした協働型のプラットフォームの背景には、より柔軟な形でサーキュラーエコノミーを実践していきたいという池上さんの思いがある。
「国内外でリサイクルの取り組みがたくさん生まれている中で、『このリサイクル生地はこの企業のもの』といったような前提が生じていると感じています。一社が技術を囲い込んでしまうと、企業間の競争意識が芽生えていくことにつながります。サーキュラーエコノミーという『循環』する社会を目指しているのに、結果として特定の企業だけが担い手となる世界になってしまうことに、僕自身違和感がありました。だからこそ、ある意味で無色透明のような、いつでも誰でも関われるような形でプラットフォームを作りたいという気持ちになったのです」
モノも、ヒトも循環する仕組みを目指して
こうしたプロジェクトを立ち上げるにあたって池上さんが大切にしたのは、プラットフォームに参画する人たちとのコミュニケーションだ。協力者を募った際は、環境問題などの「課題解決」を軸にはせず、産地の中で資源循環を作り出すことに対するワクワク感を伝えていったという。
「『環境に良いことをやりましょう』と言うよりも、反毛の技術やリサイクルの仕組みの面白さを基点に、さまざまな人を巻き込んでいきました。僕自身も、単に資源のリサイクルをしたいのではなく、モノやヒトの循環の仕組みづくりをしたい気持ちがありました」
こうしたプラットフォームを構築するにあたって、池上さんが目指したいのは物質的なリサイクルではなく、モノとヒトとがともに循環する仕組みだという。
「サーキュラーエコノミーがこのプロジェクトの基盤にある以上、リサイクルは最終手段だと思っています。状態が良ければリユースしたり、リメイクしたりして、それでも利活用が難しければリサイクルする、という流れが理想的です。そして、単に物質としてのリサイクルを進めるだけでなく、そこに生産者や消費者の『より良いものづくりをしたい・応援したい』といった意思が上乗せされることで、より活力のある仕組みになると思うのです」
本プロジェクトで製造する製品は、その後もう一度リサイクルしようと思ったときもリサイクルできるようにすべく、解きやすい縫い方にするなど工夫を施している。
「一度リサイクル素材を作って終わってしまうことが多い中で、何度でも資源が回り続けるようなデザインを考えていきたいです。デザインのみならず、今後も循環するものづくりに対して生産者とともに意識を変えていけたらと思っています。リサイクル素材で全てのものを作ることは難しいかもしれませんが、部分的にでもリサイクル素材を取り入れるなど選択肢を増やすことはできる。生地を作るという過程を仲間と一緒に共有できるプラットフォームを目指していきます」
こうしたプラットフォーム作りに並行して、池上さんは倉敷周辺のアパレル業界に関わる若者向けに交流会や勉強会も実施し、産地のサーキュラーエコノミーをともに支え合う仲間を作っていきたいという。
「これまで岡山ではアパレル業界に携わる若者のつながりが無かったので、セーフティーネットとしてのコミュニティを作っています。結果として、そうしたつながりが産地の循環の仕組みを支える土台になると思います。コミュニティを通して、アパレル業界の若者たちの意識も、循環の仕組み作りに向けて変えていきたいです」
編集後記
これまで筆者自身も資源循環に取り組む団体やブランドを取材してきた。企業同士のコラボレーションは目にすることもあるが、「産地」というより大きな規模で実践する事例はなかなか見たことがない。近年、日本全体で産地を起点としたものづくりの技術の継承が危惧されている中で、サステナビリティやサーキュラーエコノミーという時代の潮流を踏まえながら、これまでのものづくりのあり方を見直すことは急務であろう。今回取材した取り組みは、今後全国的に持続可能なものづくりを推進していく上で重要なケースとなるはずだ。
【参照サイト】Remade in Japan
【参照サイト】land down under
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Edited by Megumi