「あなたにとっての“HOME(ホーム・故郷)”とは何ですか?」
いま、そんな問いを投げかけられたら、何と答えるだろう。
自分が生まれ育った場所?出身地ではないが住んでいる場所?はたまた、たまにしか訪れないが、行くと安心できる場所……?私たち一人ひとりにとって、“HOME”が意味するものは異なるだろう。
では、もう一つ。「もし、いまその“HOME”がなくなってしまうとしたら……?」
2022年10月、オランダで開催されたダッチ・デザインウィーク。このデザインイベントで、とある作品が展示された。飾られたのは、ウクライナの伝統衣装とテーブルウェア。タイトルは、「Home(Land). UKRAINE.」だ。作品は、ウクライナとオランダのアーティストのコラボレーションによって生み出された。
ウクライナ先祖代々の知恵と最先端の技術。一見対極にあるように見える2つを掛け合わせてつくられた作品たちは、HOMEの意味やウクライナ人(○○人)としてのアイデンティティについて問いかけている。
展示物のひとつは、ウクライナの伝統的な羽織りである「Gunya」。もともと羊飼いたちが着ていたこのコートは、自然から身を守るものでありながら、魔除けの役割も果たしていたという。展示では、Gunyaを通して、「ローカルな素材」「自然の要素」「他の種(動物)との共創」について伝えている。
▲伝統的な織りでは、一本一本自然由来の素材を使って染められていたが、現代では化学薬品による染色が一般的になった。そんななか、毛糸とヘンプで織られたこのコートは、ウクライナの伝統料理であるボルシチの余りを用いて染められた。
それから、もう一つの作品が、テーブルウェアだ。大切な人と囲む食卓、受け継がれる家庭の味……家での団らんに欠かせないテーブルウェアは、HOMEや帰属意識を感じるシンボル。ここでは人、戦争、土地についてのストーリーを語り継ぐものとして展示されている。
▲2014年のクリミア併合によって多くの海水塩を失ったウクライナ。ドンバスの塩鉱での採掘も難しいなか、忘れ去られていたウクライナ西部ドロホビチの塩鉱の存在を思い出し、復活させた。そのエピソードに感動したオランダの作家が、オランダ伝統の塩焼成の手法で「喪失と希望」をテーマにつくった作品。
世界中には、何らかの理由で故郷を離れた人々が多く存在する。そのなかには、自ら望んだわけではなく、離れざるを得なかった人たちも少なくない。その原因は、戦争や紛争、迫害などさまざま。また、ますます深刻化する気候変動によって、今後はより多くの人々が避難民として他の国や地域に逃れるとされている。
不安定な世界情勢下、明日どうなるかわからない状況のなかで私たちは日々生きている。とりわけ自然災害の多い日本では、いつ自分たちがHOMEを離れざるを得なくなるかわからない。だけど、だからこそ、自分にとってのHOMEでの毎日を大切に生きること、そして一人ひとりのHOMEが守られる世界にすることが大事な気がしている。
「あなたにとってのHOMEを守るために、できることは何ですか?」