オーストリアの人口第2の都市であるグラーツの劇場に現れた、白い電話ボックス。中に入ってみると、日本で見かける公衆電話と同じように、電話機と分厚い電話帳が置いてある。しかし、家族や友人と通話することはできないようだ。
通話ができない電話ボックス──では一体、この電話ボックスでは何ができるのか。
これは、個人が抱えるヘイト感情にどう対処するべきかアドバイスを聞くことができる、電話ボックス型のホットラインだ。ボックス内の電話帳には、さまざまな種類のヘイト感情とそれに対応する電話番号がリストアップされ、電話をかけると、今期劇場で上映される作品から引用されたメッセージを聞くことができる。
電話帳には「芽キャベツが嫌い」「待っているのがイヤ」といった思わず笑ってしまうものから、「家族が嫌い」といった重みのあるものまで、さまざまなヘイト感情が掲載されている。それぞれのヘイト感情に合わせて聞くことができるアドバイスは、すべて劇場に所属するメンバーによって読み上げられたものだ。
電話ボックスを設置したのは、Graz National Theatre(グラーツ・ナショナル・シアター)だ。演出家であり、この取り組みの企画者であるElena Bakirovaはインタビューに対し、電話ボックスはパンデミックにおける嫌悪感情の高まりへの対応であるとしたうえで、次のように話している。
「本来、電話は遠く離れて会えない人同士をつなぐ純粋なコミュニケーションを生むものであって、怒りをぶつける機械ではない。ヘイトに対するホットラインを通じて、人々が立ち止まって考え直すきっかけを作りたい」
差別や偏見の被害を受けた人が利用できるホットラインは見かける一方で、ヘイト感情を抱く人自身が自分の感情と向き合うためのホットラインは、これまであまり見られなかった取り組みだろう。
差別や偏見はとても複雑な問題だ。だからこそ、この電話ボックスのようにユーモアを交えながら、より多様な立場の人が自分の考えを見つめ直す機会をつくることが、差別や偏見の予防につながるのではないだろうか。
【参照サイト】Schauspielhaus Graz opens “Hotline against hate” | A literary phone booth at the playhouse
【参照サイト】Phone box in Graz turned into a hotline against hate