デジタル空間のジェンダー格差を埋める、Web3時代の女性ロールモデルたち

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メタバースブロックチェーン、暗号資産など、新しいデジタル世界の形成をリードするWeb3企業が注目を集めている。

ボストンコンサルティングの調査では、Web3企業の創業者に占める女性の割合は非常に少なく、創業チームのうち、1人でも女性が含まれているチームはわずか13%、女性だけで構成されたチームは3%にとどまるという。同じく男女の不均衡が問題視されるSTEM(科学・技術・工学・数学)分野の従業員全体における女性の割合が33%、技術職の女性が25%であることと比較すると、Web3の方がその差が大きいことが明らかになった。

デジタル技術の活用で人々の生活が大きく変わる一方で、世界ではインターネットに接続できていない37億人の多くが、貧しいか、教育を受ける機会が少ないか、あるいは、地方の女性・女児という報告もある(※1)

国連女性機関の報告書によると、女性がデジタル世界から排除されたことにより、過去10年間で中低所得国の国内総生産が1兆ドル減少し、このままではその損失は2025年までに1兆5千億ドルにまで増加すると予測する(※2)

テクノロジーとイノベーションの世界のジェンダー平等を促進することは、世界の人口の半分を占める女性のニーズを満たす発明や、サービスの開発につながり、多くの経済的機会を生むことになるのは明白であるにもかかわらず、なぜジェンダーギャップが埋まらないのだろうか。

女性がテクノロジー職に就くことを躊躇する原因の1つは、業界に女性が少なく、ロールモデルがいないことだという(※3)。米国の社会活動家、マリアン・ライト・エーデルマンの言葉「見えないものにはなれない」が有名だが、私たちは知らないものにはなれないし、見えないものは目指せない。

本記事では、デジタル活用におけるジェンダー平等の課題と、ロールモデルになるであろうこれからのWeb3の世界を変える11人の女性を紹介する。

新しいインターネット時代(Web3)の女性ロールモデル11人

NEARプロトコルの開発を支援するスイスの非営利団体NEAR Foundationが、「Women in Web3 Changemakers 2022」として、これからのWeb3の世界を変える11人の女性を発表した。180人の応募者の中から一般投票により選出された女性の評価基準は、インクルージョン、インフルエンス、イノベーションを推進する活動をしていることだ。

以下に紹介する「Women in Web3 Changemakers 2022」ファイナリスト11人とその活動は、女性やマイノリティーと呼ばれる人々が、新しいインターネット時代に取り残されることのないよう道筋を作ってくれている。

1. Amy Soon氏(アメリカ)

女性・ノンバイナリー向け Web3コミュニティー「Blu3 DAO(ブルースリー ダオ)」創設者。200名以上の女性のWen3ハッカソン参加をスポンサーし、多数の優勝者を輩出。

Blu3 DAO

Image via Blu3 DAO

2. Bianca Lopes氏(デンマーク)

テクノロジーのアイデンティティ提唱者、投資家。倫理観、アイデンティティ、包括性といった価値と、テクノロジーを融合し、活用するアプローチの仕方を、企業や政府機関にアドバイスする。

3. Deborah Ojengbede氏(ナイジェリア)

アフリカのブロックチェーン普及を推進する 「AFEN Blockchain (アフエン ブロックチェーン)」CEO。Web3インフラ企業のAFENは、NFTと教育を通じ、アフリカにおけるブロックチェーンを促進することで、アフリカ経済の発展と新たな機会創出を目指す。

4. Erikan Obotetukudo氏(アメリカ)

黒人・アフリカ系の暗号資産スタートアップに特化したベンチャーキャピタル 「Audacity (オーダシティ)」創設者。20カ国にわたる黒人・アフリカ人のWeb3系企業創設者、投資家、アーティストのコミュニティーである「Crypto for Black Economic Empowerment(クリプトフォーブラックエコノミックエンパワーメント)」のCEOも務める。

Audacity

Image via Audacity

5. Lauren Ingram氏(イギリス)

女性による女性のためのWeb3コミュニティー「Women of Web3(ウーマン オブ ウェブスリー)」創設者。世界中の女性が、NFTの売買、暗号資産の取引、ブロックチェーンスタートアップへの参加、メタバースの構築、DAOへの参加など、新しいWeb3の世界で活躍することを支援。

6. Medha Parlikar氏(アメリカ)

ブロックチェーンの事業化を支援する「Casperlabs (キャスパーラボ)」CTO、共同創設者。テクノロジーのキャリアは30年以上。ダボス会議、LAブロックチェーン・サミット、NFT.LAなどの世界的な会議で講演する、ブロックチェーンにおける女性トップリーダーの一人。

7. Oluchi Enebeli氏(ナイジェリア)

ナイジェリアの初の女性ブロックチェーン技術者、15,000人以上が参加するアフリカの女性Web3コミュニティー「Web3Ladies (ウェブ スリー レディーズ)」創設者。コミュニティーでは、技術分野に進出したばかりの女性向けのWeb2トレーニングをはじめ、スマートコントラクトの開発、プロダクトデザイン、プロダクトマネージメントなどのプログラムを通し、Web3への女性の進出を支援する。

Web3Ladies

Image via Web3Ladies

8. Sian Morson氏(アメリカ)

文化に焦点を当てたNFTアート・音楽メディア「TheBlkChain (ザ ブリクチェーン)」創設者、Web3のエスニックマイノリティーのクリエーターをサポート。

9. Tammy Kahn氏(アメリカ)

Web3のサイバーセキュリティープラットフォーム「FYEO(フォーユアアイズオンリー)」創設者。デジタルマーケティング、Eコマースで15年のキャリアを積んだ後、ソーシャルメディアマーケティング管理プラットフォームMarketMeSuite(マーケットミースイート)を創設、ビジネスを売却後、ブロックチェーンプロジェクトに特化したセキュリティー企業を創設。

10. Tricia Wang氏(カザフスタン)

公平で包括的な社会の実現のために暗号資産を推進するクリプトリサーチ・デザインラボ「CRADL」創設者、世界経済フォーラムのグローバル・フューチャー・データ・カウンシルのメンバー。

公平なシステム設計の普及活動をするテクノロジー社会学者。「Thick Data」と呼ばれる方法で、データサイエンスとAIに人間の声を取り入れたパイオニア。中国のインターネット・ネットワーク情報センター(CNNIC)で勤務した初の西洋人学者。

CRDL

Image via CRDL

11. Wendy Diamond氏(アメリカ)

Web3インパクト投資の LDP Ventures 創設者、グローバルな女性のための経済的自立サポートネットワーク Women’s Entrepreneurship Day Organization (WEDO)/#ChooseWOMEN創設者。国際的に有名な社会起業家、インパクト投資家、動物擁護者、人道主義者、ベストセラー作家、TVパーソナリティー。WEDOでは、144か国の大学と提携し、女性の社会進出の支援と貧困問題解決に取り組む。

女性のデジタルでの活躍を阻むオンラインセーフティの問題

デジタルに接続できる女性においても、大きな問題はオンラインでのハラスメントだ。51カ国を対象とした調査では、女性の38%がオンラインでのハラスメントを受けた経験があるといい、その対象になることを恐れてデジタルツールやオンラインコンテンツの利用を控えてしまう女児や女性も多い(※2)

オンラインのハラスメントはジェンダーを問わず問題になっているが、特に女児や有色人種、少数民族の女性はその標的となる可能性が高いという。政治家、ジャーナリスト、環境・人権活動家など、オンラインで自分の意見を発信する女性達も激しい中傷や脅迫、身の危険を感じるような攻撃を受けるリスクが高くなるという(※4)

各国が、オンラインハラスメント対策の法規制を整備しているところだが、急速に進むデジタル化に先んじて、誰もが安全にテクノロジーの恩恵を受けることができる世界を作ることは急務である。

世界で活躍する女性ロールモデルを知ることが鍵

今回のファイナリストはアメリカ出身ばかりではあるが、男性主体のデジタルの世界で、ハラスメントや、ロールモデルやメンターをふくめた同性の同僚が少ないことなど、自分が体験した問題を解決しようと行動に出た女性たちだ。

日本の女性も行動に出ている。女子やジェンダーマイノリティにIT・STEM分野の学習機会の提供をし就業機会につなげる活動をする「Waffle(ワッフル)」、女性がエンジニアにキャリアシフトするためのリスキリング支援の「Ms.Engineer(ミズエンジニア)」は、どちらも女性が設立した組織だ。

日本では、2030年には最大で79万人のIT人材が不足すると予測されている(※5)。政府は、2022年4月に「女性デジタル人材育成プラン」を策定し、今後3年間かけて、女性の基礎的なデジタルリテラシー獲得支援から高スキルの専門人材の育成をするなど、ジェンダーギャップ解消によるデジタル人材不足を解決しようとしている(※6)

テクノロジー業界は、リモートワークと相性が良く、高単価で仕事量の調整がしやすいなど、働く女性に適した側面が多い。世界で活躍する女性ロールモデルを知ることで、Web3に興味を持ち、未来のジェンダー平等なデジタル世界をイメージすることが、はじめの一歩になるだろう。

※1UN Woman「Learn the facts: Rural women and girls」
※2UN Woman「THE GENDER SNAPSHOT 2022」
※1Girls who code
※3Kaspersky「Women in tech report」
※4欧州評議会「No space for violence against women and girls in the digital world」
※5経済産業省「IT 人材需給に関する調査」
※6内閣府男女共同参画局「女性デジタル人材育成プラン」

【参照サイト】UN Women(国連女性機関)
【参照サイト】BCG 「Web3 Already Has a Gender Diversity Problem」
【参照サイト】NEAR「Women in Web3 Changemakers 2022」

Edited by Erika Tomiyama

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