【デンマーク特集#3】「気づいたら、分かってた」が理想。ニールセン北村さんに聞く、デンマーク流・民主主義の学び方

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異なる意見を持つ人々どうしで、じっくりと対話しながら答えを探す―そんな「民主主義的な問題解決の方法」を学べる場所がデンマークのフォルケホイスコーレだ。フォルケホイスコーレは17歳以上ならだれでも入学できる全寮制の学校で、それぞれの興味を追求するため年齢も国籍も異なる生徒たちが集まっている。授業はディスカッションが中心で、教室でも寮でもとにかく「対話すること」が大切にされている。暮らしのなかで生徒一人ひとりの「社会」観や「民主主義」観を育むスタイルは、言葉の通りまさに「民衆の・高等学校(=フォルケ・ホイスコーレ)」といえるだろう。

2月末、デンマーク・ロラン島にて、「食」を切り口にフォルケホイスコーレ教育を体験するプログラム「New Nordic Cuisine(ニュー・ノルディック・キュイジーヌ)」が開催された。前回の記事「新しい」北欧料理のワークショップから、食がもたらす豊かさを知るでは5日間のプログラム概要について紹介したが、今回の記事では「企画側の意図」や「プログラムに込められた想い」に焦点を当てていく。

編集部は、プログラム企画者の1人、2001年からロラン島に移住した日本人・ニールセン北村朋子さんにお話を伺うことができた。彼女はロラン島のサステナブルな地域づくりに感銘を受け、地域の再生エネルギー施策や農業、教育について世界中に発信することを決意。以来、島の知名度向上や島外地域との関係づくりに大きく貢献し続けてきた。同僚からは「ロラン島の歴史は、朋子“前”と朋子“後”に分けて説明できる」との声が上がるほどだ。

彼女がプログラムを通して伝えたかったこととは?そして、デンマーク流の学び方の可能性とは?

話者プロフィール:ニールセン北村朋子(にーるせん・きたむら・ともこ)

2001年よりロラン島在住のソーシャルコーディネーター・アドバイザー、ジャーナリスト。「地球と人にうれしい」ライフスタイルと社会づくりをテーマに、企業や団体のコンサルティングを行う。国家どうしの公的会談の際には通訳も務める。宮城県東松島市の復興支援のため、現地での取材や記事執筆、及び復興イベントの企画を継続して行っている。現在、ロラン島でのフォルケホイスコーレ開設プロジェクトに尽力。著書に『ロラン島のエコ・チャレンジ〜デンマーク発、自然エネルギー100%の島』がある。

「食」という切り口から、暮らしを考える

Q:今回の「New Nordic Cuisine」プログラム開催のきっかけは?

「2020年までにロラン島に常設フォルケホイスコーレを開校する」ことを目指したプロジェクトを進めており、2017年にプロジェクトを始めてから毎年夏にパイロットプログラムを行ってきました。ですが、冬には開催したことがなかったので、今年は挑戦してみよう、ということで企画が立ち上がりました。

夏期プログラムでは、大人数が泊まれる寄宿舎つきの施設を借りて開催していたのですが、今回の開催場所に選んだのは、ロラン島にあるホテル「Hotel Saxkjøbing」です。このホテルのオーナーは、レストランnomaの創業者の1人であるクラウス・マイヤー。彼は普段から「レストランだけではなく、一般の食卓をもっと良くしたい」という想いを抱いていたそうなんですね。そこで、彼とコラボレーションしたプログラムを「Hotel Saxkjøbing」で行うことでニュー・ノルディック・キュイジーヌ(新北欧料理)のことを紹介できるのではないかと思ったんです。

プログラムを行ったホテル

写真左:ホテル外観。右上:皆で自由に集えるヒュッゲスペース。右下:ワークショップで作った料理の一つ。

Q:なぜ、食をテーマに選んだのか?

デンマークやロラン島を訪問してくれる人のタイプは、2通りに分けることができると思うんですね。一つは北欧の食文化に興味があり、ニュー・ノルディック・キュイジーヌの概念やレストランnomaを既に知っているタイプ。もう一つは、ヒュッゲや北欧デザインなどには興味があるけれども、食文化についてはよく知らないというタイプです。

ロラン島を訪れる人たちには、環境やエネルギーに興味があるという方が多いので、食文化について学びに来る人はそう多くないという印象を受けます。ですが、それってすごくもったいないと思うんですね。

従来、プロのシェフがつくる料理では「見栄えの悪いものは捨てる」のが当たり前でした。ですが、ニュー・ノルディック・キュイジーヌの起こりとなった一流レストランnomaの場合、食材の茎や葉などの部分まであますことなく使いきって、美しく美味しい料理をつくっています。輸入食材より地域のものを、選ぶならオーガニックな方を、植物や家畜といった私たちにいのちを与えてくれるものにも配慮するなど……「料理にも持続可能性を」という新しいスタンダードをリードする面白い動きなんです。だからこそ、まずは概念を知ってほしいという想いでプログラムを企画しました。

ワークショップでつくった料理の一つ

ワークショップでつくった料理の一つ。見た目にも美しい。

ニュー・ノルディック・キュイジーヌは、レストランだけのものではありません。家庭で料理をする人にはもちろん、自炊をしない人にだって関係があることなんですよ。料理につかう材料をそろえるにしても、出来合いのものを買うにしても「自分が何を食べるか」という選択は、個々人の基準によるもの。だからこそ「何をよいとするか」という基準が大切です。

近くでとれた食材を、その地で食べる。手を加えるのは最低限にして、素材そのものを味わう。人と語りながらおいしく食べる。……そんなプログラムを通して「本当のおいしさ」や「よい料理」とは何かということを改めて見直し、それぞれができるレベルで自分の食生活をよりよくするきっかけになればいいなと思っていました。

シンプルな調理法で

調味料を加えるのは工程の最後のほう。素材の味を引き立てるため、味見をしながら塩やビネガーを少量ずつ加える

身近なテーマから、民主主義のあり方を考える

Q:企画側として特にこだわった点は?

今回のプログラムで、単に料理のレシピを教えたかったのではありません。食というテーマを通して「人と一緒に良い社会をつくる」ということについて考えてもらうのが、大きなテーマでした。

例えばプログラム内の料理セッションでは、料理が得意な生徒も、包丁をほとんど持ったことがないという生徒も、シェフでさえもフラットに参加するシステムです。

最低限のレシピだけが与えられ、絶対的な答えや手本がない状態で、進むべき道筋を明らかにしていく。そのために皆で徹底的に対話する。やるべきことが割り出せたら、できる人ができる部分を担当、協力しながら同じ目標を目指す。……これができなければ、その日の食事にありつくことはできませんでした。「料理をつくる」という一連のプロセスを通じて、民主主義をうまくまわす「体験」をしていた、ということですね。

学校ごとに扱う内容は違いますが、このように一つのテーマを通じて「民主主義のあり方」を考えるのは、どこのフォルケホイスコーレでも同じ大きな目標なんです。その意味でも、フォルケホイスコーレは「民主主義の学校」と言われます。

民主主義と自分とのつながりが分からない状態では、それがいかに大切なものかを知るのは難しいことです。子どもたちが自然に「民主主義ってこんなもの」ということを体得してくれたら、それが一番です。「こういうことができるのも社会のシステムがいい方向に働いているからだ」「こういう社会の仕組みなら、もっとこういうことができる」というような「気づきを得られる機会」をつくることが重要だと考えています。だからこそ、民主主義を学ぶことを目的とするのではなく、身近な題材から考えてみる、ということが必要なんですね。

ニールセン北村朋子さん

フォルケホイスコーレの開設予定地にて、ニールセン北村朋子さん

デンマークでは実際に、フォルケホイスコーレで学んだ人が政治家となり、国を変えていったんです。「良い民主主義とは何か」を普段から考える機会と、考えたことをほかの人とじっくり話せる場があり、そこで学んだ人が少しずつ増えていく……そうすれば、実際に世の中を変えられるのだということを表すパワフルな例ですよね。

現状、常設のフォルケホイスコーレを持たないロラン島にも「どう良い社会をつくるか」についていつでも語れる拠点を作りたいと思い、プロジェクトを続けています。

大切なのは、皆が納得できる「最上の妥協点」を探すこと

Q:目指す未来について

フォルケホイスコーレを、ロラン島と日本、そして世界をつなぐプラットフォームにしたいという気持ちが強くあるんです。ロラン島のサマープログラムには日本からの参加者も多くいるのですが、その理由の一つに、私という「日本人の発信者がいるから」ということがあるのではないかと思うんですね。ですが、そればかりが理由ではいけないと思っていて……「昔はトモコっていう人がいたから、ロラン島にも日本人が来ていたよね」と言われるような状況にはしたくないんです。

常設のフォルケホイスコーレができれば、留学先の候補として挙げてもらえるようになるかもしれません。教育機関だからこそ、海外から人を受け入れる仕組みが「制度として」整っていくという期待もできますね。そういう意味でも、フォルケホイスコーレが日本とロランのつながりが保たれるためのハブになるのではないか、という期待を持っています。

Q:ニールセンさんが考えるフォルケホイスコーレの価値とは?

フォルケホイスコーレという場所では、誰からも否定されません。先生が生徒へ教えるという一方通行の関係ではなく、皆がフラットな立場で向き合います。日本でもそういう雰囲気のなかで、社会について気軽に話しあえる場がつくれるといいなと思うんですよね。

一人ひとりが大切な存在だから、誰もが自分の意見を持てるのは当たり前のこと。違う人間なのだから意見がぶつかるのも当たり前。大切なのは「じゃあどうやってコンセンサスをとっていこうか?」ということ。皆が納得できる「最上の妥協点」を探すこと、それが一番大切なことなんです。デンマークの人たちは、ルールを「自分の自由を制限するもの」ではなく「発想を膨らませていくためのベースライン」として捉えているように感じます。「~してはいけない」というルールがあったら「じゃあ、それ以外のものならいいんだよね?」「どういう方法ならできるかな?」というふうに考えようとする人が多いんですね。考え方を少しだけ変えてみるだけで、世界は変わるんですよ。

ロラン島の空に浮かぶ飛行機雲

ルールは、良いアイディアを考えるための枠組み。

とはいっても、そのような考え方ができるためには「自分は社会を構成するひとりの大切な存在で、暮らしたい社会に変えていく権利があるし、実際に変えていくことができる」という自己効力感が必要です。だからこそ、日本の子どもたちにも「否定されずに自分の意見を気兼ねなく言える経験」をたくさんしてほしいと思います。

教育体制を今すぐに変えるのは難しい。ですが、学校とは違う形で「民主主義をきちんと考え、語れる場」をつくることはできます。そういう場で学び、「今のままだといけないな」と思う人が少しずつ増えていけば―デンマークでそうだったように―「根本から教育を変えていこう」という動きだって生まれていくはずです。

ニールセン北村朋子さんとニコライ・フロストさん

ニールセン北村朋子さん(左)朋子さんとともにプロジェクトを進めるプロジェクト・マネージャーのニコライ・フロストさん(右)

編集後記

自分という存在の重要さを知ること―それこそが、すべての始まりなのではないか、と感じさせられた。「自分は、この社会を構成する一員なのだ」という感覚や「自分の意見を聞いてもらうことができる」という他者への信頼感がなければ、社会を良くしようなんて思えるはずがない。自分を大切に想い、自らの心身の安全を確保できなければ、同じ時代を生きる人たちにやさしい目を向けることもできないだろう。

「自分の意見は大切、相手の意見も同じように大切」そう気づけたとき、そして「互いにハッピーになるにはどうしたらいい?」という疑問が浮かぶようになったとき―遠いものだったはずの民主主義が、自分ゴトになる。

教育体制を今すぐに変えることは難しいかもしれないが、「否定しない/されない関係づくり」や「制限を活かす発想の仕方」などをヒントにして身の回りに小さな変化を起こすことはできる。

「じゃあ、どうする?」
答えはあなたの中にある。

【参照サイト】ニールセン北村朋子 公式サイト
【関連ページ】フォルケホイスコーレとは・意味
【関連ページ】ヒュッゲとは・意味

※8月にはロラン島にて再びフォルケホイスコーレのサマープログラムを開催する予定。政治や経済、エコビレッジ、五感など、今回よりもより多角的な視点から「食」を切り取り「自分たちのこれから」について考えるプログラムを企画中とのことだ。