政治の祭典とは?デンマークの小さな島から民主主義を考える

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2011年から、毎年6月になるとデンマークのボーンホルム島ではThe People’s Meeting “Folkemødet”と呼ばれる民主主義的政治の祭典が4日間開催されている。デンマークの首相から政治家、一般企業、難民やホームレス支援等のNGO団体、教育団体、生協、軍、警察まで、各種様々な団体が出展し、異なる政治的意見を持つ10万人以上の人が訪れる非常に大きなイベントだ。

それぞれの団体の活動の話やカジュアルなディベートに参加し、政治家や社会活動家の人から直接話を聞き、議論する。これをきっかけに各政党の政策の詳細、難民、ホームレス、マイノリティ、LGBT、環境問題など多種多様な方面へと知識の世界が広がる。

デンマークの政治の祭典

Folkemøde stand

このイベントの特徴のひとつは、政治家ないしは各団体の話を直接聞ける点だ。逆に、私たち一般人の生の声を政治家やほかの一般人に届けることもできる。普段は自分と遠い存在の政治家とオープンスペースで面と向かって座り、同じ目線で直接訴えることができる貴重な機会となっている。

たとえば、イラン出身の難民の方は政治家に自分たちの現状を正しく伝えようとここに来た。いまは特定の活動をしていない人でも、ほかの人からインスピレーションを受けたり、世界で起きていることを知ったりするだけでも楽しめる。社会ともっと繋がれるようにと、高校生くらいの子からお年寄りまで、さまざまな動機でみんなこの小さな島に集まる。

デンマークの政治の祭典

Winni Grosboell Hovedscenen

デンマークの政治の祭典

Gaester Allinge Havn

堅く聞こえるかもしれない政治の祭典だが、実際にはまったくそんなことはない。堅い話だけではなく、青空と海と木々に囲まれた立地、無料の食べ物・飲み物、ジャズやストリート音楽・ダンスなどエンターテイメント要素も強く、「楽しむ」ことも忘れてはいない。お祭りのように臨場感あふれる会場で、多様な意見を持つ人が集まり話し歩み寄り、楽しみながら皆で民主主義へのエネルギーを高めあう場だ。

デンマークの政治の祭典

Domen og Gaester

一方の日本では、「政治」や「民主主義」を自分の生活の一部として能動的に考える場面がどれほどあるだろうか。内閣府の調査によると、日本の30歳以下の若者の約半数が政治に関心を持っており、韓国、アメリカ、英国、ドイツ、フランス、スウェーデンの諸外国と比較しても、決して低いわけではない。しかし、社会をよりよくするため政策決定に関与したいと考える割合は3〜4割と、諸外国と比較して低くなっている。

また、政策や制度について専門家同士で議論し決定するのが良いと考える人の割合も、諸外国が約6割を超えているなかで日本は3割強ほどしかない。政治に関心はあるが、自分たちで積極的に行動し変えていこうとする風潮が弱い。かといって、政治家にも任せておけず、政治への思いが宙に浮いている状態だ。

さらに、日本では家族や友人との会話で政治や堅い社会問題の話をするのはタブーと考えられがちである。しかし、デンマークではそんなことはなく、普段の会話の中で社会の問題について話すことはごく自然なことだ。学校や日々の生活のなかで、答えのない問いに対して自分自身で考えさせられる教育を受け、目上の人が決めたことを遵守することが必ずしもよいことではなく、必要であればクリエイティブに改善し、小さいことでも自分たちで変えられるという成功体験を積んでいることが、大きな違いではないかと感じる。日本においても「政治」や「民主主義」は、遠い話でも歴史上の話でもない。自分の問題として捉えるには、一人ひとりが社会を変えれると実感できる機会が必要ではないだろうか。

政治の祭典は、すべての思想を持つ政党や市民が集まり、お互いの意見を交換し合い、0か100ではなく妥協点を探る良い機会となっている。少数派の意見も取り入れようとするデンマークの民主主義を象徴する重要な場だ。

そして、参加者一人ひとりがお互いに影響を与えながら、自分だったらどのように社会と関われるかを考える余韻を残し、翌年の夏まで閉会となる。政治の祭典を日本の夏の風物詩にも加えられたら、政治や民主主義をもっと身近で人間味のあるものとして考えられるようになるのかもしれない。

【参照サイト】Folkemødet
【参照サイト】内閣府
(※画像提供:Joshua Tree Photography

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