毎年、4月に世界各地でファッション業界の変革に関するイベント「Fashion Revolution Week(以下、ファッションレボリューションウィーク)」が開かれる。今年、筆者の住むウガンダで開催されたのは、持続可能なファッションを現地の人自らが考えるイベント「Kwetu Kwanza 2023」だ。
2日間にわたったイベントでは、ウガンダで躍進するデザイナーによるショーケース、伝統布や技法を使用したワークショップ、パネルディスカッション、映画上映、ポップアップなどが開かれ、300名近くが参加した。
先進国から安い古着が行き着く、アフリカ地域。そこでファッションはどのように変化し、どのような意味を果たすのか。イベントを通して見えてきたウガンダの伝統と誇り、そしてあふれ出るクリエイティブな表現力を、ファッション産業の背景とともに伝えていきたい。
世界的に盛り上がるファッション業界変革のムーブメント
「ファッションレボリューションウィーク」が行なわれるようになったきっかけは、2013年の「ラナプラザの悲劇」だ。
2013年4月23日、バングラデシュのラナプラザという商業ビルが突如として崩壊、1,100名以上が死亡し、2,400名以上が負傷した。違法に増築されたこのビルには、世界的アパレルブランドの下請け縫製工場が多数詰め込まれ、5,000人以上の労働者が劣悪な環境で働かされていた。この事故をきっかけに、ファッション業界の変革を求めるムーブメント「ファッションレボリューション」が世界的に広まり、「ラナプラザの悲劇」にちなんだ毎年4月に行われるようになったのが「ファッションレボリューションウィーク」だ。
ファッションレボリューションでは、消費者は「#WhoMademyClothes(私の服は誰が作ったの?)」と企業に問いかけ、生産者は「#IMadethisClothes(私がこの洋服を作った)」とSNSで発信する。ファッションが人や環境に与える影響を知った上で、調達・生産・消費、すべての段階における透明性を高めることが、このキャンペーンの指針だ。
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アフリカで変わりゆくファッション
「アフリカに住む人々は、給料の3割をファッションや髪のためにつぎ込む」といわれている。初めてアフリカを訪れた人は、街の人々がまとうアフリカ布のカラフルさに衝撃を受けるだろう。アフリカにおいて、ファッションは身近なトピックであり、多くの人の関心でもある。
しかし近年、先進国で使われなくなった大量のファストファッションがアフリカの国々に安価に流入し、人々のファッションに変化が起きている。
ウガンダのオウィノマーケットには、毎日、大量の古着が押し寄せてくる。日本や中国、欧州から安価に輸入されたこれらの古着は、卸業者を通して商売人が100枚の数量から購入し、およそ30円から販売される。古着の価格は、アフリカ布を購入しテイラーに仕立ててもらうのと比べると50分の1だ。穴やほつれがあるものもあるが、アフリカ布を購入するよりはるかに安いため、人々はこれらの古着を大量に購入、そして大量に廃棄、または、タンスの肥やしとなる現状がある。
新品の洋服においても、アフリカならではの事象が起きている。トレンドの洋服が販売されているマーケットを歩いていると、多くのお店で同じか、または似た系統の洋服が売られている。仕入れ先はどれも中国のファストファッションブランドだ。アフリカの若者の間では、古着と比べて質が良いとして「Made in China」の洋服が人気なのだ。
こういった背景や、欧州のファッショントレンド、SNSの影響もあり、アフリカ布を着る習慣が変化してきている。また、「アフリカ布は古い」という考えから、多くの若者に「今までのアフリカファッション離れ」が起こっている。
このようにファッションが変化を遂げる中、「Kwetu Kwanza 2023」はアフリカの誇りを呼び覚ますきっかけとして開かれた。
アイデンティティを残すワークショップ
ワークショップでは、草木染めと、ウガンダの伝統的なシンボルを使用したデザインの印刷に関する授業が行われた。参加者は、現地でテイラーの仕事をしている人や、服飾学校の生徒たちだ。
この授業では、ウガンダ北部のカラモジャ族を表すデザインが用いられた。藁葺き屋根の家や、水と牧草地を求めて移動する遊牧民と牛、そして、お祝い時に太陽の下で棒を持って高くジャンプする人々の姿がモチーフにされている。もともとカラモジャ族は、他の部族とは異なる生活様式を持っている。ウガンダ北部はあまり開拓されてないこともあり、取り残された地域とも呼ばれている。
講師を務めたケビン氏は、「ルーツはアイデンティティをもたらしてくれる。ファッションを通じて文化のエッセンスを世界に見てもらいたい」と語った。
ウガンダで躍進するデザイナーによるショーケース
ショーケースのエリアでは、10人のデザイナーによる「持続可能なファッション」をテーマとした作品が展示されていた。そのうちの2作品を紹介する。
Seamline Atelier(シームライン アトリエ)
奇抜なデザインや布が目立つ中、なじみのあるデザインをまとった作品は、ウガンダ発のブランド「シームライン アトリエ」によるものだ。
創設者兼デザイナーのエリア氏とエドワード氏は、ウガンダの子供は学校が終わると制服を使わなくなり、放置する、もしくは捨てるということに着目した。服飾学校を卒業した二人は、いらなくなった制服を集め、組み合わせることで新たなデザインを生み出した。
エリア氏は「コピー&ペーストではなく、一から洋服をつくるという行為が大事。」と語る。捨てられるはずのものに、命を吹き込むという発想からは、「日常を見つめ直す」というメッセージを感じた。
IGC Fashion(IGC ファッション)
ショーケースの中心に、ひときわ目立つ、厳ついロングコートが飾られていた。ロンドンファッションウィークでもランウェイに使用された「IGC ファッション」による作品だ。デザイナーのKatende Godfrey(カテンデ・ゴッドフレイ)氏は、「過去と現在から得たインスピレーションを、ファッションを通して定義したい」と語る。
衣装に使用された樹皮の木で作られた布は、ブガンダ王国時代に生み出された工芸品で、王室に使われた貴重な布だ。しかしこの布には悲しい歴史がある。植民地時代、コットン市場を拡大したい欧州の国は、樹皮布を使用することを禁止し、樹皮を取れるムツバの木を収穫する者には拷問を加えた。このことから、いつしか樹皮布は「邪悪なもの」として認知されるようになったのだ。
また、宝貝を施したデザインはもともと貝殻が貨幣として使用された歴史を、ヤシの葉を繋いだ裁縫はミシンがない時代に手作りで洋服を作っていた歴史を思い出させる。ゴッドフレイ氏は「忘れられた歴史を思い返そう」という思いから、このように積極的にウガンダの歴史的な素材をファッションに取り入れるそうだ。
アートを身にまとうということ
筆者が、貧困度が極めて高いウガンダ北部の地域を訪問した際、気づいたことがある。タイヤをリサイクルしてサンダルとして履いている人や、ペットボトルから車を作って遊んでいる子供など、クリエイティブな発想が溢れているということだ。アフリカの人々には、自分の環境を最大限に生かして新しいものを生み出す力があると感じさせられる。イベントで出会ったデザイナーも同様だ。
先進国から流入する古着やSNSによって、欧州のファッションの基準がアフリカにも影響している中、「Kwetu Kwanza 2023」で自分たちの伝統と誇りを呼び覚まそうとしている人々に出会った。歴史を学び直し、伝統的な布や素材で自由な装飾を施したファッションを世界に発信していく姿は、ウガンダの人々にとっても大きなインスピレーションになるだろう。だからこそ、彼らの思いをシンプルにかっこいいと思うファッションに変換することが、人の心を動かすのではないかと思う。
このイベントを通して学んだ言葉がある。それは「Wearable Art(着られるアート)」だ。
「Wearable Art」はアイデンティティを呼び覚まし、歴史を探り、誇りを与えてくれる。そして社会に訴え、環境に訴え、人々の声を代弁してくれる。ファッションにはそんな力が込められているのではないだろうか。
【参照サイト】Fashion Revolution Foundation
【参照サイト】Fashion Revolution
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Edited by Masae Tago