全員が働き手で、経営者。「企業組合あうん」に学ぶ、労働者を使い捨てない組織のあり方

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会社には社長がいて、上司がいて、同期や部下がいる。会社の方針を経営陣が決め、社員はその方針に沿って売上目標を立てていく──こうした企業のあり方が社会の大部分を占めるがゆえに、これが当たり前だと思いこんでしまうかもしれない。果たして、本当にそうなのだろうか。

そんな“当たり前”とは異なる働き方を実践しているのが、資源回収やリサイクルショップの運営をおこなう「企業組合あうん」だ。ここでは、上司も部下も存在しない。働く全員が平等な立場であり、給料もなんと全員同じだという。

企業組合という組織のあり方は、どのように実践されているのだろうか。あうんが2022年に立ち上げた古着をメインとしたセレクトショップ「awn(エー・ダブル・エヌ)」のポップアップを編集部が訪れ、awnを担当する高原颯時さんと、共同創業者の中村光男さんに話を聞いた。

あうんのスタッフの方々

賃金も立場も、平等に

企業組合あうんは、働き手自身が出資者となり、経営と労働の両方を担う組織だ。バブル崩壊の影響を受け、路上で生活しながら日雇いの仕事をしていた人々が2002年に仕事おこし事業として「あうん」という団体を立ち上げたことから始まった。2023年現在あうんでは、引っ越しや住居整理を担う便利屋や、リサイクルショップ、「しげん」回収もおこなうカフェの運営を手がけている。

賃金は、全員同じ。同じ長さの時間働いたら、年齢や資格にかかわらず誰でも同じ賃金を受け取るという仕組みだ。ただ賃金が同一なだけではなく、働き手の立場も平等であるため、働き手のあいだに上下関係は存在しないという。ひとりひとりが会社を経営する責任を持ちながら役割を分担することで、組織が回っているのだ。

あうんは、企業組合という法人格を2007年に取得。その際に「個人が平等に労働と経営に携わり『命』と『暮らし』を自分たちで守る共同事業を行う」という想いとともに、社会保険も完備された。

“実験的な会社のあり方”から生まれる面白さと困難

しかし、小さな組織が支えてきたすきま産業でさえも次々と大規模事業へ展開されていく現代において、ジレンマも抱えているという。

特に便利屋は、その月ごとに仕事の入り具合は変動があり、仕事が忙しい時に、アルバイトや派遣労働者、あるいは下請けを使うということは当たり前の業界です。そうやって、価格を抑えることができるし、繁忙期には早朝から深夜まで働かせるなんてこともあります。こうして、労働者を使い捨てにしながら利益をあげる、という資本の論理に巻き込まれたら、あうんの意味がなくなってしまう。(企業組合あうんホームページより)

事業を継続するためには大きな企業との価格競争に加わる必要があるけれど、労働者を搾取するような組織であってはならない──そんな葛藤に直面しながらも、あうんは企業組合という形態をとり続け、働き手を尊重する組織を守ってきた。

今回話を聞いた高原さんも、その姿勢に魅力を感じた一人だ。労働者が主体となった働き方に惹かれて2023年2月からあうんの一員となり、前職での洋服修理の経験を生かしてセレクトショップawnに参画。当初レディースをメインとしていたawnで、高原さんはメンズ商品にも対象を広げる役割を担っている。

ピンクのタグがあるのは修理した服。クリーニング屋のタグをイメージしている|Photo by Megumi

ひとつひとつの服が何と組み合わされてどの修繕されたのかを知ることができる|Photo by Megumi

高原さんは、上司や部下といった立場がなく全員同一賃金、といったあうんでの働き方について“実験的な会社のあり方”から生まれる面白さと困難がある、と語った。

「組合員全員が労働者兼経営者であることは、それぞれの主体性や個性を尊重する良さがあります。その一方で、仕事に関するあらゆる内容を決定する会議での合意形成や議題設定、ひいては会議そのものをいかにデザインするかという難しさもあると感じています。また労働者として働くことに慣れている一方、経営者の経験がないので、その両方の視野をバランスよく持つことはとても困難に感じています」

ひとりひとりが自分の働く組織に出資しているため、経営に関するミーティングでは多様な意見が寄せられ、ときには話し合いが終わらず、また新たに話し合いの日を設けることもあるという。意思決定には時間がかかるけれど、たとえ時間を要しても合意に至るまで丁寧に話し合うという方針は、互いの理解を促すような環境をつくるだろう。

次の世代を迎え入れ、事業を任せる姿勢を持つ

また共同創業者の中村光男さんは、初期から関わるメンバーが「次の世代に繋げよう」「できないことは任せよう」という精神を持っていたことが、コロナ禍などさまざまな困難を経験してきたなかでも、組織が今日まであうんが続いてきたカギではないかと語る。現在、あうんでは70代の高齢者から学生まで幅広い年代が、多様な関わり方で事業を支えている。

最も若い世代は高校生で、もともと連携団体が運営する子ども食堂に来ていた学生が参加しているという。その上の世代が、セレクトショップawnを運営するメンバーであり事業を広げる主体となっている。次の世代を迎え入れ、事業を任せる姿勢を持つことで、あうんは人々の暮らしを支える存在であり続けているのだろう。

ポップアップは、クリーニング屋を改装したイベントスペースで開催された|Photo by Megumi

目の前にいる人を大切にできるような組織へ

あうんが日雇いの仕事で生活を繋いでいた人々によって始まったという背景もあり、「労働者を使い捨てにしない」という言葉には強い想いが感じられた。犠牲を生んででも利益を追求し続ける経済に逆らう形の組織だからこそ受け入れることができる働き手もいるはず。

目先の利益ばかり追いかけるのではなく、目の前にいる人を大切にできるような組織が、これから新しい働き方を世の中に広めていくことを願いたい。そう感じた訪問だった。

【参照サイト】企業組合あうん
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