「どうして、そんな短いスカートを履いていたの?」
「露出が多すぎたから、誘っているように思われたんじゃない?」
いったいどれほど、このようなフレーズを聞いたであろうか。
これらは、性犯罪が起きたときに、被害者に向かってよく言われる言葉だ。このように犯罪が起きたとき、加害者ではなく、事件当時の被害者の服装、飲酒量、いた場所や時間を責める行動を、「Victim Blaming(被害者非難)」と呼ぶ。
被害者非難が起きる原因として、 私たちには「基本的に世界は平等で、悪人などはいないと信じたい」という心理があり、何か事件が起きたときに、その心理を守るために、被害者に落ち度を探すということが挙げられている(※)。
性犯罪において、責められるべきはいかなる状況でも被害者ではなく、加害者だ。では、なぜ、性犯罪が起きたときに、被害者が責められなければならないことがあるのだろうか。彼女たちが着ていた服は、本当に事件そのものと関係があるのであろうか。
その疑問に挑戦すべく、2017年に、イギリスの性犯罪被害者をサポートするネットワーク「The Survivors Trust」によって、とあるファッションショーが行われた。
赤くミステリアスなライトが、どこか危険な香りを醸し出している会場には、「最も魅惑的でエロティックなファッションショー」という文言に惹かれてやってきた観客たちが集まっている。靴音だけが響き渡るランウェイに現れた女性たちに、会場はどよめきを隠せない。それもそのはず、彼女たちが着ていたのは、ランウェイで見かける服とは程遠い、チノパンにスウェット、黒のスキニージーンズに上着、そしてオフィスカジュアルといった、ごく普通の洋服だったのだ。
会場中が戸惑いを見せる中、スクリーンに映ったのは、女性たちが性犯罪にあったときのことを語る様子。ステージで彼女たちが身にまとっているのは、性犯罪が起きたときに、実際に着ていた服を再現したものであるということがわかり、その後画面に「悪いのは、服?女性?」「いいえ、加害者です」というメッセージが表示されると、会場は拍手に包まれた。
ショーの中で示されたように、悪いのはいつでも「加害者」だ。しかし、実際には被害者が責められるケースがいまだに多くみられる。この問題に対し、私たちには何ができるのだろうか。ここでは、被害者非難を減らすためのヒントをいくつかご紹介したい。
自分の行動が、二次被害を引き起こさないかチェックする
「自分は被害者非難などしない」と思っているかもしれないが、気付いていないだけで、無意識のうちに被害者非難をしている可能性もある。ツールを使って、自分が被害者非難的な考え方に陥っていないかセルフチェックしてみてはどうだろうか。
今回ご紹介するのは、イギリスの「Victim Focus」が手掛けた「Victim Blaming Temperature Check Tool(被害者非難温度チェックツール)」である。
チェックツールは、「Lack of empathy for victims(被害者への共感がどれだけ少ないか)」などを含む、5つのセクションに分かれており、温度計の上部・赤い部分に行けば行くほど、被害者非難の度合いが激しくなる。
制作元の「Victim Focus」は、職場などで実際に使ってみることを推奨している。ぜひ周りの人も巻き込んで、使っていって欲しいところだ。
情報発信時に「被害者」を主語にするのやめる
「メアリーはレイプされた」と言うのと、「ジェームズがメアリーをレイプした」と言うのでは、「誰にフォーカスしているか」が変わるため、大幅にニュアンスが違ってくる。前者は、主語のメアリーにフォーカスが当たっており、加害者であるジェームズは文の中に登場すらしていない。本来なら責められるべきである加害者から意識を遠ざけ、被害者を過度に強調してしまうことで、結果的に被害者非難を生む原因になってしまっているのだ。
性被害の状況に言及するときは、被害者を主語にした受動的な文を使うのではなく、加害者を主語にした能動的な文を使うことで、意識的に「非があるのは、加害者」だということを明確にしていこう。
沈黙したり助長したりするのをやめる
ここでは、筆者が過去に経験した個人的な例を紹介したいと思う。イギリスに語学留学中、ホストブラザーと他の留学生(筆者以外は、全員男性)でカードゲームをした。ボキャブラリーを増やすためということで、カードを引いたら、1つ単語を言うというゲームをしたのだが、なぜか「R」を引いたときにみんな「rape(レイプ)」と言っていた。若くて英語もまともに話せなかった筆者だが、そのときにとてもショックを受けたことを昨日のように覚えている。全く笑えないジョークだと思ったし、雰囲気に合わせて笑ったりはしなかったが、その場で注意することもできなかった。そのことが、今でも心のしこりとして残っている。
世の中には性暴力に関するジョークが溢れている。そういう場面に遭遇したとき、決して空気を読んで笑おうとしないこと。そして、沈黙を貫くのではなく、「面白くない」「笑えない」と伝える勇気を持つことが大切だ。
イギリスの歌手Josie Protoは、自身の楽曲「I Just Wanna Walk Home──歩いて帰りたいだけなのに」の中でこう歌っている。
Talk to you mum it’s not like this thing is new.
They used to keep it quiet, told there was nothing they could do.
Well I’m not gonna have the same conversation with my daughter.ママに話すと、こんなの目新しいことじゃないってさ
みんな、黙っていたんだって
できることは何もないんだからって言われ続けてきたから
まあ、私は娘と同じ会話を繰り返すつもりはないけどね
お気に入りの服に袖を通したとき、世界が急に色づいて見える気がしたあの日。色っぽい服、かっこいい服、カジュアルな服、ラブリーな服……私たちは誰かほかの人のためではなく、自分のために服を着ている。そう言い切れる世界にするために、私たちは行動していく必要があるのだろう。
※ Just World Hypothesis(Structural Learning)
【参照サイト】The Survivors Trust
【参照サイト】sace (Sexual Assault Centre of Edmonton)
【参照サイト】EIGE(European Institute for Gender Equality)
【参照サイト】MTV Decoded
【参照サイト】Josie Proto
Edited by Yuka Kihara