ニューヨークは2024年までに、世界ワーストレベルの渋滞を改善できるかもしれない。
マンハッタンのミッドタウンに入るドライバーに通行料を課す「混雑税プログラム」が、先月連邦政府の承認を得たことで、2024年春に開始されることがほぼ確実となった。このプログラムの目的は、交通量と大気汚染を削減し、ニューヨークの公共交通網の改善資金を調達することである。
通行料は渋滞が発生する時間帯によって異なる。ラッシュアワーには23ドル(約3,200円)、オフピークには17ドル(約2,400円)を徴収する計画だ。メトロポリタン交通局(MTA)は、このプログラムによって年間10億ドルの収入が得られると見積もっている。
MTAはこのプログラムが交通量を減らし、環境を改善し、人々の生活の質を高めると考えている。最大1,700万トンの温室効果ガスが削減され、排出ガスの削減により人々の健康状態が向上することで、医療費が1億ドル節約されると試算している。
一方、タクシー運転手やライドシェア会社は、利用者が減ることを恐れて反対の声をあげており、同局は割引を与えるなどの対策を練っている。また、障がい者を乗せた車両や緊急車両、低所得ドライバーは、通行料免除または州税控除を受けることができるそうだ。
アメリカには、移動手段としての自動車への過度の依存という大きな問題がある。アメリカ全土において、一般的に公共交通機関が不足しており、主な移動手段を自動車に頼らざるを得ないことが多い。しかし、ニューヨーク市は、アメリカで最も公共交通機関が発達している都市のひとつであり、基本的に市民の多くは自動車を使わなくても生活ができる。
つまり、このプログラムはニューヨーク市における移動をより自由にするものだと言える。渋滞緩和により、車を使わなければ行けない場合の移動がよりスムーズになる。また、理論的には、高額の混雑税を払う余裕と時間のあるドライバーに課金することで公共交通機関を改善し、公共交通機関に頼る傾向のある比較的所得の低い人々をサポートすることもできるという。
複数の研究は、移動の容易さが、人々の健康とウェルビーイングの向上に重要な役割を果たすことを示唆している(※1) 。物理的に必要なものに容易にアクセスできることは、地域社会への積極的な参加や運動を促し、結果的に生活満足度や身体的・精神的健康が向上すると考えられている。そのため、徒歩や自転車で移動できる人は、幸福度が高い傾向があるようだ(※2)。
したがって、車に過度に依存している都市においては、交通量規制や公共交通機関、歩行者・自転車利用者向けのインフラを包括的に改善することが重要である。これにより、移動手段の選択肢が増え、よりスムーズな移動が可能となり、全体のウェルビーイング向上につながるポテンシャルがある(※3)。
筆者は、ほとんどの場所に徒歩で行くことができ、必要であれば公共交通機関も簡単に利用できるような、あるスコットランドの街に住んだことがある。スーパーマーケット、文化施設、カフェ、学校、公園などにすぐアクセスでき、コミュニティや街そのものとの繋がりを強く感じることができた。移動のスムーズさが、そこでの暮らしをより豊かで充実したものにできるということを実感した。
ニューヨーク市は長年にわたり、歩行者区域の設置や駐車規制など、車の交通量を削減するための取り組みを行ってきた(※4) 。新しい「混雑税」プログラムは、渋滞の緩和、環境の改善、公共交通機関の強化という包括的なアプローチを通じて、環境と人々のウェルビーイングの向上に貢献することが期待される。
※1 Kevin M. Leyden, Michael J. Hogan, Lorraine D’Arcy, Brendan Bunting and Sebastiaan Bierema (2023) Walkable Neighborhoods, Journal of the American Planning Association
Oliver Smith, Commute well-being differences by mode: Evidence from Portland, Oregon, USA, Journal of Transport & Health, Volume 4, 2017, 246-254, ISSN 2214-1405
※2 Kostas Mouratidis, Jonas De Vos, Athena Yiannakou, Ioannis Politis, Sustainable transport modes, travel satisfaction, and emotions: Evidence from car-dependent compact cities, Travel Behaviour and Society, Volume 33, 2023, 100613, ISSN 2214-367X
※3 実際、移動のしやすさとそれに伴う人々の健康のために、公共交通機関をより充実させ、徒歩、自転車専用レーンの整備に取り組む事例が多く存在する。例えばパリでは、通勤や必要な場所へのアクセスが15分以内できることを目指す「15分都市」プロジェクトがあり、この取り組みは世界各地で参考にされている。
Kostas Mouratidis, Jonas De Vos, Athena Yiannakou, Ioannis Politis, Sustainable transport modes, travel satisfaction, and emotions: Evidence from car-dependent compact cities, Travel Behaviour and Society, Volume 33, 2023, 100613, ISSN 2214-367X
World Resources Institute, Paris’ Vision for a ‘15-Minute City’ Sparks a Global Movement
パリ市長、職場も買い物にも「15分でいける街」計画を発表
※4 The New York Times, Major Traffic Experiment in N.Y.C.: Cars All but Banned on Major Street
【参照サイト】New York City’s congestion pricing program receives federal approval
【参照サイト】Congestion pricing in New York City set to become a reality by the end of 2023
【参照サイト】Congestion Pricing Plan in New York City Clears Final Federal Hurdle
【参照サイト】Addicted to cars: why can’t New York City break its bad transit habit?
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