2023年9月9日〜10日、インドのニューデリーで開催されていたG20ニューデリー・サミットが閉幕した。「ひとつの地球、ひとつの家族、ひとつの未来」をテーマとした今年のサミットは、アフリカ連合(AU)のG20加盟や持続可能な開発目標へのコミットメントの強化が示すように、世界的な協力体勢構築の重要性を再確認する機会となった。
食料安全保障、気候、エネルギー、保健といった重要課題について議論が行われ、そのまとめとして、「G20ニューデリー首脳宣言」が発表された(※1)。開催前から注目されていた、ロシアのウクライナ侵攻に関する議論は、武力行使を非難する一般化された声明にとどまり、「すべての国は領土の獲得のための威嚇や武力の行使を控えなければならない」「核兵器の使用や威嚇は容認できない」という首脳宣言を採択し、前回のバリ・サミットのようなロシアの名指し非難は避けられた(※2)。
本記事では、G20の成果を「アフリカ連合のG20加盟」「気候変動へのコミットメント」という二つの視点から見ていきたい。
アフリカ連合の国際的位置づけと重要性
今回のG20サミットにおける重要な成果のひとつは、アフリカ連合(AU)のG20への新規加盟であった。今年のG20の議長国であるインドのモディ首相は、今年6月以来、AUのG20入りを支持すると表明しており、ニューデリー・サミットでは全会一致で可決された。サミットに欠席したロシアと中国もAU加盟を支持している。これは、世界経済におけるアフリカ連合の重要性が高まっていることを認めたものであり、G20ではヨーロッパ連合(EU)に次ぐ二番目の地域機関となる。
この歴史的な拡大は、インドの議長国としての成果であり、「グローバル・サウス(※3)」の開発アジェンダへのコミットメントを反映した取り決めであると考えられている。これにより、AUはG20の常任理事地域としてEUと同等の地位を得ることになり、より包括的で代表的なグローバル・ガバナンスに向けた重要な一歩と評価されている(※4)。
※3 「グローバル・サウス(Global South)」という用語が、政治や学問の領域で使われる機会が増えている。「グローバル・サウス」は逐語的には南半球を指すが、これらの地域の多くは北半球や赤道上にある。特定の特徴を持つ諸地域を括るはずの政治的枠組みに地理的イメージを投影することは、問題の過度な単純化を招いたり、政治的アジェンダを正当化する力になる可能性があるという見解がある。この用語を使用する際には注意が必要である。
参照:Teixeira da Silva JA. ‘Rethinking the use of the term ‘Global South’ in academic publishing’. European Science Editing 47 (2021).
アフリカ連合(AU)の加盟がインドのモディ首相の主導の下で行われたことには大きな意味がある。2023年、中国を抜いて世界で最も人口の多い国となったインドは、国際社会での影響力をますます強めていくだろう。国連人口基金(UNFPA)の世界人口推定によると、インドの人口は14億2860万人に達し、中国の人口(14億2570万人)を290万人上回っている(※5)。
インドとアフリカ諸国は、「グローバル・サウス」として新興諸国関係を強化することで、国際社会全体における影響力の向上を図る。「先進国」にとっては、ますますダイナミックになる「グローバル・サウス」と連携することの重要性が高まっており、AUの加盟はG20メンバーの思惑と合致した結果である。
なぜアフリカ連合の加盟が重要なのか?
アフリカ連合のG20加盟は、「グローバル・サウス」勢力の発展における象徴的な出来事のひとつとみなされている。
アフリカ連合(AU)とは、アフリカの55の国と地域が加盟する、世界最大級の地域機関だ。2002年に設立され、国際社会におけるアフリカ全体の利益と役割を確保するために機能している。近年は、世界経済ガバナンスにおける影響力の増大のため、G20への加入を目指していた(※6)。
AU加盟以前、南アフリカはアフリカ大陸で唯一のG20メンバーであったが、今回の加盟によって、より幅広いアフリカ地域の意見が、国際社会の意思決定に反映されることになる。ナイジェリアやエチオピアのような経済国から世界の最貧国まで、幅広い地域を代表するAUにとっての課題となるのは、政治的、経済的、社会的構造が大きく異なるアフリカ諸国の関心事に基づいた共通の立場を見出し、コンセンサスを得られるようなメッセージを世界に発信することだ(※7)。
国際社会におけるアフリカ地域の存在感は今後さらに強まり、将来的には巨大な市場となることが予想されている。アフリカ大陸の人口は、2050年までに25億人に倍増し、世界人口の4人に1人以上になると推定されている(※8)。また、アフリカ大陸は世界最大の自由貿易地域でもある。
気候変動問題の鍵を握るアフリカ
そしてアフリカ大陸は、気候変動と闘う世界的な動きの鍵を握っていると考えられている。というのも、アフリカは現在、気候変動への貢献度は最も低いが、気候変動の影響を最も受けている地域であり、この問題と闘うために必要な天然資源に恵まれているからである。
アフリカ大陸には、世界の再生可能エネルギー資産の60%、再生可能技術や低炭素技術に必要な鉱物の30%以上が存在する。国連の報告書によれば、リチウムイオン電池に不可欠な金属であるコバルトは、コンゴ民主共和国だけで世界のほぼ半分を占めている(※9)。
アフリカ大陸の指導者の中には、他国がアフリカの資源を採掘して利益を得ていることに不満を抱いている者もおり、経済諸国からの気候変動資金の拠出や、化石燃料に対する世界的な課税を求めている(※10)。この観点からも、AUはG20のメンバーとして、気候変動に関する議論においてますます発言力を高めていくだろう。
主要国の気候変動へのコミットメントはどうなる?
例年と同様、今年のニューデリー・サミットでも気候変動への取り組みが焦点となった。首脳宣言では、持続可能な開発目標(SDGs)の重要性が再確認され、SDGsへのコミットメントの強化が盛り込まれた。
具体的には、2030年までに再生可能エネルギー容量を世界全体で3倍にすることが合意され、停止していない石炭火力発電を段階的に廃止する必要性が認識された。
しかし、主要な気候変動に関する目標設定には至らず、再生可能エネルギーを促進するために既存の政策や目標を見直す具体的な計画も示されなかった。また、グリーンエネルギーへの移行には年間4兆米ドルが必要だが、これに対する具体的なアプローチは示されなかった(※11)。
SDGsの進捗状況について
持続可能な開発目標(SDGs)は2030年を達成期限としているが、進捗は遅れており、目標の12%しか達成されていないという認識が共有され、進捗の加速化に取り組むことが合意された。
首脳宣言には、SDGsを達成するために、デジタルトランスフォーメーションやAIの活用・開発を奨励し、G20の協力とパートナーシップを強化し、持続可能な金融を拡大するとのコミットメントが盛り込まれた。
持続可能な開発のためのライフスタイル(LiFE)の主流化
その他、持続可能な開発のためのライフスタイル(LiFE)の主流化にも言及し、世界のネット・ゼロの未来のための資金援助や技術の開発・導入によるLiFEの実施を支持した。
サステナブル・ファイナンスについて、首脳宣言は、途上国のパリ協定の実施を支援するための多国間気候基金の重要性を強調し、国連グリーン気候基金(GCF)の拡大を求めた。これを受け、英国のスナク首相は、英国がグリーン気候基金に20億米ドルを拠出すると発表した(※12)。
G20ニューデリー・サミットでは、さまざまな進展と課題が見られた。成果のひとつは、新メンバーを迎え、より広い地域の意見を反映させることを目指したことである。このサミットでの反省が、今後のより強力な国際協力の取り組みや、共通の目標を達成するためのより具体的な政策立案と実施につながることが期待される。
※1 G20ニューデリー・サミット(概要) 外務省.
※2 「G20 首脳宣言 ロシアを名指しで非難する文言は盛り込まれず」 NHK.
※4 G20: A Forum for Developing World
※5 「インド人口、中国抜き世界最多に 今年半ばに14億2860万人=国連」 BBC.
※6 【CRI時評】アフリカ連合のG20加入は世界に何をもたらすか
※7 G20加入のアフリカ連合 55カ国・地域、意見集約に課題
‘The African Union is joining the G20, a powerful acknowledgement of a continent of 1 billion people’, The Associated Press.
※8 G20加入のアフリカ連合 55カ国・地域、意見集約に課題
※9 ‘The African Union is joining the G20, a powerful acknowledgement of a continent of 1 billion people’, The Associated Press.
※10 ‘The African Union is joining the G20, a powerful acknowledgement of a continent of 1 billion people’, The Associated Press.
※11 Miglani, Sanjeev. ‘Key takeaways from the 2023 G20 summit in New Delhi’. Reuters.
※12 「国連主導の気候変動基金、英が20億ドル拠出表明」 Reuters.
【参照サイト】 G20ニューデリー首脳宣言
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