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グローバルサウスとは・意味

グローバルサウス

image via clicksabhi/ Shutterstock

グローバルサウスとは?

グローバルサウス(Global south)について明確な定義はないが、主に新興国・発展途上国・第三世界と同様の意味で用いられることが多い。1964年に77か国の発展途上国で発足した国連の「G77」に中国を加えた「G77プラス中国」を指す場合もあるが、近年では中国を除く意味で使われることが多い。

南北問題とも言われるように、新興国や発展途上国の多くが南半球に位置することに由来してグローバルサウスと呼ばれており、アフリカ、ラテンアメリカ、アジアの新興国・途上国などが当てはまる。対義語として、経済的に豊かである国々を「グローバルノース」と呼ぶ。グローバルノースとグローバルサウスは地理的な分類ではなく、資本主義やグローバリゼーションの文脈を考慮したうえでの社会経済的な分類であると言える。

グローバルサウスは冷戦の文脈において、東西陣営のどちらにも属さない「第三世界」を表現するときにも使われてきたが、政治的中立を掲げ、どの国にも加担せず、対立に取り込まれることを避けるようなケースが目立つ。ウクライナ危機をめぐって欧米各国とロシアなどの対立が深まるなか、国連決議などの場面でグローバルサウスの動向が注目されている。

グローバルサウスが直面する問題

資本主義やグローバリゼーションの影響で、グローバルサウスの国々はどのような影響を受けているのだろうか。数多くの問題の中から下記では「貧困」「環境」「人権」3つの問題に触れる。

貧困問題

国連開発計画(UNDP)は、貧困を「教育、仕事、食料、保健医療、飲料水、住居、エネルギーなど最も基本的な物・サービスを手に入れられない状態」と定義している。世界銀行は、国際貧困ラインを2015年10月に1日1.90ドルと設定。所得または支出水準が衣食住など必要最低限に満たない状況を「絶対的貧困」としている。

サブサハラ・アフリカ地域の絶対的貧困率は41.1パーセントと高い割合を占めている。日本ユニセフ協会によると、1990年の51パーセントに比べると割合は減っているが、この地域の人口が増えていることから、1日1.90ドル以下で暮らしている人は1億1300万人も増えているという。

世界全体で見ると、絶対的貧困の人口は、1990年の18億4,100万人から、2013年の7億6,600万人と大幅に減っている。しかし、依然として厳しい状況下で生活している人がいることを忘れてはならない。

環境問題

先進国の人が捨てるプラスチックごみは、その多くが途上国へ輸出されている。日本では、街中のごみ箱に捨てられているペットボトルなどの汚れたプラスチックは、リサイクルするには人件費が高いことから、これまで主に中国などのアジア諸国に輸出されてきた。「資源」と言う名目で輸出されたプラスチックは、必ずしも正常にリサイクルされてきたわけではない。洗浄の手間を省くために、児童労働など劣悪な環境下での労働、汚水の垂れ流し、野積みによる発火でダイオキシン発生など環境問題の他に健康問題や人権問題など様々な課題が浮き彫りになった。中国政府は、このようなプラスチックごみ輸入問題を受け、2017年に廃プラスチックの輸入を禁止することを決めた。

廃棄物の国境移動を国際的に規制している「バーゼル条約」もこのような問題を受け、2019年に改正された。2021年より、汚れたプラスチックを輸出する際には事前に相手国に了承を得る必要がある。ごみ処理を途上国に頼むことが厳しくなっていることから、先進国は、適切に廃棄する仕組みやごみを減らす取り組みをより一層活発にする必要が出てきている。

気候変動の課題にも、同様の構造がある。過去20年間に気候変動によると見られる自然災害を受けた主な国は、1位がプエルトリコ、2位がミャンマー、3位がハイチ、4位がフィリピン、5位がモザンビークと、発展途上国の国々、すなわちグローバルサウスが上位を占める。そして、累積CO2排出量の上位を占めるのは、米国、中国、ロシア、ドイツ、英国、そして日本といった先進国、グローバルノースである。こうしたデータもあり、気候変動においてはグローバルサウスが保障を受けるべき被害者で、先進国が責任を取るべき加害者だという認識が、多くの人に広まりつつある。

「アフリカは犠牲者で終わらない」これからの気候変動対策をリードしうるグローバル・サウスの今

人権問題

グローバリゼーションによって企業が海外で賃金の安い労働者を雇い、できる限り安く製品を作るようになったことにより、新興国・発展途上国では劣悪な環境下での低賃金労働が広がった。これにより、先進国の消費者のために途上国の労働者が搾取されるという構造が生まれている。この問題が注目を集めたのが、ファストファッションの広がりであった。

2013年4月24日にバングラデシュのシャバールで8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」が崩落し死者1,127人、行方不明者約500人を出した。事故の原因は、ずさんな安全管理である。このビルにはグローバルに展開しているファッションブランド工場などが入っており、低賃金かつ劣悪な労働環境で働かせる典型的なスウェットショップであった。事故後はファッションのあり方を見直し、サプライチェーン上の人権問題への対応を強化する取り組みが世界中で行われている。

グローバルサウスの存在感の高まりと国際動向

上述のように、グローバルサウスはさまざまな課題を抱えているが、近年経済的にも政治的にも、国際社会での存在感が高まってきている。グローバルサウスが世界の国々の大多数を占めるというだけではなく、経済的には2050年までにグローバルサウスの名目GDPの合計が米国や中国を上回る規模にまで拡大すると見込まれること、人口面でも、2050年までにグローバルサウスで全世界の3分の2を占めるようになると予測されていることが挙げられる。

グローバルサウスが連携して声を増幅させていこうという動きも加速しており、先進国側でも、グローバルサウスの存在感の高まりを受け、グローバルサウスへの関与を重視し見直すといった潮流が生まれている。また、ウクライナ危機後、民主主義を掲げる西側陣営(米欧や日本など)と権威主義陣営(中国やロシア)のどちらにも属さないグループとしてのグローバルサウスの立ち位置にも注目が集まっている。

グローバルサウスの声サミット

2023年にG20の議長国を務めるインドは、2023年1月、125カ国の新興国・途上国に呼びかけて、さまざまな分野での協力について話し合い、世界に発信するオンラインの国際会議「グローバルサウスの声サミット」(Voice of Global South Summit)を開催した。インドのモディ首相は、同会議において、食料・エネルギー危機、インフレ、気候変動などに触れ、「問題の大半は途上国がつくり出したものではないが、われわれは多大な影響を受けている」と指摘し、グローバルサウスの声を増幅していくことの必要性を訴えた。インドは、グローバルサウスのリーダーとしての地位を固めようとしているとの見方が広がっており、動向が注目されている。

G7でのグローバルサウスに関する議論

上記の動きに呼応するように、主要7カ国(G7)は同年4月中旬、議長国を務める日本で開いた外相会合で新興・途上国との関係強化を議論するなかで、グローバルサウスという用語の使用をやめ、再定義を行った。G7はグローバルサウスを、協力分野に合わせて以下3つに分類している。

  • インド太平洋の安全保障を念頭に東南アジアやインドは「地域のパートナー(regional partners)」
  • 食料やエネルギーで利害が大きいアフリカや中東は「志を同じくするパートナー(like-minded partners)」
  • 中国やロシアに共鳴しがちな左派政権が多い中南米諸国などは、法の支配に基づく国際秩序を軸に連携する「意思のあるパートナー(willing partners)」
    (日本経済新聞「グローバルサウスの呼称変更、インド静観 影響力で思惑」より)

G7によるグローバルサウスに関する議論に対しては、「先進国、とくに米国が新興・途上国の力をそぐために、一方的にその言葉の使用を禁止した可能性もある」との見方もあり、グローバルサウス側と主要7カ国(G7)側の思惑は交差しているようだ。

ウクライナ危機後のグローバルサウスの立ち位置

ロシアのウクライナ侵攻後、グローバルサウスの存在は一層注目されるようになっている。民主主義を掲げる西側陣営と権威主義陣営の双方がグローバルサウスへのアプローチを強化しており、両陣営の首脳や高官が、相次いでグローバルサウスを訪問しているという。

グローバルサウスという呼称について

なぜ2022年~2023年にかけて、グローバルサウスという言葉が注目され、頻繁に用いられるようになったのだろうか。冒頭で述べたように、グローバルサウスという言葉には明確な定義がない。

元国連事務次長の赤阪清隆氏は、グローバルサウスという言葉が頻繁に用いられている一因として「途上国がもはや一枚岩ではなく、その中で、経済大国や、非常にリッチな国々と、まだまだ貧しい国々との格差が広がっており、すべてをいっしょくたにしてとらえ難くなっていることがあげられよう。その実態をオブラートで包み隠すため、「グローバルサウス」という言葉は、曖昧ではあるものの、新鮮味があり、使いやすい新語とみなされるようになったのではないだろうか?」と述べている。

事実、グローバルサウスと呼ばれる国々の中には、経済発展を遂げて高所得国に近づいている国から後発開発途上国まで多岐にわたり、早く先進国入りしたい国もあれば、途上国として優遇措置を受け続けたい国もある。経済面のみならず、政治面でも立ち位置がそれぞれ異なるため、グローバルサウスという言葉でひとくくりにするのは困難であることも指摘される。

グローバルサウスという言葉が使われるとき、その意味は発信者の意図によって異なってくるということに、注意が必要だ。

【参照サイト】Finance Center Foe South-South Cooperation Green Industrial Park
【参照サイト】Finance Center For South-South Cooperation
【参照サイト】WorldAtlas What is The Global South?
【参照サイト】国民生活センター 日本のごみはどこに行くの?
【参照サイト】日本ユニセフ協会 世界の貧困の状況は、良くなっている…?
【参照サイト】日本経済新聞「グローバルサウス 新興国・途上国の総称、南半球に多く」
【参照サイト】日本経済新聞「グローバルサウスの呼称変更、インド静観 影響力で思惑」
【参照サイト】ウクライナ危機で存在感増す「グローバルサウス」①
【参照サイト】Don’t let the term ‘Global South’ deceive you
【関連記事】温暖化を防ぐための会議「COP27」実際どうだった?現地参加したユース4人に聞いてみた
【関連記事】「グリーン成長はおとぎ話である」今こそ議論したい“脱成長”とは【多元世界をめぐる】

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