気温上昇、世界中で頻発する異常気象。「気候危機」という言葉でも表される現在の地球環境の変化を、私たちは文字どおり「肌」で感じている。実際、WMO(世界気象機関)とEUが協同でまとめた2022年のレポートによると、2022年のヨーロッパの平均気温は産業革命前(1850-1900年)と比べて2.3℃も高かったという(※1)。この気候変動に対し、IPCC(気候変動における政府間パネル)はその原因は人間の活動にあると明記している(※2)。
それはつまり、私たちが行動を変えなければこの気候変動の流れを止めることはできないということだ。では、現状何がどの程度できており、もっと取り組まねばならない課題は何なのか。
各国の、グリーンで公正な経済への移行状況を包括的に可視化した、世界初のウェブプラットフォームが『Green Economy Tracker(グリーン・エコノミー・トラッカー)』だ。このプラットフォームをリリースしたのは複数の企業やNGO、国連機関などから成る国際組織であるGreen Economy Coalition(グリーン・エコノミー・コアリション)。著名なメンバーとして、自然環境保護団体のWWFやヘルスケア・医療機器メーカーのPhilipsも加盟している。
Green Economy Trackerでは、世界41ヶ国の環境・社会政策の進捗状況が21の視点から考察されており、それがチャートとして掲載されている。
Green Economy Trackerが各国の状況を整理するために使った「視点」は以下の通りだ。
GDPだけでは国民の健康や自然の豊かさを測ることはできない。これからの経済を測り、形成する新たな指標が必要だ。
①環境配慮型の経済
②インクルーシブな社会
③SDGsビジネス戦略
④包括的な豊かさ財政
経済を立て直すには財政が不可欠だ。環境・社会への投資を促進するためには、新たな法規や機関も必要になる。
⑤環境配慮型の金融・投資計画
⑥環境配慮型の政府予算・政策
⑦銀行・金融機関の安定性
⑧カーボンプライシング
産業
特にエネルギー、食糧、輸送産業において「第二の産業革命」と呼べるほどの改革が迫られている。それを実現するには、グリーンビジネスを支援する仕組みが必要だ。
⑨環境配慮型の産業政策
⑩中小企業・スタートアップへのサポート
⑪カーボンバジェット
⑫再生可能エネルギー
人
これまでの経済成長はあまりに多くの人を置き去りにしてきた。そして、気候変動の影響を真っ先に受けるのは貧困状態にある人たちだ。これからの経済は人を中心に考えなければいけない。
⑬環境ビジネス・雇用へのサポート
⑭貧困対策
⑮政治への市民参加
⑯生活保護への積極的・革新的なアクション
自然環境
きれいな水や土壌など、自然の恩恵がなければ私たちの経済が成り立たないのは明らかだ。豊かな自然が守られ、その価値が十分に認識されている経済である必要がある。
⑰海や陸の保全
⑱自然資本の可視化
⑲自然資本に関する組織活動
⑳自然環境を考慮した財政再編
㉑コロナ禍から持続可能な社会へ
以上の項目の取り組み度合いが各国のページでスコアと共に示されており、その国の環境・社会政策の動向をリサーチすることが可能だ。
例えば、日本のデータを見てみよう。
これを見ると、日本は「Natural Green Economy Plan(環境配慮型の経済)」や「Pricing Carbon(カーボンプライシング)」で比較的高い評価(丸4つ)を受けている。一方で、「Pro-poor policy (貧困対策)」は最低評価である丸1つに留まっており、より積極的な取り組みが必要な分野であることが見えてくる。
さらに、Green Economy Trackerには項目ごとのページもある。そこでは国が円状に並べて表示されており、どの国が積極的に行動を起こしていて、どの国が課題を抱えているか一目でわかるようになっている。国をクリックすれば国ごとのページに移り、そこで各項目におけるその国の具体的な政策状況を見ることができる。
例えば、上の写真にある「環境ビジネス・雇用へのサポート」のチャートを見ると、エチオピアが高い評価(丸5つ)を受けていることが分かる。そこでエチオピアのページを開いてその政策の詳細を見ると、「雇用創出委員会を発足させ、2025年までに1,400万人分の環境配慮型雇用を生み出そうと具体的な計画を策定している」ということが分かるのだ。
項目ごとのページと国ごとの詳細ページの両方があることにより、各項目で高い評価を受けている国を把握し、その国の政策の詳細を見ることで参考となるアイデアを得ることができる仕組みだ。反対に、その項目に課題がある国の現状を知り、どんなアクションが必要とされているのかを考えることもできる。
気候危機は世界的に解決が急がれている。しかし、国ごとに取り組みの進捗度合いは異なり、また当然、政治・社会的背景も多様であるのが実際だ。Green Economy Trackerはこれらの違いをネガティブに捉えるのではなく、可視化し整理しながらネクストアクションに向けて国同士が学び合う基盤を提供している。人類が引き起こした問題に立ち向かうには、人類全体での共創の力が必要なのではないだろうか。
※ 1IPCC: Climate Change 2022: Impacts, Adaptation and Vulnerability
※2 WMO: State of the Climate in Europe 2022
【参照サイト】Green Economy Tracker
【関連記事】GJust Transition(公正な移行)とは・意味
【関連記事】もうGDPで豊かさは測れない。EU主催「経済成長のその先」会議の論点まとめ【多元世界をめぐる】
【関連記事】誰のための「経済」?資本主義の向かう先【ウェルビーイング特集 #33 新しい経済】
【関連記事】循環経済への移行に向けて日本とオランダが学び合えること。日蘭交流プログラムレポート【前編】