医療、介護、保育……人は生まれたときから死ぬときまで、どこかのタイミングで必ず「ケア」を受ける。今回はケアする人・される人にとってより良いまちづくりを模索するスペイン・バルセロナの事例を紹介したい。
バルセロナは、中世から続く歴史的な建築物と、「スーパーブロック・プロジェクト」など近代的な都市計画で知られる都市だ。しかし、近年の経済危機によって社会的な不平等が大きくなり、バルセロナで暮らす人々が平等に都市の恩恵を受けられる状況ではなくなった。そして、高齢化社会の進展や移民の増加は、新たな社会サービスの必要性を浮き彫りにしてきた。
また、同時にケアの仕事が(特に家の中では)しばしば無給であったり、女性や移民に不釣り合いに負担がかかり、不平等と差別を生んでいたという状況もあった。そうした問題を受けて、バルセロナは「ケアリング・シティ」としての歩みを進めることになる。
バルセロナの「ケアリング・シティ」は以下のことを目的にするイニシアチブだ。
- ケアワークの重要性を強調する
- ケアワークの責任を社会化する
- ケアワーカーの適切な労働条件を保証する
- ケアサービスの品質を向上させる
- ケアを受ける人または提供する人をエンパワーする
このイニシアティブの重要な要素の一つは「ケアカード」だ。これは、病気、依存症、障害のある人、高齢者などにケアを提供する人々が適切なサポートを受けられるようにするもの。例えばこのカードを持っていると専門家に健康管理を手伝ってもらったり、ストレス管理・タイムマネジメントのトレーニングも受けられるようになったりする。「ケアを提供する人をケアする」体制が行政によってつくられているのがポイントだ。
また、「バルセロナ・クイダ」スペースというケアに特化した場所もつくられた。「バルセロナ・クイダ」では、ケア提供者とケアを受ける人々に情報、アドバイス、ガイダンスを提供し、ケアに関わる個人、専門家、および組織のネットワーキングの場としても機能する。いわばケアに特化した「公民館」のようなものだ。
バルセロナ市のホームページでは、バルセロナのケアの設備などに関する情報を探すことができる検索エンジンが含まれており、ユーザーはリソースの種類、対象人口、ケアにおける役割、所有権によってフィルターをかけて検索することができる。
誰もが無縁ではいられない「ケア」のトピック。高齢化が進む場所では特に「そもそもだれがケア提供の担い手になるのか」「どの部分を機械化すればケアを提供する人も受ける人も快適なのか」など議論が尽きない。中でも「ケア提供者」の労働環境や幸福については、さらに議論が深められるべきだろう。
そうした避けることのできないトピックに真正面から向き合いはじめたバルセロナの変化は、世界中のまちに大きなヒントを与えてくれるかもしれない。
【参照サイト】Ciutat Cuidadora
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