※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Yokohama」からの転載記事です。
IDEAS FOR GOODを運営するハーチ株式会社では、横浜市保土ヶ谷区にあるサテライトオフィス兼サーキュラーエコノミー推進拠点「qlaytion gallery(クレイション・ギャラリー)」において、地域のシェア本棚「めぐる星天文庫」の普及を進めている。
めぐる星天文庫は、誰かが読まなくなった本を次の誰かへバトンタッチするための循環型の本棚だ。本がまちの中を旅をしながら循環することで、地域の人々がもつ知識や物語がぐるぐるとシェアされていくことを目指している。
2023年12月某日、地域における同取り組みを加速させるとともに、社会全体における本の循環の現状を学ぶため、長野県上田市に拠点を置くバリューブックス株式会社(以下、バリューブックス)を、めぐる星天文庫を運営するCircular Yokohama事業部のメンバーが訪問した。
ペーパーレスやデジタル化が叫ばれて久しい今日この頃だが、我々が暮らす社会では今、どのくらいの本が循環しているのだろうか。バリューブックス取締役副社長・中村和義さんにお話を伺いながら、施設をご案内いただいた。
「本で社会を変える会社」バリューブックスの取り組みを通じて、古本市場の現在地を探る。
1日に届く本は3万冊。そのうちリユース市場に流通する本の割合は……
2007年創業のバリューブックスは、古本の買取と販売事業をメインとする会社だ。倉庫には常時およそ150万冊の本が蔵置されており、その数は、インターネット書店としては国内最大規模である。
捨てられていたかもしれない本や読まれずに本棚に眠っていた本を、次の読み手に届けるのが古本の買取と販売事業。まさに、資源の循環に寄与する活動だ。
中村さん「バリューブックスのもとには、毎日全国から3万冊近い古本が届きます。そのうち半分の約1万5,000冊が、古本としてリユース市場に流通しています」
バリューブックスの市場の大部分はオンラインプラットフォームだ。自社のウェブサイトを通じた直接販売のほか、Amazonや楽天といったECサイトへも出品している。
全国から集められた3万冊のうち、リユース市場で再販売されるのは約半分。そこで気になるのが、残りの本のゆくえだ。
中村さん「残りの本は、販路にのせることが難しいのです」
「販売できない古本」と聞くと、最も容易に想像できる理由は、書き込みや日焼け、破れによる状態の劣化。実際はどうなのだろうか。
中村さん「再販売が難しい理由の多くは、実は本の状態ではなく、需要と供給のバランス、すなわち市場価値の変動による採算性の確保にあります」
中村さん「例えば、ベストセラー小説。新刊本の流通量が多い場合、発売から一定期間が経過した時に古本市場に流れてくる量も多くなります。我々の倉庫の収納力にも限りがありますので、需要に対し供給量が過多になると、価格をつけて売りに出すことが難しいのです」
2022年の文庫本の平均販売価格は、711円。古本市場ではそれよりも低い価格で流通することになるが、オンライン販売では販売後の送料も必要になる。消費者にとっては安く手に入る点が古本購入のメリットとなることを加味すれば、供給者にとっては新刊本との差別化を図りながら経済性を確保するのが難しいことは明白だ。
再販売が難しい本の中には、専門書や技術書のように万人に親しまれることを前提としていない本もあるが、実際にはむしろたくさんの人々の心を動かした人気の本が多く含まれているという。
状態が良いにも関わらず、「値段がつかない」という理由で本としての価値が失われてしまう。大量生産大量消費型社会が生み出す負の側面のひとつと言えるのではないだろうか。
「値段がつかない本」の行き先を考える
バリューブックスに届いた本は、スタッフがひとつずつ検品し、値段をつけて倉庫に保管している。その後、購入の注文が入った本もスタッフがひとつずつ本棚からピッキングし、包装して発送する。現在バリューブックスでは、300名ほどのスタッフが働いているそうだ。
事業の経済性だけを鑑みれば、値段がつかない本、すなわち売れない本は手放してしまえば簡単だろう。
しかし、一冊一冊丹念に扱っている本たち。そう簡単に捨てることはできない。
バリューブックスでは「日本および世界中の人々が自由に本を読み、学び、楽しむ環境を整える」というミッションを掲げ、値段がつかない本を活用したプロジェクトにも数多く取り組んでいる。
そのひとつが、「book gift project(以下、ブックギフトプロジェクト)」だ。ブックギフトプロジェクトでは、保育園や小学校などを中心に、本を必要とする様々な場所に本を無償で提供している。
さらに2018年2月からは、本棚がなくても「ここに本があって、自由に読めたらもっといいのに」と思う場所に、移動販売車「BOOKBUS(ブックバス)」で本を届けるプロジェクトも実施中だ。これまでに、同社の拠点がある長野県はもちろん、東京都や首都圏も含む40箇所以上に本を届けたという。
本は、本のままで。想いを伝えるふたつの書店
インターネットを通じた古本販売を主軸としているバリューブックスだが、古本の良さを伝え、古本を通じた本のより良い循環を進めるためには、オンラインでは完結できない活動も数多くあるそうだ。
そこでバリューブックスでは、上田駅程近くに、カフェを併設した実店舗「本と茶 NABO(ネイボ)」と、値段がつかなかった古本だけを並べる本屋「バリューブックス・ラボ」を構えている。
NABOは、バリューブックスが提供する「本のある空間」。その肩書きの通り、店内には厳選された茶葉を活用しお茶を提供するカフェスペースや、椅子と机が並ぶ隠れ家のような雰囲気のロフトが設置されており、ただ本を陳列するだけではなく、読書を楽しむための工夫が凝らされている。
なかでもユニークな仕掛けは、新刊本と古本が同じ書棚に並んでいることだ。新刊本と同等に綺麗な状態の古本たちだが、値札を見てみると、そこにはやはり価格差がある。「古本である」という事実だけがそれらの価格的価値を下げていることに気づかされる瞬間だ。
中村さん「新刊本と古本を同じ書棚に並べて販売しても、古本ばかり売れるとか新刊本ばかり売れるとか、そういった偏りはみられません。お客様は、本の状態ではなく内容の興味関心から購入を決めているのだと思います」
一方、NABOと同じ通りにスペースを設けている「バリューブックス・ラボ」は、売りに出されたけれどオンライン販売では値段がつかなかった本だけを集めた書店である。
価格は、安いもので1冊50円。その値付けに驚くお客さんも多くいるそうだ。
中村さん「バリューブックス・ラボが取り組むのは、単なる安売り事業ではありません。何もしなければ古紙回収に回っていく値段がつかない本たちですが、本は本のままで活躍し続けてほしい。そんな想いを直接伝えるための場として運営しています」
モノの機能性と資源の価値を問い直す、「本だったノート」
こうして、本を本のままで愛し続けるための様々な工夫によって、数多くの本に新たな活躍の場を与えているバリューブックス。それでも、本としての状態維持が難しいモノが大半だという。
中村さん「値段がつかなかった本は、古紙回収を経て再生紙となります。これも一つの循環の形ではあるのですが、毎日1万冊近い本がバリューブックスを通じて古紙回収に回っていますので、このサイクルに対して我々として貢献できることはないか、と考えました」
そこで生まれたのが、古紙になるはずだった文庫本を利用して作る「本だったノート」だ。
原料は、バリューブックスに届いた古本が70%と、古紙再生パルプが30%。一般的な再生紙とは違い、本を主な原料としているのが特徴である。そのため、ノートの紙面には再生紙が本だった頃の痕跡である文字を見ることができる。
また、「本だったノート」の表紙の印刷には廃インクを使用している。そのとき印刷屋さんにあるインクを組み合わせて刷るため、製造ロットによって表紙のカラーが大きく変わることはもちろん、特殊な印刷方法により、1冊単位でも少しずつグラデーションの色味が異なる。
文庫本を集めて再製品化した「本だったノート」のほか、漫画本を集めて作った「漫画だったノート」や、雑誌を集めて作った「雑誌だったノート」もある。
それぞれの紙面には、同じくスクリーントーンや写真のかけらが残されているのが見える。
再生紙を作る技術だけを考えれば、よりまっさらな状態に近い紙を作ることも可能だ。しかし、例えば「情報を書き記して記録する」というノートの機能を考えたとき、私たちはその紙面にどこまでの美しさを必要としているのだろうか。
そもそも、まっさらな状態に近いことが「美しさ」なのだろうか。
一歩立ち止まって、これまでの常識を疑ってみる。そんなきっかけをくれるアイテムだ。
「バリューブックス × めぐる星天文庫」で目指す、さらなる循環の促進
ここまで、バリューブックスによる数多くの循環型の取り組みを紹介した。
今回、バリューブックスの「本が本として活き続ける機会をつくりたい」という想いと、めぐる星天文庫の「遊ぶように循環型の暮らしを体験できる場をつくりたい」という想いが重なり、ふたつの連携が実現した。
本を本のまま循環させる取り組みが、横浜・星川へ
先にご紹介した「book gift project」を通じて、500冊の本が「めぐる星天文庫」の本棚に届く。
今回は、Circular Yokohamaメンバーとバリューブックスのスタッフが協力して選書を行った。
寄贈いただく本は、2024年1月以降、順次めぐる星天文庫の本棚に追加される。本記事でご紹介した「値段がつかなかった本」を実際に手にとって、バリューブックスとCircular Yokohamaが目指す古本の循環に参加してみてほしい。
めぐる星天文庫があるqlaytion galleryでは、「本だったノート」の展示も行っている。ぜひ実物に触れてみてはいかがだろうか。
めぐる星天文庫の詳細と利用方法:Circular Yokohamaウェブページ
古本を売れば売るほど、子どもたちにたくさんの本が届く「ブック・プレゼント」プロジェクト
「ブック・プレゼント」プロジェクトとは、子どもたちがもっと本を自由に読める機会を提供することを目的に、期間中にバリューブックスに届く本の買取金額の10%にあたる本を寄贈するプロジェクトだ。バリューブックスが企画・運営を行っている。
2023年は、12月1日から31日の期間に買い取った本を対象に寄付金額が決定する。
読み終えた本や売りに出したい本を段ボールに詰めて、集荷を頼むだけで参加が可能。査定金額は通常通り全額を受け取ることができ、全国どこからの発送でも対象となる。
対象期間終了後、プロジェクトパートナーである書店が寄贈する本の選書を行い、本が読みたくても満足に読めない子どもたちや、本を必要とする団体に本が送られる。
2022年に始まった本プロジェクト。昨年は、およそ480万円分、3000冊の本が子どもたちに届いたそうだ。
今年は「600万円分の本の寄付」を目指している。
IDEAS FOR GOODは本取り組みに賛同し、メディアパートナーとして連携している。本メディア読者の皆さまは、買取時に次のクーポンコードを入力すると、通常1箱500円の送料が無料になる。
- 送料無料クーポン:IFG23BP
- 有効期限:2023年12月31日
この機会に、年末の大掃除で見つかった古本を子どもたちのために活用してみてはどうだろうか。
2023年ブック・プレゼントプロジェクトの詳細と参加方法:バリューブックスウェブページ
取材後記
オンラインでの古本販売を継続するなかで、仲間が増え、社会へのインパクトも拡大し、インターネットを飛び出して、直接顔の見える事業活動にも尽力しているバリューブックス。
このスケールアップに至る物語は、めぐる星天文庫がたどっている道のりとも重なることに気づいた。
2019年に立ち上がったCircular Yokohama事業部は、コロナ禍による活動の制限を受けながら、オンライン上で情報発信をスタートし、志を同じくする数多くの仲間と出会ってきた。2023年に入ってからは、保土ヶ谷区・星川に実地拠点を設け、オンラインでは叶えることができなかったコミュニティの形成や、物質的な循環づくりにも取り組むことができるようになった。
今回その取り組みのひとつである「めぐる星天文庫」に、バリューブックスさまのお力添えで多くの本が届く。横浜にも、本が読みたくても満足に読めない状況や「ここに本があって、自由に読めたらもっといいのに」と思う場所があるはずだ。
めぐる星天文庫を通過していく本が1冊でも多く、1日でも長く、本のままで愛され続けるよう、Circular Yokohamaでは「本で社会を変える」というメッセージを、バリューブックスとともに発信していきたい。
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【参照記事】書籍販売額|出版科学研究所オンライン