インドシナ半島南部に位置する国、カンボジア。近年、縫製業や建設業が発展し安定した経済成長を続けている(※)。首都プノンペンをはじめとした都市部では経済特区が制定されインフラ整備が進む一方で、地方は後回しにされ地域格差が広がりつつある。農村部のストリートチルドレンと呼ばれる貧困家庭の子どもたちは、児童労働を余儀なくされ、教育を受ける機会がないまま成長する。そのため、十分な収入を得られる仕事に就けないという「貧困の連鎖」から抜け出せずにいるのだ。
カンボジアが抱えるもう一つの課題として、ごみの問題も挙げられる。回収やリサイクルのシステムはいまだ課題が多く、市民のごみに対する意識の低さから、大量のごみが路上に放置されている。ごみ集積所や放置ごみが及ぼす大気汚染をはじめとした、不衛生な環境による健康被害は深刻だ。
これらの課題は複雑に絡み合っており、どちらか一方ではなく、同時に解決していかなければならない。ゼロウェイスト生活を実践している活動家のオーク・ヴァンディ氏は、この「環境」と「子どもの貧困」両方の課題解決をめざし、プノンペンから約110キロ離れたキリロム国立公園内に「Coconut School(ココナッツスクール)」を創設した。この学校では「Trash To Tuition(ごみを授業料に)」という革新的な授業プログラムを導入しており、生徒はお金ではなくごみで授業料を支払うことが義務づけられている。
子どもたちは集めたごみと引き換えに授業が受けられる。学校ではカンボジアの公用語であるクメール語、英語、パソコンスキルだけでなく、環境問題についても学ぶことができるのもポイントだ。
この地域から集められたリサイクルプラスチックやガラス瓶、古いタイヤは、学校の壁や床に建材として使用されている。自分たちが住む地域から放置ごみが減り、ごみとして集められたものが新しい資源として活用される過程を実際に体験する。これにより子どもたちは、教科書だけからは学べない「ごみに対する意識」を身につけることになるだろう。
日本は一般的に「道にごみが少ない」「清潔」といったイメージを持たれることが多い。日常生活の中で決められた日にごみを出せば、その日のうちに回収されている。しかし、回収された大量のごみは、私たちの知らないところで焼却され、埋め立てられ、環境に負荷がかかっている。他の国や地域にとっても、ココナッツスクールから学ぶことは非常に多いのではないだろうか。
※外務省HP カンボジア王国基礎データ「9経済概況」
【参照サイト】Coconut School Foundation(CSF)HP
【参照サイト】Focus Cambodia
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