「明日から私たちのまちでは、ごみを27種類に分別します」
もしこんなお知らせが届いたら、明日からどんな生活が待っていると想像するだろうか。ごみ箱は何個必要になるだろう。どのごみをどれくらい洗う必要があり、いつ・どこで・どんな頻度でごみ出しをするのだろう。今までひとまとめで良かったものをわざわざ分けるなんて面倒くさそう……など、さまざまな思いが湧き上がるだろう。
資源循環の取り組みが進む中、ごみの分別やリサイクルにも関心が高まっている一方、現状よりかなり分別数が増えることに対しては、こうした疑問や抵抗感を抱く人も少なくない。
しかし、実際に暮らしの中で分別をしてみると案外ストレスなく、むしろ清潔に管理できて心地良い、なんてこともある。そんな「分別する暮らし」を体験できる宿泊施設が鹿児島県・大崎町で2024年4月14日に本オープンを迎える。それが、circular village hostel GURURI(サーキュラー・ヴィレッジ・ホステル・グルリ)だ。
今回、プレオープン期間にGURURIで宿泊する機会を得た筆者が、実際に生活してみた様子をお届けする。訪れてみると、ごみの分別だけでなく、施設内の至るところに、環境負荷を軽減した「これからの暮らし方」に触れる機会が用意されていると感じられた。
大崎町は、これまで25年間リサイクルを実施してきた。そのなかで、14回もリサイクル率日本一を獲得してきたのだ。GURURIは、「サーキュラーヴィレッジ・大崎町」の実現に向けた取り組みの一つとして、かつて県職員の宿舎だった建物をリノベーションして建設された。人々にとって身近な「生活」からリサイクルについて捉えなおし、未来の暮らし方について考えるきっかけを生むことを目的としている。
GURURIは一棟貸しで利用することができ、リビングダイニングキッチン棟と、宿泊棟に分かれている。早速、玄関のあるリビング・キッチン棟から見ていこう。
玄関から入ってすぐ目に入るのは、薪ストーブだ。化石燃料を使わずに暖を取る方法として、火おこしを体験することができる。しかし、施設を訪れた2月下旬はそこまで気温が下がらず、実際に薪で部屋を温める必要はなかった。この暖かさは、3重の窓ガラスのおかげでもある。高気密・高断熱の作りになっているため、エネルギー効率が非常に良いという。
その奥に続くのが、存在感のある大きなアイランド型の分別体験キッチン。テーブルの天板には廃棄予定だった保育園の床材、足組みには解体で出た廃材を使用している。天板は住民と共に制作し、地域とのつながりも意識されている。
そして、キッチンの側にあるのがごみ分別コーナーだ。ここでは「プラスチック類」「紙箱・包装紙」「一般ごみ」などと表記されたビニール袋や紙袋が用意されていて、それぞれ表を参照しながら大崎町の分別システムを体験することができる。赤いビニール袋は「資源ごみ」の括りで、青いビニール袋は「一般ごみ」として埋め立て処分になるものだ。どこに入れるか分からないものは、ひとまず専用の缶に入れておく。迷いやすい素材の分別を試すことができ、迷ったものは後で答え合わせができるため、日常の中でリサイクルに取り組む感覚を知る機会になりそうだ。
ここで注目したいのは、大崎町が27分別をしていても、家の中に27個のごみ箱が置かれている訳ではないこと。これが、まさに町民の暮らしに近い生活スタイルなのだ。大枠としてビニール袋で分けておくものの、細かな分別はごみ出しの日にその場で分ければ良い──そんな、分別の「程度感」を体感できる気がした。
では、ウッドデッキで繋がっている隣の宿泊棟へ移動してみよう。宿泊棟には2つ部屋があり、山が見える「さんかく(△)」と中庭が見える「しかく(□)」と名付けられた部屋がある。
ベッドフレームや寝室にあるテーブルなどは、サブスクサービスで繰り返し使用されたものを買い取ったもの。デスクは、学校備品の入れ替えによって廃棄されるものを引き取ったそうだ。
部屋を通り過ぎて奥に進むと、トイレとシャワーがある。シャワーで使用する温水は、バイオマスボイラーによって温められている。建物の外側にボイラー機があり、ここで木材に火をつける。するとボイラー上部に溜めてある水が温められ、そこを通るパイプに熱が伝わり続けることで、温水のシャワーを浴びることができるのだ。この木材はリノベーションの際に出た廃材が使用されている。
いかがだっただろうか。資源循環の先進地域とされる大崎町には、毎年多くの組織や自治体が視察に訪れている。これは、大崎町以外のごみ回収システムだけでなく他地域の市民の環境意識にも変化を与えうる、大きなきっかけだ。
しかし、これまでの視察では埋め立て地や中間処理施設を訪問したり、行政の担当者から話を聞いたりすることが多かった。この場合、資源回収の仕組みや行政の体制などのマクロなシステムを理解することができても、「日々の暮らしにどのような変化が起きるのか」という市民目線の未来のイメージは、今まで共有しにくい部分であったかもしれない。
GURURIは、そんな一歩先の未来を体感させてくれる場所となっていくだろう。この場所から、効率の良さや費用対効果だけではなく、資源を循環させる暮らしが持つ気付きの面白さやちょっとした手間、それを包み込む豊かさが、実体験としてより多くの人と共有されていくはず──そんな想いを胸に、玄関の扉を閉めて宿を後にした。
【参照サイト】OSAKINI PROJECT
【参照サイト】circular village hostel GURURI
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