近年ヨーロッパは、行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。
ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。
前回は、環境に大きな負荷をかけずに、乾燥や汚れから肌を守る「欧州各国のサステナブルなコスメ」を紹介した。今回の欧州通信では、編集部が先日訪れたスペイン・バルセロナを特集する。スーパーからカフェまで、実際に街を歩いて見つけた、市内のサステナブルスポットをお届けする。
市民の日常に馴染む量り売りスーパーとオーガニック系食材店
欧州の他国と同様、バルセロナでも量り売りのスーパーが多い。オーガニック系食材店や量り売り専門店だけではなく、一般的なスーパーマーケットでも、野菜や果物は量り売りが主流で、洗剤やせっけん類なども容器を持参する形が増えている。
小さな個人店が多く集まるグラシア地区にあるeco d’aquiもその1つだ。店内ではバルセロナ近郊の農家で栽培されている新鮮な野菜が販売されている。それぞれの野菜の説明には、農家への支払い金額に加え、栽培者の顔写真と連絡先が記載されており、きちんと対価が支払われているのかなどを農家に確認することも可能だ。同店は、オーガニック野菜を学校にも届けるなど社会的な取り組みを多く行っている。
オーガニック系食材店も人々の身近にあり、環境や健康に対する意識が高くない人でも通っている。近年はヴィーガンやアレルギーを持つ人向けにフードテック業界が新商品を導入している。Vackaというヴィーガンチーズブランドは、メロンの種を発酵させチーズを作っており、カマンベール風やクリームチーズ風など、バラエティに富んでいる。ポップなパッケージが目を引き、ヴィーガンでなくても楽しめる味わいだ。
【参照サイト】eco d’aqui
【参照サイト】Vacka
好きなテイストの店を選べる。豊富なヴィンテージ・セレクトショップ
市内北部のグラシア地区を散策していると、さまざまなテイストのブティックが立ち並ぶのを見つけた。中には、セカンドハンドの洋服や雑貨を扱うヴィンテージショップも多い。個人経営の店が多いこの地区では、一つ一つの店舗がそれぞれの味を出しており、自分の気に入ったテイストの店を選べるほどだった。
中でも気になったのは、Olokutiというブランド。店舗の入り口には、店がセレクトする商品の基準が書かれている。また、バルセロナの地元のデザイナーがつくった商品を多く取り扱っているようだった。
衣類のサプライチェーンの透明性を訴える「Who Made Your(My) Clothes」を鏡の横に掲げているお店もあった。
サステナビリティを前面に押し出しているというよりは、どの店舗も前提としてローカルの価値を大切にしており、バルセロナの風景の一部になっているのが印象的だった。多くのお店が20時ごろまでは開いているのもありがたい。
【参照サイト】Olokuti
昔ながらのキオスクをつながりの場にする「GoodNews Coffee」
ポイントが貯まったとき、マイボトルを持参したとき、飲みものが安くなるという取り組みをしているカフェは多い。そんな中、バルセロナ発のコーヒースタンド・GoodNews Coffeeは「お客さんがいいニュースを共有する」と、飲みものを安く買えるシステムを導入している。
GoodNews Coffeeのミッションは「コーヒー豆を収穫する人々から消費者にいたるまで、全てのサプライチェーンを通じてポジティブな経験を生み出す」ことであり、トレーサビリティを保証したコーヒー豆のみを使用している。店内はポップなデザインで溢れて、明るい空気感だ。バルセロナ市内には複数店舗があることから、喉が渇いたらサッと寄れるのもポイントだ。(2024年4月現在、バルセロナのほかにマドリード、フランス・パリにも店舗がある。)
もともと社交場として愛されていたカフェの価値を、人々のライフスタイルが変わった今も、異なる形で保とうとしているユニークな取り組みだ。
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【参照サイト】GoodNews Coffee
カルチャー愛好家にとっての隠れ家的スポット「El Noa Noa」
おしゃれなショップが立ち並ぶ、グラシア地区に位置ある書店兼カフェ「El Noa Noa」は、カルチャー愛好家にとっての隠れ家的スポットだ。El Noa Noaの書店では、LGTBQ+やフェミニズム、詩、アート、イラストレーション、デザインに特化した選りすぐりの書籍や雑誌、アート作品を取り揃え、小さな出版社や自費出版の著者、新進気鋭のアーティストの声を社会に届けている。
また、カフェではバルセロナで焙煎されたNomad Coffeeの専門カフェとして、質の高いコーヒーを楽しみながら、読書や心地よい会話を楽しむことができる。
創業者のロマン氏とビセンテ氏は、カフェを通じて独立文化を広め、定期的に小規模なイベントを開催することで、地元コミュニティの創造的な活動を支援しているのだ。バルセロナを訪れた際は、ぜひ小休憩に立ち寄ってみてはいかがだろうか。
【参照サイト】El Noa Noa
移民たちに職を与え自立を応援。地元民に愛される自転車屋「Bike Tech」
ビーチもあり、山もあるバルセロナ。スペイン第二の都市ながらコンパクトにまとまった街で、散歩を兼ねて30~40分歩いて移動する人や自転車移動をする人も多い。そんな自転車移動の味方となるのが、グラシア地区の自転車ショップBike Techだ。自転車の販売はもちろん、修理もお願いできる。
このお店の大きな特徴の一つが、店頭に飾ってあるOusman Numar氏の書籍だ。自身もかつてガーナから移民としてスペインに入国した経験を持ち、困難な状況を乗り越え、現在はアフリカの子どもたちに教育を届けるためのNGO団体・NASCO Feeding Mindsを運営している。
実は、Ousman氏がバルセロナに到着して初めて働いたのが、この自転車屋だった。自転車修理工として働きながら、学校に通うことで、NGOをつくり、ベストセラー作家にもなることができたのだ。
そんなOusman氏のような人々の後押しをするため、同店では今後移民支援プログラムを開始するという。今はスキルを持たない人たちでも、自転車修理の技術を身に着けることで、自分でお金を稼ぎ、新たな一歩を踏み出すことができる──そんな環境づくりの一翼となるバイクショップとなりそうだ。
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都市を車中心から人中心に。市民の憩いの場「スーパーブロック」
バルセロナ市は、市民中心型の都市計画において「スーパーブロック・プロジェクト(Superblock Project)」を推進している。同プロジェクトは、碁盤の目状に配置された街区の一部を歩行者と自転車専用の区域に変換し、自動車の通行を制限することにより、都市の生活品質を向上させている。交通による騒音や大気汚染の低減を目指し、市民の安全と健康を守るとともに、公共空間の利用価値を高め、地域コミュニティの活性化を促進しているのが特徴だ。
スーパーブロック内では、緑化された空間や、子どもの遊び場、広場などの新たな公共空間が生まれ、人々が集い、交流する場となっていた。また、市民が歩くことで地元の商店にお金を落としやすくなることから、地元商業の促進にも活用されている点も興味深かった。
編集後記
温暖な気候や美食、美しい建築などで知られるバルセロナ。実際に街を歩いてみて感じた心地よさは、ローカルを大切にしているからこそ生み出されるものだと感じられた。本当に車を飛ばして目的地に向かう必要があるのだろうか、環境を疎かにする方法で経済成長をする意味があるのか……他の多くの都市が見逃してきた大切な問いがここでは重視され、実際のプロジェクトや店舗の設計に結実しているようだった。街に暮らす人々が大切にされ、その過程でサステナビリティにも注目が集まるようになったのだろう。
ゆったりとした空気が流れながらも、活気のあるバルセロナの空気を、機会がある方にはぜひ感じてみてほしい。
Written & Photo by Risa Wanaka, Erika Tomiyama, Megumi
Presented by ハーチ欧州
ハーチ欧州とは?
ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。
事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact
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