「好き」に障壁なし。米・公共交通で自閉症の子どもたちがアナウンスを担当

Browse By

「こんにちは。僕はエリオット、11歳です」「私の名前はアリーヤ。電車やバスが大好きです」まだ幼い声が駅のプラットフォームに響き渡る。

4月、アメリカ・ワシントン。「電車に乗り降りする際は、ホームと車両の隙間に気を付けてください」「エスカレーターでは子どもの手をしっかり握ってください」日常的に耳にする内容のアナウンスをしているのは、自閉症の子どもたちだ。

これは、4月の自閉症受容(啓発)月間に合わせてワシントン首都圏交通局・メトロで開催された「Autism Transit Project(自閉症交通機関プロジェクト)」で行われた取り組みである。

メトロは、25人の自閉症の子どもたちを招待し、乗車アナウンスや安全のアナウンスを収録。録音されたアナウンスは公共交通機関システム全体で4月いっぱい放送されることとなった。

VOAの取材動画には、乗り物が大好きな子どもたちが録音をしたり、駅で実際のアナウンスを聞いて「自分の声だ!」と喜んだりする様子が収められている。同動画の中で、参加者の1人であるラファエルの母はこう語る。

ラファエルにとって、電車への愛を他の人たちと共有できるのはわくわくすることでした。彼にとって電車はただの移動手段ではありません。計画を立てたり、電車のタイミングを探ったり、型を予想したりするのを楽しんでいるのです。彼は最新の電車の型への興味を、別の男の子と分かちあっていました。

自閉症の子どもと電車のおもちゃ

Image via Shutterstock

この取り組みは、2023年の実施に続く2回目の試みとなる。2023年の実施時、メトロの理事長を務めるポール・C・スメドバーグ氏は「自閉症は障害ではなく、情報を処理し、世界を体験する方法が異なるのだということに注意することが重要です」と述べていた(※)

自閉症は、高機能自閉症、アスペルガー症候群とともに、「自閉スペクトラム症(ASD)」と呼ばれる。自閉スペクトラム症の人々は、相手の気持ちを読み取ることや会話が難しく、コミュニケーションが困難である、特定のものや行動へのこだわりが強い、興味に偏りがある、感覚の過敏さまたは鈍麻さがある、といった特徴を持つと言われている。

そうした様々な特性があるために、「障害があるなら、あれをするのは難しいよね」「あなたはちょっと変わっているから、これはできないよね」……そんなふうに決めつけられることも少なくはない。だが、障害は本当にその人の人生を制限してしまうのだろうか?

自閉症についての講演を行う作家のケリー・マグロ氏は、自身のWEBサイト「自閉症は僕を定義することはできない。僕が自閉症を定義するのだ」と綴っている。

プロジェクトに参加した子どもたちは、自信に満ち溢れ「自分自身を誇りに思う」と話していた。彼らの「好き」や前向きなエネルギーを止めることは、誰にもできないのだ。

本当の障害は、違いを障壁だと考える私たちの心にあるのかもしれない。

Autism awareness project connects kids and the trains they love(Washington Post)

【参照サイト】Metro observes Autism Acceptance Month with special in-station announcements by young transit enthusiasts(Washington Metropolitan Area Transit Authority)
【参照サイト】Transit announcements voiced by kids with autism in inclusive project(NBC NEWS)
【参照サイト】子どもの発達障害 「自閉スペクトラム症(ASD)」とは?アスペルガー症候群などとの違い(NHK健康チャンネル)
【参照サイト】ASD(自閉スペクトラム症)とは?診断や特徴、子どもへの対応について(LITALICO)
【関連記事】ニューロダイバーシティとは・意味
【関連記事】LEGOが店舗に“感覚過敏”対策セットを設置。自閉症の子の買い物ストレスを軽減
【関連記事】Googleが取り入れる「脳の多様性」自閉症の人のための採用プログラムを開始へ

FacebookTwitter