アメリカとメキシコの国境には「壁」と呼ばれる鋼鉄製のフェンスがある。メキシコからの不法越境者や、違法品を持ち込む密売人を防ぐ目的で設置されたものだ。国境の壁の近くでは、これまでにも多くの不法移民が収容されてきたが、現在もその問題は続いている。
トランプ前大統領の強硬な移民政策に続いて、実はバイデン政権下でもテキサス州の国境都市・ラレドに鉄とコンクリートでできた壁の建設が計画された。しかし、この壁が建設されることで、野生生物たちの水場が奪われたり、出産の場所に影響を与えたりする恐れがあった。また、国境を越えられない動物たちの個体群が分断され、生息地が減少し、河川の生態系が破壊されることも懸念されていた。
そうした問題を防ぐために始まった草の根運動「No Border Wall Coalition」は、国境の壁建設を阻止するために動いた。まずは、アメリカ・メキシコ両政府が、地元経済にプラスの影響を与え、貿易促進、観光強化のためのアイデアを募集。そして、テキサス州を拠点とする建築会社・Overland Partners社がこのエリアの開発を受注した。国境警備隊を含むアメリカとメキシコの代表者たちと協議を重ねながら、リオ・グランデ川沿いに1,000エーカー(東京ドーム約87個分)におよぶ公園をつくる、二国間プロジェクトを動かし始めたのだ。
このプロジェクトの目的は、川の保全強化、そして二つの国境都市間にコミュニティ・レクリエーションと教育の場を創出することだ。公園は「生態系復元エリア」「円形劇場がある文化エリア」「動物園があるレクリエーション・エリア」で構成される。現在、このプロジェクトは構想段階だが、この公園はアメリカとメキシコの人々が共有できる河川沿いのスペースとなる予定だ。
The Architect’s Newspaperの取材で、Overland Partnersの最高経営責任者リック・アーチャー氏は次のように話している。
この公園は、国境両側の差し迫った移民への課題に対する真の解決策です。メキシコのタマウリパス州ヌエボ・ラレドとテキサス州ラレドという二つの都市が一つのコミュニティとして構想されています。このアイデアが、世界中の国境都市に刺激を与えることを願っています。
2024年11月、アメリカで大統領選挙が行われる。移民問題が継続する中で、国境の「壁」のあり方はホットなトピックだ。アメリカとメキシコを分断する壁ではなく双方の国の住人の利益を願った二国間公園の建設は、多くの有権者の注目を集めることになるのではないだろうか。
【参照サイト】OVERLAND PARTNERS ARCHITECTS CHOSEN FOR BINATIONAL RIVER PARK
【参照サイト】Overland Partners designs binational park “as a prototype for border cities”
【参照サイト】Instead of a Wall, a Binational Park To Be Built on Border of Texas & Mexico
【参照サイト】#NoBorderWall Coalition
【参照サイト】6 ways the border wall could disrupt the environment
【関連記事】国境による分断をなくす。リアルタイムで都市と都市を結ぶ窓「Portal」