スマホを生物多様性の観測拠点に。ネイチャーポジティブを実現するプラットフォーム【鎌倉投信×バイオーム対談】

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PR by 鎌倉投信

鎌倉投信が運用するファンド「創発の莟」では、10年後や20年後の社会に必要とされるスタートアップの想いやビジョンを丁寧に紡いで事業を育み、彼らを長期的に支援している。

その投資先の一つである株式会社バイオームは、京都大学で生態学や生物多様性を研究してきたメンバーが中心となり、2017年に創業されたスタートアップだ。彼らは、環境保全と経済合理性を両立させるビジネスモデルを構築し、生物多様性を含めた自然資本を回復させる「ネイチャーポジティブ」に取り組んでいる。

IDEAS FOR GOODでは、鎌倉投信のファンド「創発の莟」の魅力を深掘りする連載記事を、1か月にわたり3本お届けする。第一回目の対談では、鎌倉投信がどのように社会変革を生み出すスタートアップを発掘し、事業を磨き上げていくのか、投資判断の考え方や描く未来について、鎌倉投信 「創発の莟」チームに話を聞いた。第二回の今回は、バイオーム株式会社CEOの藤木庄五郎さんと鎌倉投信創発の莟ファンド運用責任者である江口耕三さんの対談をお届けする。

現在、世界の動植物約100万種が絶滅の危機にあるとされている。バイオームは、世界中の生物の情報をビッグデータ化し、生物と人間の架け橋になることで「環境を守ることが利益を生む」新たな仕組みの構築にチャレンジしている。そんなバイオームのユニークなビジネスモデルと、鎌倉投信との出会いについて聞いた。

連載:お金ではなく、想いでつながる。鎌倉投信「創発の莟」ファンドを探る

【第1回】お金ではなく、想いでつながる。地域に根差す日本流VC鎌倉投信の「創発の莟」ファンド
【第2回】スマホを生物多様性の観測拠点に。ネイチャーポジティブを実現するプラットフォーム【鎌倉投信×バイオーム対談】
【第3回】福祉の常識を塗り替える。会社と社会が「同じペースで」成長することを目指す【鎌倉投信×ヘラルボニー対談】

左:藤木庄五郎さん 右:江口耕三さん

左:藤木庄五郎さん 右:江口耕三さん

話者プロフィール:藤木庄五郎(ふじき・しょうごろう)さん

1988年、大阪府出身。2017年3月京都大学大学院博士号(農学)取得。ボルネオ島の熱帯ジャングルにて2年以上キャンプ生活をする中で、環境保全を事業化することを決意。博士号取得後、株式会社バイオームを設立、代表取締役に就任。生物多様性の保全が人々の利益につながる社会を目指し、世界中の生物の情報をビッグデータ化する事業に取り組む。

話者プロフィール:江口耕三(えぐち・こうぞう)さん

総合商社等を経て起業。これまでに3社のスタートアップをIPOに導く。2020年から鎌倉投信に参画し、創発の莟ファンドを立ち上げる。

従来の仕組みに代わる「環境を守ることが利益を生む」社会の仕組みをつくる

Q. 藤木さんがバイオームを創業したきっかけを教えてください。

藤木さん「子どもの頃は、川やため池で釣りや虫取りをしていて、幼少期から生き物の豊かさや生物多様性に強い興味を持っていました。一向に止まらない環境破壊をどうにか食い止めて環境保全に取り組むために、最初は研究者として大学で研究しようと思っていました。

ところが、インドネシアのジャングルで研究を行いながら環境破壊の本質について考えていると『環境を壊せば壊すほど利益を得られる社会の仕組みがあるのでは』と思うようになりました。環境保全を進めるには、この既存の社会の仕組みとは反対の『環境を守ることで利益を得られる』社会の仕組みを用意する必要があると気づきました。

そこで、研究という非営利的な活動ではなく、環境保全をビジネスとして成立させるモデルケースになることを目指そうと思いました。環境保全がビジネスになり利益を生むことで、他の企業も参入し、それらの企業が利益を生めば生むほど環境保全につながるというサイクルを回していきたいです」

藤木庄五郎さん

藤木庄五郎さん

生物多様性の課題の背景には、数値的な評価の難しさが

Q. 創業当初の課題や描いていた未来像・社会像を教えてください。

藤木さん「社会の仕組みを作るための方法論の話になりますが、生物多様性は、そもそも数字などで評価することが難しいという背景がありました。例えば、気候変動対策のための脱炭素の取り組みでは、二酸化炭素の排出量が数値で評価され、それに基づいて目標が設定され、行動計画が策定され、振り返りが行われ、次の行動計画を策定するというプロセスが取られます。しかし、生物多様性の場合、数値として一切見えてこない状況だったため、気候変動より先行して進んでいた脱炭素の取り組みをモデルケースにして、生物多様性も数値化・デジタル化することで、マーケットを形成することが必要だと考えました。

大学時代はリモートセンシング(※)の手法を使って、衛星画像から生物の存在を予測する方法を模索していましたが、現場での生物情報収集が一番のボトルネックでした。そこで、インドネシアで2年間以上キャンプ生活をしながら現場データを収集し、研究は約6年続けましたが、集めたデータはとても些細なもので、1人のデータ収集量では不十分だということがわかりました。

そんな中、現場の生物情報をより多く収集する手段としてすでに世界中に普及しているスマートフォンに注目しました。スマートフォンにはGPSが搭載され、インターネットに接続でき、日時情報も取得できます。さらに、写真も撮影できるので証拠を残せます。スマートフォンを観測拠点にして、生物多様性データをプラットフォーム化していく方向性を見い出していきました」

※物を触らずに調べる技術のこと

バイオームのアプリ

「Biome」のアプリ画面

地球には人間以外の生物の方が多いのに、そのほとんどはデジタル化されていない

Q. 具体的にはどのように生物多様性データをデジタル化・プラットフォーム化していくのでしょうか。

藤木さん「スマートフォンの所有者が私たちの提供するサービスのユーザーになるので、いかに多くの人々に使ってもらえるサービスにするかを考える必要がありました。まだポケモンGOがなかった時代に、ゲーミフィケーション、いわゆるポケモンGOのリアル版のようなプロダクトの開発を始めたのです。生き物を見つけて写真を撮って集めたり、図鑑でその生き物を見つけるとレベルが上がったり、生き物の種類によって異なるレア度が表示されたりと、みんながコンテンツを楽しむことを通じて、自然とデータを蓄積できる仕組みを考えました。

デジタル化によるプラットフォームビジネスと言えば、Amazonが小売のデジタル化によって巨大なオンライン市場をつくり、Facebookは人間関係をデジタル化しました。X(旧Twitter)は、人々の思想をデジタル化しています。人間に関連する領域のデジタル化はすでに進みきったと言えるほど大きく進んでいますが、一方で自然や生物などの非人間的な領域については、ほとんどデジタル化が進んでいないと思っています。この領域のデジタル化を進めプラットフォームをつくることで、他の領域と同様に市場が形成され、新たなビジネスが生まれる可能性があると考えています。『生物版Google』のように、あらゆる生物をデータベース化して検索を可能にするような一つの大きなプラットフォームをつくることを目指しています」

藤木庄五郎さん

藤木さん

世代を超えてつながった想い「この世界から環境破壊をなくしたい」

Q. お二人が出会ったきっかけや投資の決め手について教えてください。

江口さん「京都に変なやつがいるぞって、知り合いから紹介されたんです(笑)世代は違いますが、私と藤木さんはおそらく育った環境が似ていたのだと思います。私は環境活動家の母親の影響を受けて、環境を守る仕事がしたいと思い総合商社に入社しました。しかし入社してみると、2か月もたたないうちにインドの鉱物の採掘現場で現場監督を任され、採掘現場でダイナマイトのスイッチを押す役割を果たさなければならなくなりました。そこで、環境とビジネスは利害が一致しないことを痛感した経験があります。恐らく藤木さんと私は、根っこにある問題意識が共通しているのだと思います」

江口耕三さん

江口さん

藤木さん「Googleが自動運転や医療などのあらゆる産業に参入しているように、生物のデータベースを持っているバイオームもそのデータを活用してさまざまな産業にサービスを提供することが可能です。つまり、一つのビジネスモデルで会社を大きくしようとはしていないのです。そのため、投資家にビジネスモデルを理解してもらうのが難しく、多くの投資家から『ビジネスモデルを示せ』『そんなことで儲かるわけがない』と言われ続けました。しかし、江口さんは、その部分をすぐに理解してくれた異例の人物で、感覚的にバイオームがやろうとしていることの重要性を理解してくれました」

江口さん「生物とその関係性をデジタル化するという斬新な発想を聞いた時は、そのアイデアに度肝を抜かれました。それが、2年間もボルネオ島で地を這うような研究をしてきた藤木さんの言葉だったことも大きいです。その後、何度か話を聞いてバイオームのメンバーにも会い、生物多様性の調査にも同行し、支援を決めました。初めて会ったのが2022年の10月で鎌倉投信が出資をしたのが3月です。たった半年で投資判断に至ったのは、かなり早いケースです」

左:藤木庄五郎さん 右:江口耕三さん

藤木さんと江口さん

経済性と社会性を一体化させたビジネスモデル。生物と人間をつなぐ解釈をつくることでその架け橋になる

Q. 事業の社会的価値をどのように可視化していますか。

藤木さん「新しい価値を生み出すためには、生物多様性と人間を繋ぐために一つの解釈をつくる必要があると思っています。『ここにこんな生物がいます』というデータだけでは、何も生まれません。一方で、例えば『この地域に多くの渡り鳥がいるので、周辺の養鶏場は鳥インフルエンザのリスクが高い』という解釈を挟むと、人間と生物の関係が明らかになります。このように、可視化したデータをそのまま繋ぐのではなく、データから得られた解釈を一つ挟むことで人と繋ぐことができます。

また、蓄積されたデータから、解釈を生むプロセスに、農業や一次産業に限らずさまざまな業界の人を巻き込むことができ、一つのデータをとっても様々な観点で価値を生み出していくことができると思います。生物多様性保全がビジネスになるための架け橋になっていきたいと思っています。そして、バイオームは環境保全に関わる事業しか行わないことをポリシーにしているので、売上の増加は環境へのインパクトの増加と同等だと捉えています。経済性と社会性を一体化させているので、売上自体が社会的価値の可視化になるということです」

江口さん「都心に森林をつくって生物多様性を保全するという『大手町の森』プロジェクトのように、生物多様性に取り組む企業も増えています。バイオームでは、そのような場所で生物多様性のモニタリングをするサービスも提供しています。飛来する鳥や昆虫の種類が増えるといった変化を可視化できると、その重要性は明らかになり、その土地の価値向上にもつながってきます。そのためには、やはり生物多様性の可視化が不可欠です」

左:藤木庄五郎さん 右:江口耕三さん

藤木さんと江口さん

スタートアップの理念を尊重。一番の理解者として側で支援をしていく

Q. 鎌倉投信の具体的な支援について教えてください。

江口さん「鎌倉投信は、スタートアップのビジョンや思想そのものを変えるのではなく、彼らのビジョンを具体化し、市場を広げるフェーズや迷いが生じた局面で、一番の理解者としてそばで支援をしています。バイオームに関しても、藤木さんやチームメンバーのアイデアが優れているので、その意見を尊重し、ビジネスモデルや組織に関することは口を出さないと決めています。

以前、生物多様性の調査に同行した際に、一日中メンバー同士の会話を聞いていましたが、メンバーが皆、生物や植物の専門家でエコシステムに理解があるので、自己主張するのではなく、周囲への配慮や自身の組織への関わり方・影響などを常に意識しているのが興味深かったです」

藤木さん「私たちは生態系をイメージした組織を作りたいと思っています。生き物は種の存続を考えた行動をするため、自己主張は強くないけれど、組織としてはまとまっていて強いのです」

江口さん「また、いま鎌倉投信がバイオームにできる支援は、市場を広げるために金融業界と大手企業を動かすことです。生物多様性に関心の高い欧州企業は話すとすぐに理解してくれるのですが、日本企業はまだ目の前の短期的な利益が優先される傾向にあります。鎌倉投信では、昨年の6月頃から企業の関係者と生物多様性の取り組みについて議論する『ネイチャーポジティブスクール』を開設し、啓発活動を開始しました。ESG投資のように、金融機関や機関投資家の意識や行動が変わると大手企業もその影響を受けるので、まずは金融業界や投資家の意識を変えていきたいと思っています」

江口耕三さん

江口さん

藤木さん「鎌倉投信さんは、未来の道筋を描き、それを鮮明にする手伝いをしてくださいます。僕らが今まで考えつかなかったような領域から支援を引っ張ってきてくれるのもとてもありがたいです」

企業の成長スピードだけでなく、社会の成熟スピードにも合わせた鎌倉投信の支援

Q. 鎌倉投信と共創していく中で、企業の成長スピードについて気づきや感じられていることはありますか?

藤木さん「社会の成熟スピードに合わせて私たちの成長を見守ってくださっていると感じます。

一般的なVCファンドの支援を受けてIPO(新規株式公開)などを目指すと、社会のニーズが追いつかない状況でも、株主から売上を伸ばすよう要求されることもあります。しかし、現時点では生物多様性に関する企業の意識はまだ低く、私たちがどれだけ焦っても、社会に変化が生まれない限り、事業が成長しない側面があります。

鎌倉投信さんはそうしたことを理解し、社会の緩やかな流れを把握した上で、私たちの成長スピードを認識して、しっかりと支えてくださるところが、本当にありがたいです」

Q. 藤木さんにとって鎌倉投信はどのような存在ですか?

藤木さん「理念に強く共感してくれるメンターのような存在で、金銭的な側面よりも、思想的な支えになっています。私や会社が誤った方向に進みそうなときに、ビジネスにも精通し、私たちのこともよく理解してくれる江口さんが株主としていてくださることは、非常に助けになっています。10年後に振り返ったときに、鎌倉投信さんとバイオームのコンビが世界を変えたと、バイオームのプロダクトが世界の分岐点になったと言ってもらえるように頑張ります」

藤木庄五郎さん

藤木さん

新たなお金の流れをつくっていくために、社会構造を変革するスタートアップを支援する

Q. 今後の展望についてお聞かせください。

藤木さん「今後は金融業界がどのような仕組みを作り、どのように他の部門と連携して環境保全に取り組んでいくかが重要になっていくと思っています。目先の利益ではなく環境を保全していく事業や活動に資金を配分することが重要です。最終的には生物多様性保全は金融商品になると考えています」

江口さん「鎌倉投信は『お金の流れを変えていきたい』という思想を持っています。これまでの資本主義での、目先の利益にお金が流れる仕組みにより、環境破壊が進み、生物多様性が失われています。ですから、私たちはバイオームのような企業を支援することによって、環境を保全することで利益が得られるお金の流れをつくっていきたいです。そしてこの分野に本格的に資金が流入し始めたときに、社会変革が起きるのだと思います」

Q. バイオームが描く未来について教えてください。

藤木さん「最終的には『環境保全』という言葉がなくなる社会になってほしいなと思っています。全ての製品やサービスが環境に配慮されていて、一般の人々が環境保全ために意識的に行動を変えなくても、生活しているだけで環境を守っている状態になるのが理想です。その状態を作るまでのプロセスの中で市民の意識を高めることも必要かとは思いますが、最終的には、市民の意識に依存せずに、誰がどう思っていようが環境を守れる社会の仕組みをつくることが重要だと思っています。

一方で、ネイチャーポジティブや生物多様性といった環境的な文脈にとらわれず、虫の面白さや鳥の可愛さなど、皆さんに生き物の魅力を知ってもらって、難しく考えずに目の前の自然を楽しむところから始めていただければと思います。こんなに美しくて楽しいものを失ってしまったら、私たちの人生がとても貧しくなってしまうと思うので」

藤木庄五郎さん

藤木さん

取材後記

取材を通して、バイオームCEO藤木さんと鎌倉投信江口さんの深い信頼関係が感じられた。藤木さんは、金融やビジネスの専門家として江口さんに信頼を寄せ、江口さんは生態学や生物多様性の専門家である藤木さんやバイオームメンバーの考えを尊重し、彼らがのびのびと事業を育むことができるようサポートしているよい関係性が伝わってきた。

取材では、藤木さんの生き物への愛や専門性も垣間見えた。

「鳥や羽のある昆虫など遠くまで移動できる生き物は、普段暮らしている場所が温暖化などの環境変化にさらされても移動によってそれをしのぐことができる。しかし、カエルのような移動距離の短い両生類は、どうしてもその変化に巻き込まれ、絶滅危惧種となりやすい。また、山の上で暮らす高山植物や生物も頂上付近まで追いつめられると、より高い別の山には移動できないので、絶滅してしまう」

改めて聞くとはっとさせられる話が多く、人間は生態系の一部でしかないのに、あまりにも周りの生き物に無関心で身勝手に生きていることを痛感した。藤木さんが最後に話していたように、生き物の楽しさや素晴らしさに触れ、「目の前の自然を楽しむ」ことが、生物多様性保全の第一歩なのかもしれない。

また、機関投資家が企業に求めるESG投資の観点においても、生物多様性と自社の事業を関連付けて取り組んでいる企業は少ない。これから生物多様性のスコアを上げることに企業の関心が向くようになり、市場が大きくなるのではないかと感じた。

※ 「創発の莟ファンド」は上場会社や機関投資家などの特定投資家向けの適格機関投資家専用私募ファンドです。個人のお客様など、一般投資家の方がこのファンドに持分出資することはできません。また、ファンドへの出資の公募はおこなっておらず、このWEBサイトは出資の勧誘を目的とするものではありません。

Edited by Kaho Fukui, Motomi Souma, Erika Tomiyama
写真撮影:cicaco

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