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ゲーミフィケーションとは・意味

ゲーミフィケーションとは、課題解決や人々の行動変革に向けて、ゲーム以外の領域にゲームデザインの技術やメカニズムを利用することを指す。ユーザーが楽しみながら取り組めるような活動設計を行い、ユーザー自身が意図せずとも結果として課題解決や行動変革に貢献できるような仕組みを実現することが目指される。

ゲーミフィケーションの歴史

「ゲーミフィケーション」という言葉が一躍有名になったのは2010年代。2010年にゲームデザイナーで研究者のジェイン・マクゴニガルがTEDトークにて「ゲームはより良い世界を作ることができる」という画期的な講演を行い、ゲーミフィケーションの有効性を世に広く知らしめたとされる。2012年にはアメリカの調査会社であるガートナー社が、2014年までに「グローバル2000企業(世界の公開会社上位2000社を指す)の70%が、少なくとも1つのゲーミフィケーション・アプリケーションを導入する」と予測した。

とはいえ、ビジネスや教育分野などにゲーム性を持ち込む発想自体は決して新しいものではない。ゲーミフィケーションには長い歴史があるのだ。

たとえば1900年代に生まれたボーイスカウトでは、ゲーミフィケーションの考え方が導入されている。ボーイスカウトのメンバーは活動に熟達したり、組織の原則に従って行動したり、特別なイベントに参加したりすることでバッジを獲得することができる。バッジを授与し、その功績を称えることでメンバーのエンゲージメントを高めたのだ。

また、1981年、アメリカン航空は世界初のマイレージプログラム、AAdvantageを発表した。このプログラムは頻繁に利用する顧客に特典を提供することで、顧客の満足度を高めようとするものである。これは現在でも街中のコーヒーショップなどで見られるモデルだ。

ゲーミフィケーションの有効性についての論文が出始めたのは1981年。同年マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院のトーマス・W・マローンは、コンピュータゲームがユーザーを惹きつける能力を発揮していることから、その可能性を探る論文「Toward a Theory of Intrinsically Motivating Instruction」と「Heuristics for Designing Enjoyable User Interfaces」を発表した。

なお、1990年代にはゲームのトレンドが数百万人に広まる。90年代には、アメリカの家庭の約30%が任天堂の家庭用ゲーム機を持っており、また多くのゲームがユーザーにポイントやバッジ、実績を与えるようになっていた。

カナダのソフトウェア企業Spinifyも、イギリスのSAAS学習テクノロジー企業Growth Engineeringもそれぞれのウェブサイトにて、2002年にゲームデザイナーのニック・ペリングが「ゲーミフィケーション」という言葉を作ったことで、ゲーミフィケーションの歴史が真に始まった、と紹介している。ニック・ペリングは、自動販売機やATMのゲーム風ユーザーインターフェースをデザインしていた。彼が作り出したこの言葉は、2010年後半に広く使われるようになる。

ゲーミフィケーションの事例

ゲーミフィケーションは、特に一般的に人々が関心を持ちづらい社会課題の解決手法として有効だ。ゲーミフィケーションの事例として有名なのが、フォルクスワーゲン社が提唱した「ファン・セオリー」という考え方だ。

「ファン・セオリー(Fun Theory)」とは、文字通り「Fun(楽しさ)」こそが人々の行動を変革する一番シンプルな方法であるという考え方のことを指す。具体的な事例としては、下記の2つが挙げられる。

エスカレーターではなく階段を使ってもらうには?

上記の事例では、人々に健康のことを考えてエスカレーターではなく階段を使ってもらうために、階段をピアノの鍵盤に見立て、ステップを踏むたびに音が奏でられるという仕掛けを用意した。この実験では、いつもより66%も多くの人がエスカレーターではなく階段を利用するようになった。

ゴミをゴミ箱にちゃんと捨ててもらうには?

上記の事例では、公園内でのポイ捨てを減らし、人々にゴミをゴミ箱にしっかりと入れてもらうために、ゴミ箱に特殊な音声の仕掛けを用意した。ゴミを投げ捨てると、そのゴミがはるか下まで落ちていくような効果音が聴こえるようにしたのだ。この結果、一日で72kgものゴミを回収することに成功したという。

膨大な数のバグをチェックするためには?

もちろん上記2つ以外にもゲーミフィケーションの事例はある。

ソフトウェア企業であるマイクロソフトは世界中に製品を販売している。世界中に販売するためには、ソフトウェア内のテキストをさまざまな言語に翻訳する必要があるが、国債市場への出荷が予定通りにいくかどうかは、翻訳のスピードと正確さの両方にかかっている。

そこでマイクロソフトは「Language Quality Game」を作成。「Language Quality Game」はバグチェックをゲーム化したもので、バグを見つけるたびにポイントを得ることができる。通常、ソフトウェアの翻訳に携わっているグループだけでなく、マイクロソフトの社員4,500人が任意で「Language Quality Game」に参加し、翻訳ミスを見つけるゲームが行われた。マイクロソフトは他にも「The Code Review Game」や「PageHunt」といった同様のゲームを実施している。

業務内容、安全手順を確実に理解してもらうためには?

大手量販店のウォルマートは、従業員研修にゲーミフィケーションを導入した。ウォルマートが開発したシミュレーションゲーム「Spark City」は、部門マネージャーが毎日行っている業務がゲームになっている。スーパーの店内で接客や商品補充を行いながら、バックルームの管理や緊急事態に対処することでポイントが得られる。このゲームはウォルマートの研修センターの新人研修で使用されている。

また同社は配送センターの従業員の安全教育・研修にもゲーミフィケーションを導入している。従業員は3〜5分間、安全に関する質問に答えるといったゲーム要素のあるトレーニングを行う。このプラットフォームは従業員の回答を即座にフィードバックする。次に従業員がゲームをする際、従業員が知っている知識を補強するための問題が出されたり、苦手な分野においては知識を強化するために再度問題が出されたりする。

この仕組みは、従業員の安全性に関する知識とその定着度の向上に寄与している。ウォルマートの8つの配送センターでは、上記ゲームの試験期間中に安全性に関わる事故が54%減少したという効果を発揮した。

イベント会場の回遊性を高めるためには?

古くから親しまれているスタンプラリーは、イベント会場の回遊性を高めるゲーミフィケーションだ。来場者がイベント会場のあちこちに用意されたスタンプを集めていくことで、ブース全体への回遊性が高まる。

シャチハタ株式会社が提供している「重ね捺しスタンプ」は、台紙の同じ場所に1色ずつスタンプを捺していくことで絵柄を完成していく仕掛けがある。従来のスタンプラリーではスタンプを集めることが報酬になっていたが、「重ね捺しスタンプ」はユーザーに絵柄を完成させていく達成感を与えている。

そのほかのユニークなゲーミフィケーション

マーケティングやマネジメント、テクノロジーやソフトウェアといったあらゆるビジネストピックを対象に情報を提供するサイト「G2 Learn Hub」では、ゲーミフィケーションを導入したさまざまな事例を紹介している

たとえば、ランニングアプリである「Nike Run Club」はゲーム要素を使って、走った距離や歩いた距離を表示し、トレーニングの内容をパーソナライズする。また、メンタルヘルス・ウェルネスアプリ「Headspace」は、ガイド付きの瞑想やゲーム、その他のレクリエーション・アクティビティを備えており、ユーザーが瞑想を継続することで報酬を得ることができる。報酬にはキャッシュバックやメンバーシップの延長、マインドフルプレイリストなどがあり、ユーザーが瞑想を続ける高いモチベーションにつながっている。

日本のケンタッキー・フライド・チキン(KFC)の店舗が行った宣伝方法もユニークだ。

日本のKFCはゲーミフィケーションを利用して新作の宣伝を行った。任天堂と共同で制作されたゲーム「エビヶ原の戦い(Shrimp Attack)」では、果物をカットしていくコンピューターゲーム「Fruit Ninja®(フルーツ忍者)」のように、ユーザーはできるだけ多くのエビをスライスしてKFCの城を守らなければならない。このゲームはKFCのウェブサイトにアクセスすれば誰でも無料でプレイできるというもので、最寄りのKFC店舗で使用できるクーポンを得ることができた。集客に苦戦していたKFCだが、ゲーム登録者数の増加に伴い、KFCの売り上げは最終的に106%増加している。

ゲーミフィケーションの重要性とメリット

ゲーミフィケーションは人々の行動に影響を与える最良のツールの一つだ。ゲーミフィケーションは以下の点で非常に高いメリットを与えるものになる。

高い市場価値

ゲーミフィケーションは今後も高い影響力を持つとされる。その市場価値はますます高まっている。Fortune Business Insightsによる市場調査レポートによると、2019年の世界のゲーミフィケーション市場の価値は約63億3000万ドル(2024年5月現在、日本円で約9951億円)で、2027年には370億ドル(約5兆8,359億円)に達すると予想されていた。

Precedence Researchの調査レポートでは、2021年、世界のゲーミフィケーション市場の価値は105億ドル(約1兆6,460円)と推定された。その推計によると、2030年には968億ドル(約15兆2190億円)に跳ね上がる。北米だけでも、2021年のゲーミフィケーション市場の価値は38億ドル(約5,957億円)だった。

これらの調査結果は、ゲーム以外の領域にゲームデザインの要素を加えることが、その幅広いメリットのおかげで信じられないほど重要になっていることを示している。

高い有効性

ゲーミフィケーションの有効性は実証されている。

たとえば、教育分野におけるゲーミフィケーションに関する研究において、科学者たちはゲーミフィケーションが学習にどれほど効果的であるかを調べた。彼らは3つのグループの学生を比較する中で、人体解剖学の学習にゲームの要素を加えたグループの方が成績が良いことを明らかにした。学生たちがランキングやポイントなどのゲーム要素に反応したことで、彼らの学習成果が大幅に向上したのだ。

ゲーミフィケーションに関する調査や研究は数多くあるが、さまざまな分野においてもゲーミフィケーションが、特に顧客を巻き込み、顧客満足度を高めたい企業にとって、効果的なマーケティングツールだという結論が共通している。

モチベーションの向上

ゲーミフィケーションは、ゲーム要素によって人々の関心を惹きつけたり、人の競争心を高めたりすることで、ユーザーのモチベーションを向上させる。

たとえば競争心をかき立てるような仕組みは、特定の活動やタスクに取り組む意欲を高めることができる。人は、勝ちたい、誰かよりうまくやりたいという強い欲求によって献身的になるからだ。

またゲーミフィケーションは、ユーザーが自分の進歩を確認できるようにすることで、ユーザーのモチベーションをさらに高める。あらゆるビデオゲームで、プレイヤーはゲーム内の自分の位置や、ゲームの進捗状況を確認できる仕組みが共通している。この仕組みによってプレイヤーは自分がゲームをどこまで進めたのか、いつ次のレベルに上がれるかを正確に知ることができる。この要素は、ゲーム領域以外に用いられた場合でも重要だ。人は、自分が進歩していることを感じたり、見たりすることで、参加意欲が高まったり、参加者が増えたりする。

情報定着率の向上

先で紹介したウォルマートの事例のように、従業員研修にゲーミィフィケーションを取り入れることで、研修中に伝えたい情報をより記憶に残るような形で提供することができる。通常、研修は退屈なものだと思われ、敬遠されがちだが、何らかの形でゲームの要素を加えるだけで研修はより楽しいものになる。ゲーム化されたコンテンツに人々が熱心に参加するようになれば、人々はより多くの情報を保持することができる。

情報保持率を向上させることは、ユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験)の向上にもつながる。ゲーミフィケーションでは、いくつかのタスクをゲームのように見せることで、ユーザーのモチベーションを高めるが、その結果、より多くの情報が人々の記憶に残り、モチベーションや参加意欲などを向上させることになる。これは主に、アプリやセールスに適用され、さまざまな業界で機能している。

ゲーミフィケーションのデメリット

もちろん、ゲーミフィケーションにはデメリットもある。たとえば以下のものがあげられる。

  • 課題のレベルの設定が難しい
  • 課題が難しすぎてクリアできないと、モチベーションを維持できない
  • ゲーミフィケーションの導入により業務方法が変わることで、かえって効率的に業務を進められなくなる。

一人ひとりのレベルに合わせた課題設定が必要になるため、実践が難しく感じられることもあるはずだ。ゲーミフィケーションを取り入れた新しい方法をすぐに受け入れられる人ばかりではないため、新しい方法を押し付けてしまうとかえって効率が悪くなる可能性もある。

またゲームの場合、その内容が面白くなければ最後までプレイされずに飽きられてしまう。それはゲーミフィケーションも例外ではない。

まとめ

人々を惹きつけ、ユーザーの満足度を増加させるゲーミフィケーション。社会課題の解決に向けて人々の行動変革を起こす方法としては啓蒙活動や規制なども考えられるが、少し頭を柔らかくしてゲーミフィケーションの観点から人々が楽しく問題解決に関われるような仕組みを考えるのも有効だ。「やったほうがいい」と思っている取り組みを、どう「やりたい」取り組みに変えるか。ちょっとした工夫やアイデアが、大きな変革をもたらす可能性もある。

【参照サイト】What is gamification? | BI WORLDWIDE
【参照サイト】The History of Gamification: From the Beginning to Right Now
【参照サイト】Who started gamification? – Spinify
【参照サイト】シヤチハタ スタンプラリー|Shachihata Inc.
【参照サイト】Language Quality Game
【参照サイト】社員教育のゲーミフィケーションの動向
【参照サイト】部門マネージャーの仕事を学べる、シュミレーションアプリ「スパークシティ」が話題
【参照サイト】How Walmart used gamification to address safety practices
【参照サイト】12 Best Examples of Gamification Across Business Spheres
【参照サイト】Why Gamification is Important & Its Benefits | Spinify.
【参照サイト】Global Gamification Market Size & Share | Growth Analysis, [2031]
【参照サイト】Gamification Market Size US$ 116.68 Billion by 2032
【参照サイト】Effects of Gamification on the Benefits of Student Response Systems in Learning of Human Anatomy: Three Experimental Studies – PMC

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