米・マサチューセッツ州、全コミュニティカレッジを無償化。富裕税で教育を平等に

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ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学など、アメリカには世界最高水準の大学が多数存在する。しかし、近年はその学費の大幅な値上げが社会問題となっている。米国教育統計センターによれば、同国の公立大学の授業料は1980年から2022年の間におよそ3倍に上昇(※)。さまざまな奨学金制度も用意されているが、その返済に苦しむ若者も少なくないという。

一方で、アメリカには4年制大学のほか、コミュニティカレッジと呼ばれる2年制の大学システムもあることをご存じだろうか。公立大学のひとつとして長い歴史を持っており、「望めば誰でも学べる」ことをポリシーに、地域住民に対し教育機会を提供することを主な目的としている。

一般的な4年制大学と比べると学費が安価で、高校卒業の資格さえあれば試験を受けずに入学できるのが特徴だ。2年間で卒業すれば他の4年制大学の3年次に編入できるなど、次につながるステップも用意されている。1901年にイリノイ州にジョリエット・ジュニア・カレッジが設立されたのがその歴史の始まりで、主に低所得者層や、人種的マイノリティの受け皿となって発展してきたという。

そんなコミュニティカレッジへの敷居をさらに下げ、教育の機会を多くの人にひらくプログラムが2023年8月、マサチューセッツ州で始まった。その名も、MassReconnectだ。

内容は、25歳以上のマサチューセッツ州民に対し、州内の15のコミュニティカレッジ全てを無料にするというものだった。そしてプログラム開始から一年後の2024年8月には、さらに予算を増やすことでその年齢制限も撤廃した。

これにより、過去1年間以上のマサチューセッツ州への居住、高校卒業資格保持、学位未取得などを条件に、年齢や収入にかかわらず誰でもプログラムに申請できるようになった。学生には授業料に加え、学年ごとに最大1,200ドル(約17万2,836円)分の書籍や学用品、その他の費用に対する手当も支給されるという。

また、このプログラムには、2023年8月の段階では2,000万ドル(約28億8,059万)、2024年8月からは1億1,750万ドル(約169億2,352万)の州予算が充てられている。その資金は、2023年から適用された、100万ドル(約1億4,402万)以上の所得を得ている住民に対し課される「ミリオネア税」から集められたという。

マサチューセッツの様子

Image via Shutterstock

CBS Newsによれば、マサチューセッツ州のマウラ・ヒーリー知事は今回の決定に対し、「この最初の年に最大8,000人の学生を支援すること、そして今後数年間でその数が増加することを期待しています。基本的に、このプログラムは学生への長期的な投資であるだけでなく、私たちの州全体への投資でもあります」と述べている。

パンデミック後に訪れた急速なインフレなどにより、生活に困窮する人が増えるアメリカ。教育は一部の恵まれた人々だけが“購入”することのできる贅沢品になりつつあるのかもしれない。しかし、教育の機会は本来ならば全ての人に開かれているべきだ。そんななか、富裕税を原資に教育機会を広げる決断をしたマサチューセッツ州から学べることは多いのではないだろうか。

College tuition inflation: How the cost of college has risen over time

【参照サイト】MassEducate
【参照サイト】Massachusetts Millionaire’s Tax will help pay for new free community college program
【参照サイト】Free community college is now reality in Massachusetts. Here’s who is eligible and how to apply.
【参照サイト】アメリカの「コミュニティ・カレッジ」とはどんな大学か?
【参照サイト】学費高騰のアメリカ、若者たちを苦しめる学生ローンと言う名の巨額負債
【関連記事】ヒップホップは、アメリカの教育をどう変えているのか

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