ラクダの鼻の形を真似た「冷却ヘルメット」。史上最も暑い地球で屋外労働者の命を救うか

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今年も、暑い一年となった。EUの気象情報機関・コペルニクス気候変動サービスは、「2024年が史上最も暑い年になることはほぼ確実な見込みである」と、11月7日時点で年明けを待たずして発表している。さらに日本では、2024年の秋は過去126年で最も暑かったと報じられた

この気候の変化は、私たちの健康にも直接的な影響をもたらす。体育や部活動、外出そのものにも注意が喚起され、身体の安全のため熱中症への警戒が強まっている。しかし一部の労働者は、どうしても屋外で活動しなくてはならないことも多い。さらに彼らの多くは、現場でヘルメットを被らなくてはならない。これでは、強い日差しのもとでさらに体温を上げてしまうだろう。

気候変動が進む中、屋外労働者の熱中症をはじめとした病気を防ぐには何ができるか──そんな問いから生まれたのが、韓国・弘益大学の学生3人が開発した頭部を冷やすことができるヘルメット「TAILWIND」だ。

ヘルメットが熱を逃す仕組みは、大きく3段階。まず、二層の間から風を取り込み、日差しが当たっていない状態の空気を取り込む。その後、流体が一定方向に流れやすい構造・テスラバルブ型の通路になるようヘルメット内に設置されたスポンジの間を通ることで、逆流を防ぎながら汗の蒸発を促進する。最後に、冷たい空気が背中側の首や背中に流れ込むという仕組みだ。

プロトタイプでは、TAILWINDは通常のヘルメットと比べて顔まわりの温度を2〜3度ほど下げることができたそうだ。これにより、世界全体で熱関連の疾患に陥る2,000万人、さらには死に至る7万5,000人を救うことにつながる試算なのだという。また、この形状は砂漠を生き抜くラクダの鼻腔構造を参考にしており、バイオミミクリーの好例と言えるだろう。

3人は、気候変動が進む中で熱関連の疾患事例の多くが屋外労働者であることに気づき、インタビューを実施。すると、屋外労働者は常に密閉型の安全ヘルメットを着用していることにより、周囲と比べて体温がおよそ3〜5度高くなっていることが分かったそうだ。これがきっかけとなり、TAILWINDの開発に至った。

追加の電力を大量に投入することなく「形」により冷却を可能にするTAILWINDは、ソリューションによって新たな環境負荷が生まれるジレンマも抑えることができるだろう。気候変動の影響を受けやすく、より深刻なリスクに晒されるのは誰か。そんな視点を持って周りを見渡してみると、緩和適応の両方をバランスよく推し進めることの重要性が立ち現れてくるのではないだろうか。

【参照サイト】TAILWIND : Shell for outdoor workers
【参照サイト】디자인엔지니어링 융합전공 Tailwind(테일윈드)팀, 제임스 다이슨 어워드 GLOBAL TOP 20 진출
【参照サイト】Climate change creates a ‘cocktail’ of serious health hazards for 70 per cent of the world’s workers
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