さとうきびストローでまちづくり。循環型社会の実現を目指す「4Nature」

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プラスチックごみの問題が深刻化するなか、世界中でプラスチック製ストローの使用を廃止する動きが広がっている。EUではすでにストローを含む使い捨てプラスチック製品の流通を2021年までに禁止する法案が採択されているほか、台湾では今年の7月からショッピングモールや飲食店などのプラスチック製ストローの提供が禁止されている。

国や自治体だけではなく、企業の取り組みも活発だ。スターバックスは2020年まで、マクドナルドも2025年までにプラスチック製ストローを世界中の店舗で全廃すると発表しており、日本国内でもこれらの動きに追随する企業が出てきている。

プラスチック製ストローの使用廃止に伴い注目を集めているのが、紙ストローや竹製ストロー、ステンレスストローといった代替ストローだが、そのなかでも一際ユニークな、「さとうきび」を使ったストローの販売を始めたスタートアップ企業がある。それが、平間亮太さんが2018年9月に立ち上げた株式会社4Natureだ。

「ビジネスの力でより良い世の中に」を企業理念に掲げる同社は、台湾からさとうきびストローを輸入し、日本の飲食店向けに提供している。起業からわずか1年ですでに導入店舗は100店舗を超えており、さとうきびストローの販売、回収、コンポスト(堆肥化)という循環型のビジネスモデルを創り上げている。

IDEAS FOR GOODでは、平間さんに4Natureを立ち上げた経緯や現在のビジネスモデル、今後の展開などについて詳しくお話をお伺いしてきた。

株式会社4Nature代表・平間亮太さん(Photo by Nagisa Mizuno)

原点はライフセーバー時代のごみ拾い

4Natureを起業する前は大手の信託銀行で働いていたという平間さん。全く異分野での起業を決意した理由はどこにあるのだろうか。その原点となったのが、学生時代に参加していた海でのライフセービング活動だ。千葉の海でライフセービング仲間とともに夏を過ごし、活動するなかで、ごみの問題に自然と関わるようになった。

「ライフセービングでは海で事故が起きないように未然に防ぐ活動をするのですが、その意味でごみを減らすことはライフセービングの活動においてとても重要な要素でした。例えばビーチに落ちているごみで足を切ってしまうとそこから細菌が入ってしまうこともありますし、海で泳いでいるときにビニール袋が顔に絡まり、呼吸できずに慌てて溺れてしまうといった可能性もあります。こうした事故を防ぐためにはごみを減らす必要があります。そのため、僕たちは監視活動が終わってからごみ拾いもしていました。」

Image via Shutterstock

問題はシステムが見えないこと。だからシステムを作る側に

また、4Natureを立ち上げるきっかけとなる大きな原体験はもう一つある。それが、大学3年生の終わりごろに遭ってしまった交通事故だ。

「自分が交通事故に遭って、損害賠償の被害額が正しい金額なのかなどを調べてみると、妥当な金額をもらっていないことが分かったのです。このときの経験から、世の中には知らずのうちに損していることが多いのではないかと思ったのです。そこで、環境だけではなく様々なことを学び始めました。」

「最初はお金について勉強しようと思い、実家の家業が不動産業だったこともあり、金融と不動産を兼ね備えた信託銀行に入りました。しかし、入ってみると、大手になればなるほど見えなくなる部分が多いなと実感しました。事業を効率化しようと思うと、誰でもできる仕事にしなければならず、システム化されていきます。すると、そのシステムまでは僕たちは入れない。知らなくてもできるようになるから、知ろうとも思わない。そうやって仕事をしていくうちに、自分が考えていたことと違うなと思い、もっと根幹となるシステム自体をつくりたいと思いました。」

Image via Shutterstock

交通事故をきっかけに、世の中の仕組みの見えない部分をしっかり知ろうと思ったのに、すでに事業がシステム化されている大手では、仕組みを見ることはできない。それであれば、仕組みを作るための勉強をしよう。そう考えてシンガポールへのMBA留学を検討していた矢先にたまたま出会ったのが、台湾の友人から教えてもらった「さとうきびストロー」だった。

もともと環境やごみの問題に興味があった平間さんは、このさとうきびストローに可能性を見出した。

「さとうきびストローに、これなら新しいシステムを作れるのではないかと可能性を感じたのです。それがいまの循環型社会というテーマにもつながっていくのですが、さとうきびストローであればまちにも環境にも良いことができると思い、当時検討していた留学もやめて、起業することにしたのです。」

さとうきびストロー

さとうきびストローと、システムづくりがどう結びつくのだろうか。平間さんが懸念していたのは、プラスチックストローの廃止をめぐる日本の動向だ。2018年は世界中でプラスチックストローの使用を廃止する流れが加速するなか、日本企業の中にも同様の取り組みを検討する動きが出てきていた。

「このままいくと、日本はまた表面的な活動で終わってしまいかねないと感じていました。生分解性のストローについては、海外ではコンポストという廃棄処分の選択肢が多いのですが、日本にはまだありません。その状態で生分解性ストローに切り替えるという発表が進んでいましたが、それでは結局コンポストされずに焼却されてしまう。そうならないための選択肢を作っていかなければならないと思ったのです。」

生分解性ストローを正しい方法で処理、コンポストできるインフラがないまま、海外の事例の表面だけを真似て生分解性ストローの導入を進めても、本質的な問題解決にはつながらない。交通事故に遭ったときと同様に、システムがしっかりと見えていないと結局は損をしてしまう。平間さんは日本の現状に自分の経験を重ね合わせ、同じ危機感を覚えた。

1年で100店舗が導入。さとうきびストローの魅力とは?

台湾の友人のつてを活かしてさとうきびストローを輸入し、飲食店向けに提供、使用後は自らストローを回収し、農家でコンポストするというビジネスを始めた平間さんは、順調に導入店舗数を増やし続けている。

「現在は大手チェーンではなく個人店のカフェを中心に使っていただいています。一つの理由には、スペシャルティコーヒーの業界が僕たちの会社がやりたい『サステナビリティ』『トレーサビリティ』といった文脈をすでに含んでいるという点があります。ストローの回収というオペレーションが一つ増えるのは飲食店にとって大変なことなのですが、それを理解してもらいやすかったのです。商品が優れているというのもそうですが、それ以上にお店の方々の感度が高かったというのが商品を使ってもらえている理由です。」

お洒落なカフェやホステルが続々とオープンするなど、東京・日本橋のなかで最も注目を集めている再開発エリア、馬喰横山にある「BERTH COFFEE(バースコーヒー)」も、そんな店の一つだ。平間さんの取り組みに共感し、さとうきびストローを日本で最初に導入して4Natureの事業拡大のきっかけを作った。

さとうきびストロー(Photo by Nagisa Mizuno)

同店のマネジャーを務める株式会社バックパッカーズジャパンの岩井さんは、さとうきびストローを採用した背景についてこう語る。

「もともと自分自身も自然のなかで遊ぶのが大好きだったので、ちょうどカフェのプラスチック問題が話題に上がってくるようになった時期に、自分も何か自然に対してよいことができないかなと考えていたところ、平間さんからご連絡をいただきました。行動を起こすしか方法はないなと思っていたので、会社の上司と話し合い、導入することになりました。」

右:岩井さん(Photo by Nagisa Mizuno)

岩井さんによると、さとうきびストローを導入したことで多くの新たなプラスの発見があったそうだ。

「さとうきびストローを導入してから、そもそもアイスコーヒーはストローを出さずに提供するようにしました。すると、ストローを出さなくても普通に飲んでいただけるお客様がたくさんいることが分かりました。また、中には『これってどういうストローなの?』『ストローを取り扱っている企業を教えてほしい』という声もいただき、意外にも環境について考えている方が多いことが分かりました。」

バースコーヒーでは、現在ほぼ100%のさとうきびストローが回収できているという。

さとうきびストロー回収用のガラス瓶(Photo by Nagisa Mizuno)

平間さんが取り扱うさとうきびストローは、さとうきびをはじめとして竹やコーヒーなど100%天然植物由来の材料からそれぞれ作ることができ、使用後はコンポストにより水と二酸化炭素に分解することができるため、土壌への悪影響もない。また、紙ストローより耐久性も高く、1日中使えるのも魅力だ。

平間さんは、その魅力について「飲食店の方々が一番気にするのは耐久性と匂いです。コーヒーのプロやワインのソムリエの方にも実際に使っていただいていますが、このストローはいっぱい重ねるとさとうきびの匂いがしますが、飲み口は邪魔しないと言っていただけています。一方の紙ストローは耐久性も弱く味を邪魔するので使いたくないという声が多く、プラスチックストローを切り替える前提で探していくと、その中では一番よいのではないでしょうか」と語る。

商品としての魅力は十分に分かるが、気になるのはその値段だ。飲食店の中にも、プラスチックストローを代替したいが、価格面がネックになっているというケースは多いだろう。平間さんによると、さとうきびストローは代替ストローのなかでは価格面でも競争力があるという。

「そもそも4Natureではストロー自体の使用を減らしてくださいという提案もしています。減らす活動も合わせてやっていくことで、コストの壁はクリアできると思います。」

ストロー回収が「まちづくり」になる

4Natureのユニークな点は、「さとうきびストロー」という商品だけではなく、その回収の仕組みにもある。4Natureでは、ストローを導入してくれた都内店舗の一部で回収用のガラス瓶を無償で提供している。店舗側には使用済みのストローをそこに集めてもらい、ストローが溜まったタイミングで店舗が連絡すると、4Natureに登録しているボランティアの人が回収しにいくというシステムをとっている。

回収したストローは毎週末に表参道で開催されている「青山ファーマーズマーケット」で引き取り、それを栃木の家畜農家に持っていきコンポストに利用するという流れだ。

青山ファーマーズマーケットの様子

さとうきびストローの回収において青山ファーマーズマーケットと提携した理由について、平間さんはこう語る。「もともと青山ファーマーズマーケットさんの関心が高かったのもありますが、実際にマーケットに出店している農家さんにストローをコンポストとして使ってもらい、それで野菜を育ててもらえると面白いなと考えています。青山ファーマーズマーケットには食材を買いに来ている飲食店のシェフの方も多いので、そうすることで循環が体現できるなと。」

飲食店で使われたストローが農家の手にわたり、おいしい野菜を育てるためのコンポストに活用される。そしてさとうきびストローで育った野菜をシェフが買いに来て、お店で提供される。まさに理想的な循環型のシステムだ。

また、平間さんはこのボランティアによる「ストロー回収」の取り組みは、まちづくりにもつながっていると話す。

「ボランティアで回収を手伝ってくれる人の中には、ゴミが出ない仕組みが面白いという人もいれば、環境を意識していて自分が通えるお店が欲しい、知りたいという人たちがいます。回収をしにいくことで、店員さんと普通の客とは違う形で会話することができます。プラスの雰囲気でプラスの会話ができて、自分も気持ちよく帰れるし、次回にお客様として行ったときに、お店の方から特別な関係として覚えてもらえることもあり、自分にとって居心地のよい場所が作れるのです。」

ストローの回収をすることで、地域のカフェで働くひとたちと「店員と顧客」という関係を超え、環境のために共に活動する「仲間」の関係になることができるのだ。その意味で、4Natureは、ストロー回収を通じて地域のお店とそこで暮らす人たちをつなぐきっかけを作り出すプラットフォームでもある。

さらに、4Natureではストローを導入してくれた店舗に、ストローを回収しに来てくれたボランティアの方にコーヒーを一杯無料で提供するという提案もしている。そうすることで、ただストローを引き取るだけではなく、新たなコミュニケーションが生まれ、そのままその人がお客様になることもあり、結果として店にとってもプラスが生まれるからだ。

今後は、店舗数が増えたタイミングでボランティアのマッチングをアプリ化し、まちづくりのツールとして本格的に活用することも検討しているそうだ。また、それとは別に、東京都に対してはそもそも回収が必要なくなるように、「生分解」という廃棄の区分を作ることも提案しているという。

家畜農家と提携し、ストローをコンポスト

回収したストローは、最終的に栃木県にある家畜農家にコンポスト用材料として購入してもらっている。

家畜農家でコンポストに利用されるさとうきびストロー

「家畜農家さんに堆肥化してもらっているのには大きな理由があります。牛糞は法律に沿って正しく処理して廃棄しなければいけないのですが、それにはとてもコストがかかるため、農家にとって課題となっていました。通常、牛糞を堆肥化するときはもみ殻やおが屑を入れるのですが、それら堆肥化後も形として残ってしまうので、どうしてもカサが増えてしまいます。」

「しかし、さとうきびストローであればそれらと同じ効果を持ちながら、最終的には水と二酸化炭素に分解されるので、全体のかさが増えないのです。また、さとうきびストローは分解されるときに分解熱が高く出るため、発酵促進効果も高くなります。家畜農家さんにとっても、さとうきびストローが一定量入ってきて、継続して使い続けられるのであれば助かるのです。」

今後はさとうきびストローがどのような環境下であればもっとも効果的に生分解を進められるのかについても詳しく研究を続け、農家に情報提供をしていくそうだ。

人とつながりながら、循環型の社会をつくる

4Natureは、今後の展開をさとうきびストローの販売だけに絞るつもりはない。まずは生分解性プラスチックが環境に負荷をかけない形で流通するインフラを作りあげること。そして最終的な目標は、人と人とのつながりを大事にしながら、プラスチックに限らずすべての分野で地球にやさしい循環型の社会システムを構築することにある。

「まずは、生分解性プラスチックを普及させていく。同時に回収のインフラをしっかりと作り、生分解性プラスチックが普及しても大丈夫な社会を作っていきたいですね。ストローは飲食店にとって一番負担なく切り替えられるものなので、ストローの販売を増やすことでストローの値段を下げ、そのうえで違うものをどんどん提案していきたいです。」

生分解性プラスチックをめぐっては、そもそも100%天然由来ではないものもあれば、正しい方法で処理されないと逆にマイクロプラスチック化が早く進行するため、かえって環境に良くないといった意見もある。その点についても平間さんのスタンスは明確だ。

「生分解性といっても一定の条件下でしか分解はしないので、正しく処理されなかった場合はマイクロプラスチック化が早くなってしまいます。ただし、だから切り替えないほうがよいのかというとそうではなくて、大事なことは正しく理解し、正しく処理するという社会をつくっていくことです。」

「その文脈をしっかりと理解したうえで、いろんな会社が販売し、いろんなところが使っていくというのが正しい社会の進み方なのかなと。ただ、その文脈を抜きにして『生分解だからいい』と裏側を知らない状態で使ってしまう、と正しい社会ではなくなってしまう。」

Photo by Nagisa Mizuno

そう話す平間さんは、ストロー販売だけではなく、当初の起業の目的でもあるそもそもの仕組みづくりの部分についても積極的にアクションを起こしている。

「事業としては、ドイツのようにまちなかでコンポストができるのが健全だと思っているので、今はデベロッパーに対してビルの中にコンポスト施設を入れて屋上菜園をつくる提案をしていますし、そもそもまちづくりの設計の段階からレストラン同士がシェアしてコンポストできる仕組みを一緒に作っていきませんかといった話もしています。そのほうが、結果としてまちのブランドも高まるし、コミュニケーションも生まれると思うので。」

循環型の社会を作るためには、飲食店だけでも、ストローだけでも、農家だけでも足りない。まちづくりの根幹にかかわる行政やデベロッパー、そこで暮らす一人一人の市民など、みんなが力を合わせる必要がある。だからこそ、平間さんはいつも人と人とのつながりを大事にしている。

「まちづくりが目的ではないのですが、循環させようと思うとコミュニティを細分化する必要があって、結果として小さいまちをつくっていかなければならないなと。いまはプラスチックの分野で取り組んでいますが、大きなテーマとして考えているのはサーキュラーエコノミー、循環型社会です。そのために、プラスチックにとらわれず、いろいろなことをいろいろな人とつながりながらやっていきたいなと思っています。」

さとうきびストローを最初に導入したお店「バースコーヒー」の前で。(Photo by Nagisa Mizuno)

いま、日本ではかつてないほどにプラスチック問題が取り沙汰されており、代替ストローの導入も進んでいる。一方で、なぜプラスチックが問題なのか。生分解性ストローであれば本当に大丈夫なのか。そうした裏側の事情についてしっかりと知識を持ち、行動できている人はどれだけいるだろうか。

ただシステムに流されて思考停止に陥るのではなく、まずはそのシステムの裏側について学び、正しい知識を身につけること。そのうえで、たとえ小さなアクションでもよいので、行動を起こすこと。

そうすれば、きっとそれを見て共感してくれた仲間が現れ、そのつながりの中でさらに少しずつ行動が大きくなっていく。平間さんの話には、世の中をよりよい方向へ変えていくためのヒントが詰まっている。

【参照サイト】株式会社4Nature
【参照サイト】4Nature ストロー回収ボランティア応募受付

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