電子廃棄物の増加やそれらが引き起こす環境問題を受け、製品をメーカーに通さず個人が修理することを許す「修理する権利」が、欧米を中心に広がってきている。アメリカでは、2022年6月にニューヨーク州議会が同国初となる広い範囲の電子機器を対象にした修理する権利を定める法案を可決。欧州議会では、全ての電子機器のバッテリーを簡単に取り外して交換可能にするようメーカーに求める規則案が2023年6月14日に可決された。
こうした政策の前進は喜ばしいことだが、電子機器を自分で修理するのはハードルが高いと感じる人も多いのではないだろうか。自分で電子機器を分解したりカスタマイズしたことがない人にとって、修理には「もし失敗したら動かなくなってしまうのでは」「修理する過程で怪我をするのでは」といった不安がつきまとう。
しかし、もし子どもの頃に、「修理して遊ぶ」おもちゃがあったとしたら、どうだっただろうか。
イギリスのteam.repairという企業は、実際に壊れた電子機器を修理して遊べる子ども用の「修理キット」を用いた教育プログラムを、月額サブスクリプション形式で提供している。
サブスクリプションを始めると、箱に入った修理キットが自宅や学校に届く。キットの中に入っているのは、壊れた電子機器と修理に必要な工具。電子機器は、実際に動作不良のあるレトロなゲーム機やラジコンカー、懐中電灯などだ。
修理方法は動画で学ぶことができ、専用アプリやカリキュラムに沿ったアクティビティも用意されている。一連のプログラムは、子どもたちがガジェット(電子機器)の仕組みを理解したり、課題解決能力を育んだりできるように設計されており、修理スキルの習得に加え、STEM教育への関心を促すことも目指しているという。
提供するキットそのものの循環性にも注目したい。キットを購入ではなくサブスクリプション型にすることで、修理が完了したキットは利用者から返却される。その後、運営側がキットを再度分解し、次の利用者が再度利用できる仕組みとなっているのだ。共同創業者でCEOのメーガン・ヘイル氏はこのサービス設計について、「廃棄物を減らす方法を教える際に、新たな廃棄物を生み出したくありませんでした」
と、Springwiseに語っている。
プログラムはロンドン市長や英国工学技術機関などの支援を受け、これまでに6,000人以上の子どもたちに提供されてきた。また、企業と連携し、資金が不足している学校への展開も進めているという。2024年11月には、ホリデーシーズンに合わせ家庭向けのサブスクリプションサービスも開始した。
先入観の少ない子どもの頃に、一度でも自分の手を動かして修理を経験し、成功体験を積めたら──大人になって壊れた電子機器を目の前にしたとき、自然と「自分で修理してみようかな」と思えるのではないだろうか。
【参照サイト】Electronics repair kits for children
【参照サイト】Team Repair
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