年末が近づく今、1年間の経済を振り返るニュースに触れることも多い。その中で、国内総生産(GDP)の速報値をもとにした評価を見聞きすることも多いだろう。GDPが上がれば豊かになったと喜び、下がれば生活苦を嘆く……社会全体が数字に一喜一憂している。
一方で「GDPが果たして完璧な指標であるのか」という疑問は広がりつつある。GDPに反映されているのは、国内の消費や投資、貿易利益、政府支出など金銭的なやり取りが生じた経済活動に限られる。つまり、家事・子育て・介護といった非金銭的な働きや、経済活動としては測りにくい個人のウェルビーイングなど、多くの社会的要素を見過ごしているのだ。
GDPに代わって“本当に”社会経済の進歩を反映できる指標はないか──そんな模索から、ブータンの国民総幸福量(GNH)や地球幸福度指数などが作られてきた。ただそれ以外には、国によるGDP以外の指標データの公表事例は少なかった。
この現状に対し、イギリスが新たな一歩を踏み出した。2024年11月、同国の国家統計局が、ケアワークや生態系サービスを組み込んだ「Gross Inclusive Income(GII:包括的総所得)」のデータセットを公表したのだ。対象期間は、2005年から2022年まで。2023年にもデータは作成されたようだが、今回初めて全項目を揃えることができたという。
具体的には、家事や子育ては「家庭サテライト勘定」、生態系サービスは「自然資本会計(勘定)」によって置き換え、GDPに追加する形で計算される。ただし、同局は「包括的所得は、GDPやその他の国民経済計算に基づく経済進歩指標の補完であり、置き換えるものではない」としており、新しい主軸指標とは位置付けていない。
実際に、GDPと比較するとどのような違いがあるだろうか。2021年から2022年にかけて、イギリスのGDPは3.4%上昇。一方で、一人当たりGIIは同期間で2.8%上昇したそうだ。今後、こうして比較することで新たな発見もあるだろう。
日本でも、内閣府の研究所から「Beyond GDP(GDPの先)」に関する資料が発行されるなど、新しい指標へ移行する兆しが見えつつある(※)。しかしながら、省庁がデータを公表するなどの具体的な行動には至っていないようだ。
これから、GIIをはじめGDP以外の指標への注目は高まっていくだろう。そのとき「どの指標が完璧か」を追求するのではなく、常により良い表現を探しながら、自身そして身の回りの人の心の健康を見つめる姿勢を大切にしたい。
※ Well-being “beyond GDP”を巡る 国際的な議論の動向と日本の取組|内閣府経済社会総合研究所
【参照サイト】UK inclusive wealth and income accounts: 2005 to 2022|Office for National Statics
【参照サイト】Housework to green energy: the new markers of growth in rival metric to GDP|Guardian
【参照サイト】Inclusive Income methodology|Office for National Statics
【参照サイト】What went right this week: an alternative to GDP, plus more|Positive News
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