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自然資本会計とは・意味

自然資本会計

自然資本会計とは?

自然資本会計とは、自然資本の価値を経済活動に適切に反映し、持続可能な管理を促すための会計手法のこと。従来の会計では考慮されない環境価値を数値化し、経済や社会の持続可能性を高めることにつながると考えられている。

自然資本は、森林や土壌、水や大気、および生物資源など、自然によってつくられる資本のことで、自然資本から生み出されるフローを生態系サービスとして捉えることができる。

自然資本会計の背景

自然資本会計の考え方の背景にあるのが、環境問題の深刻化とそれによる経済活動・企業経営への影響の増大である。

従来の経済活動では、森林、土壌、水、生態系などの自然資本が、無償の資源として扱われることが多く、過剰な開発や環境破壊が進んできた。しかし、こうした自然資本の劣化は、長期的には経済や社会に深刻な影響を及ぼす。そこで、自然資本の価値を可視化し、それを適切に管理する仕組みが求められている。

自然資本に関する日本の動向

日本では自然資本会計が広く認識される前に、企業の環境情報開示方法として環境会計への取り組みが進められた。環境会計とは、企業などが持続可能な発展を目指し、環境保全を推進していくことを目的として、事業活動における環境保全のためのコストと効果を認識し、可能な限り定量的(貨幣単位または物量単位)に測定して伝達する仕組みのことである。自然資本会計は「社会や経済の持続可能性の根幹として」自然環境をとらえているが、環境会計は「企業活動に影響を与える外部要因として」自然環境をとらえていることが違いである。

環境省は2000年に、環境会計への取り組みを支援することを目的として、「環境会計システムの導入のためのガイドライン」を公表した。2003年に同省が2,795社に調査したところ、環境会計を既に導入していると回答した事業者は661社にのぼった。2005年に同省は環境会計ガイドラインを改訂したが、その後は以下のように自然資本会計が国際的に認識されるようになっていく。

自然資本に関する世界の動向

自然資本会計先進国と呼ばれるイギリスは、2012年より国の自然資本会計の開発に着手した。作成したロードマップは10年を経て2022年に達成され、2026年までの計画も策定されている。この開発において、67のプロバイダーから275のデータセットを収集・使用し、自然資本会計の精度を上げている。2024年における自然資本会計のレポートも公開されている。

世界的な動きとしては、2010年に名古屋市で開催されたCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)で採択された愛知目標に、生物多様性の価値を国家勘定に組み込むことが掲げられた。さらに、2012年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な会議(リオ+20)」で、世界銀行は自然資本の価値を国家会計と企業会計に入れることを提案した。

2017年にNCAVES(自然資本会計と生態系サービスの評価)と呼ばれるパイロットテストをブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカの5ヵ国で開始した。この試行により、国連が推進する会計基準であるSEEA(環境経済勘定システム)が国際基準として2021年3月に採択された。

COPでこれまで議論されてきたカーボンプライシングも、自然資本会計の一部として位置づけられる。CO2排出コストを経済活動に反映させるこの仕組みは、環境負荷の可視化を進めるとともに、自然資本の価値を正しく評価する流れを加速させる原動力となるだろう。

自然資本会計の例

スポーツウェアメーカーの独PUMAは2011年、自然資本に及ぼす影響のコストを金額で計算した「環境損益計算書」を公表して注目を集めたほか、IDEAS FOR GOODでは、これまで自然資本の価値を経済活動に反映しようとする取り組みを取り上げてきた。

例えば、スウェーデンの大手食品ブランドFelix(フェリックス)がつくった、カーボンフットプリントに応じて価格が決まるスーパーマーケットの仕組みや、スウェーデンのメンズウェアブランド「Asket」が考案した、衣服の値段ではなく、その原料生産から製造・輸送過程での環境負荷が記載されているレシート。また、宿泊客が滞在中に排出したCO2量に基づいて宿泊費を計算できるフィンランドのホテルなどだ。

こうした試みは、消費者に責任ある消費について考える機会を提供している。上記の事例以外にも、多くの企業が自然資本を大切にするべく、環境負荷を軽減するためのさまざまな取り組みを行っており、使用エネルギーや水使用量の削減、製造工程の効率化や資源の有効活用などがその例として挙げられる。

自然資本会計の課題

データの取得・評価の難しさ

生態系の価値を正確に測り、経済価値として評価するのは難しい。また、生態系サービスの価値は地域や時期によって変動するため、標準化された評価方法を確立するのも困難だ。さらに、データ収集には衛星画像やリモートセンシング技術が活用されているが、コストが高く、途上国などでは十分なデータが得られない場合も多い。また、自然環境の複雑さを経済の観点から捉えようとすると概念上の問題があるという意見もある。

企業の短期利益とのバランス

自然資本会計を導入することは長期的な利益につながる可能性があるが、短期的にはコスト負担が大きい。例えば、森林伐採や鉱山開発の際に環境コストを適切に計上すると、事業の採算が合わなくなる場合がある。そのため、企業が短期的な利益を追求したり、投資家や株主が短期的な利益を重視する場合、環境投資は達成されにくい。

政策・規制の整備不足

現在の会計基準では、環境負荷や生態系サービスの価値を財務諸表に適切に反映する枠組みが確立されていない。また、国際的な基準も統一されておらず、国ごとに異なる手法が使われているため、企業がグローバルに適用するのが難しい。

自然資本会計の今後

これらの課題を克服するためには、データ収集技術の発展や、統一基準の策定、インセンティブ制度の導入が求められる。例えば、リモートセンシングやAI技術を活用することで、より精度の高いデータ取得が可能になる。また、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)などの枠組みが普及すれば、企業の情報開示が進み、自然資本の適切な評価が促される。さらに、環境配慮型の企業に対する税制優遇や補助金といったインセンティブの導入・強化により、持続可能な経営への移行が加速すると期待される。

自然資本会計の発展には、企業、政府、投資家が一体となり、環境価値を経済活動に反映する仕組みを整えることが重要である。

【参照サイト】第4節 グリーン経済を支える自然資本
【参照サイト】環境会計
【参照サイト】日経
【参照サイト】TNFD
【参照サイト】Natural Capital Finance Alliance
【参照サイト】TNFD




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