2024年は、どのような社会・環境キーワードが話題にあがっただろうか。特に話題となった出来事の一つは、7月にサーキュラーエコノミーに関する関係閣僚会議が開催されたことかもしれない。脱炭素政策を経て、環境課題がビジネスの重荷ではなく機会になるとして注目され始めてきた。
一方で、ニュースの見出しにあがることはなくとも、私たちが今向き合いたい社会の側面や、共に模索し深く考えていきたいテーマが数多く存在する。編集部では、そうしたトピックを取材やコラム記事を通して提示してきた。
そこで本記事では、日頃から世界のソーシャルグッド事例を配信するIDEAS FOR GOODが2024年に執筆した取材記事やコラムを紹介したい。
世界で注目される組織や議論されているテーマ5選
01. 「気温が3℃上がった世界」の想像から地域を描くデザイン企業:Dark Matter Labs
気候変動対策としてよく知られるのは、「環境負荷を軽減するためのアクション」であり、現在と比較して良い方向に変えようとする試みが多い。それは決して、無意味ではない。しかし、その行動がどんな未来をつくり、どのような暮らしに紐づいていくのかまで想像したことはあるだろうか。この問いは、現在ではなく「想定される未来」との比較から行動を見直していくことの大切さを説いている。
これを実践しているのが、2018年にイギリスで設立されたデザイン企業・Dark Matter Labsだ。彼らは世の中の“前提”に疑問を投げかけるユニークな問いをもとに、気候変動の問題と向き合い、多様なプロジェクトを展開している。同社が関わるプロジェクトにはいつも、その鋭い観点に驚かされてきた。2030年が近づく今、彼らの姿勢から気候変動や社会課題との向き合い方を学び直したい。
02. 消費を“減らす”ことを目指すファッションブランド:LOOM
2024年に多く取り上げることとなった議論の一つが「脱成長」だ。アカデミアによる研究が中心だったなかで、徐々にビジネス分野にも実践や認知が広がるさまを目の当たりにした。
フランスのファッションブランド・LOOMは、まさにビジネスと脱成長の“接続点”を模索している。同社は創設者と従業員、顧客によって分散して資本が保有され、耐久性を徹底的に研究した常設のコレクションを展開し、広告費は一切設けない。「少ない方が良い」という哲学を体現するべく、さまざまな方針を試行しているのだ。企業勤めでは脱成長の実践なんてできない──そんな思い込みを、実践を通して崩してくれるLOOMの挑戦に、ぜひ触れてみてほしい。
03. みんなを幸せにする給与体系とは。今知りたい「ニーズベース」の給与
現在の主な給与システムでは、高い成果を出す人に、より高い給与が支払われている。年功序列型が基本だった日本社会も「成果主義」に移行し始めているのだ。だが、果たして成果だけによって給与が決まることは、本当に公平・公正な仕組みと言えるのだろうか。
この成果主義に代わって議論が進んでいる、「ニーズベースの給与」という考え方がある。これは、扶養家族の有無や持病などによる医療費の負担、社会的マイノリティである立場などを加味して、給与そのものや“追加給与”に反映させていくもの。その具体例と共に、ニーズベースの給与をめぐる可能性を模索したコラムを公開した。物価の高騰で誰もが苦しさを感じる今こそ、少しマクロな視点に立って社会全体での「分配」について考え直したい。
04. 「普通じゃない肌もよし」は“普通”があるから成り立つ。美の呪縛を解くために
近年、SNSを中心に「肌荒れをしている肌も愛そう」というスキンポジティブや、「自分の肌を好きでも嫌いでも良い」というスキンニュートラルという考えが広がっている。インフルエンサーなどを中心に自身の肌の状態を写真に収めて投稿し、肌荒れに悩む人たちの共感を得ている。ニキビパッチの流行も、この一端であった。
一方で、これですべて解決ともいかない。そもそも「ポジティブ」「ニュートラル」という表現があえて登場する背景には、そもそも暗黙の“普通”が存在するからだ。肌の例であれば、白くまっさらな肌が“普通”だが、そうではない肌について言及する表現として「ポジティブ・ニュートラル」が使われる。本当に大切なことは何なのだろうか。あらゆる人の立場になって「美の基準」を捉え直すコラムは、あたたかい視点を提示してくれるはずだ。
05. 自然という言葉を使うとき、なぜ人間から切り離したものを想像するのか
気候変動について語るとき、生物多様性の保護について考えるとき、私たちは「自然を守る」と表現することが多々ある。この「自然」には、無意識のうちに山、川、海、草花などが思い描かれてはいないだろうか。実はこの「人間から切り離した自然」という捉え方もまた、複雑に関わりあうはずの生態系を短絡化し、観察されるモノとしての自然像を再生産する可能性がある。
このコラムでは辞書の定義に立ち返り、自然という言葉と、その使用方法から形成される私たちの世界観について辿っていく。気候危機を防ぎ、崩れつつある生態系バランスを取り戻すために、私たちはどんな視点を大切にする必要があるのか。この記事が、今一度立ち止まって考えてみる機会となることを願う。
まとめ
社会課題解決の取り組みや、環境問題への意識は、年を追うごとに広がっている。それは前向きな変化である一方、関わる人が増えるほど、活動が多様になるほど、いかにこれらの課題が根深く複雑であるかが見えてきた。一つのボタンを押せばすぐに何かが解決する、というわけではないのだ。
取材やコラムは、そんな絡まりに光を当てて共に試行錯誤するためのきっかけとなる問いを投じようとしている。長期戦を予感させる現状から逃避したくもなるけれど、その複雑さにこそ、根源的に解決すべきことが潜んでいるはずだ。
Edited by Natsuki