人力車型から車椅子で乗れるものまで。オランダの安全設計の自転車がもたらす、高齢者の“移動革命”

Browse By

2025年問題」をご存じだろうか。2025年は、日本に約800万人いる団塊の世代(1947〜1949年生まれ)が全員75歳以上となり、国民の5人に1人が後期高齢者となる。こうした超高齢化社会を迎えることで雇用、医療、福祉などの幅広い領域に影響が出ることを「2025年問題」と呼んでいるのだ。

高齢化を、人手不足や社会保障費の増大など、ネガティブに捉える方も多いかもしれない。けれども今大切なのは、高齢者が社会の片隅に追いやられることなく、いかに安心して楽しく健やかに暮らすことができるかということではないだろうか。

こうした超高齢化社会で、高齢者にやさしい移動手段として注目されているのが、自転車である。心肺機能を高め、筋肉を強化するなど健康効果に優れているからだ。さらに、高齢者のバランス感覚の改善や、転倒防止、アルツハイマー病の進行遅延にも効果があると言われている(※1)

しかし、「高齢者が自転車に乗るなんて危ないじゃないか」という声も聞こえてくる。確かに、よく街で見かける一般的な自転車は、高齢者向けに設計されているとは言えないかもしれない。

それでは、自転車大国オランダの、Van Raam社製「スペシャルニーズ電動自転車」はどうだろうか。これは、高齢者や障害のある人々が乗れるよう、安全性や快適さに配慮して設計された自転車である。例えば、重心が低く安定感のある三輪設計や、背もたれ付きの座席が備わっており、転倒のリスクを大幅に軽減。また、車いすのまま乗り込めるタイプや、人力車型で会話を楽しみながら移動できるタイプなど、用途や身体的特徴に応じた多様なモデルが展開されている。

これにより、自転車に乗ることが難しいと感じていた人々にも、新たな移動手段と自由に移動する喜びが提供されている。さらに、「あえて一人では乗れないデザイン」を採用することで、自然と他者と協力し合う場面が生まれ、孤独感を和らげるきっかけにもなり得る。

例えば、人力車型の電動自転車「Chat」では、隣に座る人と気軽に会話を楽しむことができる。こんな素敵な乗り物で、好きな場所へ自由に出かけられるなんて、想像するだけでわくわくするではないか。

米国・ボストン大学で自転車と自転車ネットワークについて研究している、Anne Lusk氏らの研究によれば、Van Raamの自転車のなかでも、一人乗りや二人乗りの三輪自転車がお年寄りに人気だったという。配偶者の介護をしている高齢男性は、二人乗り三輪自転車に「50年間自転車に乗っていない妻と一緒に乗れたら最高だ」と調査のなかで語ったそうだ(※2)

高齢者が安心して自転車に乗るには、自転車専用レーンや乗り方講座の整備が欠かせない。また、住宅地からカフェやスーパー、公園などが自転車で移動しやすい距離に配置されることや、公衆トイレの充実も重要だ。世界保健機関(WHO)が提唱する「エイジフレンドリーシティ」のように、高齢者に優しいまちは、誰にとっても住みやすいまちにつながる(※3)

街中に出る人が減ってしまうような暗い高齢化社会は、必然ではない。年齢をバリアにしない自転車のデザインは、シニア世代が颯爽と、時には和気あいあいと移動する社会を引き出してくれるはずだ。

※1 Bicycling
※2 Cycling can make seniors healthier and more independent − here’s how to design bikes and networks that meet their needs
※3 The WHO Age-friendly Cities Framework
【参照サイト】Van Raam公式ホームページ
【参照サイト】Boston Bike公式ホームページ
【参照サイト】Blue Bikes公式ホームページ
【参考文献】Frank Westerhuis, et al.(2020)Cycling on the edge: the effects of edge lines, slanted kerbstones, shoulder, and edge strips on cycling behaviour of cyclists older than 50 years, Ergonomics Vol. 63 – 6.
【関連記事】“視点の転換”で、障害は障害ではなくなる。日本人パラアスリートがパリで見た、インクルーシブ・モビリティの可能性
【関連記事】自転車インフラで「サステナブル交通賞」を受賞したパリに住んで感じる、市民主体のまちづくり
【関連記事】どんな自転車も、一瞬で電動に。エコな移動を支える外付けアシスト「CLIP」

Edited by Erika Tomiyama

FacebookTwitter