都市生活において避けては通れない、ごみ問題。朝起きがけにペットボトルのミネラルウォーターを飲み、昼にはコンビニサラダ。夜はソフトドリンクを……気づけば、空き缶やペットボトル、包装フィルム、紙容器が山のようにたまっている。スーパーで回収してくれるのは知っているけど、まとめて持っていくのも面倒くさいし忘れがち。
オランダでも事情は同じだ。こうした「生活者のリアル」に寄り添い、制度の隙間を埋めようとしているのが、アムステルダム発のリサイクルスタートアップ Droppie(ドロッピー)である。

ポップで可愛らしい色合いのDroppie店舗|筆者撮影
ごみを「ドロップ」すると現金が入る。Droppieの仕組み
Droppieは2024年、アムステルダム西部に実店舗をオープンした。ペットボトル、缶、衣類、小型家電、紙容器など、ごく日常的に生まれる多様な資源を“ドロップ(置いていく)”すると、オンライン振り込みによる「報酬」が受け取れる。
使い方は驚くほど簡単だ。アプリをダウンロードし、店舗でQRコードを読み取って資源を投入するだけで、種類や数が自動的に記録され、アプリ内の「おサイフ」に金額が反映される。

資源を「ドロップ」するとゲームをクリアしたような気持ちになる|筆者撮影
背景には、オランダで広く導入されている拡大生産者責任(EPR)制度の存在がある。飲料メーカーや小売事業者が、使用後の容器の回収責任を負う仕組みで、デポジット(0.15〜0.25ユーロ、約27〜45円)が価格に自動的に上乗せされ、スーパーの回収機に返すと返金される。包装材全体の回収・再資源化はVerpactという民間主導の団体が担い、国全体の循環システムを下支えしている。
ただし、このEPRを基盤とした回収システムは十分に機能している一方で、「1本ずつしか返せない」「回収対象が限定的」「故障で利用できない」といった、生活者の実態とは必ずしも噛み合わない課題を抱えていた。

Image via Shutterstock
最大200本を一気に返却できる「バルク返却マシン」の衝撃
この生活の手間を一気に解消したのが、Droppieが2024年秋に導入したバルク返却マシンだ。最大200本のボトルや缶を袋ごとまとめて投入でき、内部で瞬時に仕分けと集計を行ってくれる。デポジットは即時アプリに反映され、口座に送金するか、寄付を選ぶこともできる。

Droppieの資源投入口。まるで資源ATMのようだ|筆者撮影
さらにDroppieでは飲料容器以外にも衣類や小型家電など幅広い品目を扱うため、「どう処分しようか」と迷う前に「とりあえずDroppieへ」という行動が自然と生まれていく。
このマシンの導入後、Droppieは瞬く間に6万回以上の「ドロップ」と2.1万人以上のアプリ利用者を獲得し、現在は全国10拠点で展開。2025年末までに20拠点への拡大を予定している。
市民の行動を変える“仕掛けのデザイン”
Droppieが単なる回収拠点にとどまらないのは、市民の行動が変わるよう仕掛けを細かくデザインしているためだ。
アプリでは、自分がDropした資源の数量や重量、CO2削減量がひと目で確認できるようになっており、ランキングやバッジ機能を活用してゲーム感覚で行動が積み重なっていく。日々の「小さな習慣」が視覚的に強化される仕組みだ。
また、街全体を巻き込む取り組みも特徴的である。たとえばハーグ市の新店舗オープン時には、市民1人あたりの週平均ごみ排出量である7.5キログラムを、服や生活用品を使った“動くアート作品”として具現化し、街の真ん中を歩かせた。日常になりすぎて見えなくなったごみの存在を、改めて強烈に可視化する試みである。
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さらにDroppieは、日常の“用事”とリサイクル行動を巧みに接続している。中古品マーケットプレイス・Vintedの荷物受け取り場所に店舗を設定し、「荷物を受け取るついでにDropする」という自然な行動導線を生み出した。店舗はスーパーの近くに構えることが多く、生活動線に寄り添った立地戦略も功を奏している。
ADEで登場した「ごみ持ち込み入場制」クラブイベントも
その取り組みは、音楽フェスティバルのシーンにも広がっている。2025年10月には、世界最大級のエレクトロニック音楽イベントADEの会場のひとつとして“Droppie Store”を開設。DJ・プロデューサーであるBLOND:ISH率いるBye Bye Plasticと協働し、Droppieに資源をDropした人だけが入場できるクラブイベントを実施した。
ナイトシーンからプラスチックごみをなくすという文脈のもと、音楽体験とリサイクル行動を接続する試みは、従来の環境施策とは異なる新しい文化的アプローチを提示している。

Droppieはオランダ最大の音楽フェスADEの会場となった|Droppie x Bye Bye Plastic Recycle Rave in Amsterdam. October 23, 2025. – Credit: Supplied / Supplied – License: All Rights Reserved

Droppie x Bye Bye Plastic Recycle Rave in Amsterdam. October 23, 2025. – Credit: Supplied / Supplied – License: All Rights Reserved
Droppieは、制度がカバーしきれない“生活の隙間”を埋めながら、市民の「日常」と「循環」をなめらかにつなぐ存在だ。スマホをかざしてDropすればお金が入り、環境負荷の軽減も見える化され、ちょっとした達成感も得られる。ときには、その行動がフェスの入場チケットに変わることもある。
都市で暮らす私たちのリサイクルへのイメージは、今、確実に変わりはじめている。その転換点は案外、「Dropする」というひとつの小さな動作の中にあるのかもしれない。
【参照サイト】Droppie
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Edited by Megumi






