【欧州CE特集#36】集めるのは、ゴミではなく資源。循環型のゴミ箱をデザインするオランダ「LUNE」

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あなたは今までゴミ箱をこだわって選んだことがあるだろうか?誰の家にも、どの企業のオフィスにもあるにも関わらず、あまり存在感がない家具であるゴミ箱。ゴミ箱についてあまり意識したことがなかった、壊れない限り同じものを使っているという人も多いかもしれない。

しかし、生活の中で私たちがゴミ箱にお世話になっている瞬間は意外と多いものだ。料理をしているとき、ネットショッピングで届いた商品の包装を捨てるとき、オフィスで昼食を食べ終えたとき、飲料を飲み干したあとのペットボトルを捨てるとき。それほど使われていれば、いずれ汚れは目立つようになり、もちろん壊れることもある。使用者の数が多い駅やオフィスであればなおさらだ。

オランダ・アムステルダムに拠点を置くLuneは、そうしたどこにでもあるゴミ箱に注目し、サーキュラーデザインのゴミ箱のプロデュース・販売を行っている。なぜいまゴミ箱が大事なのか、彼らはゴミ箱を通じてどのような将来を描いているのか。IDEAS FOR GOOD編集部は、LuneのMarc Doornbos氏とWido van den Bosch氏に話を伺った。

ゴミだけではなく、ゴミ箱も循環させる

Luneの前身は、イギリスの鉄鋼会社だ。買い取った鉄鋼会社の工場をオランダに移し、今から6年前の2014年にLuneが誕生した。現在も鉄鋼会社、アウトドア用品会社などをグループ会社として抱えている。

「もしあなたがゴミ箱を所持していて、その中にゴミを分別して捨てたとします。それはすでにサステナブルな活動です。それではさらに、ゴミ箱自体もサステナブルにしてしまうのはどうでしょうか。それこそサーキュラーエコノミーに寄与することだと思ったのです。」

そうした思いで彼らはサーキュラーデザインが施されたゴミ箱をサステナブルな方法で製造し始めた。EUでは、2014年からサーキュラーエコノミーに関する具体的なアクションの目標が設定されるようになり、そのなかで掲げられた「ゴミから価値へ(From waste to value)」という標語も彼らのビジネスを後押しした。

circular model

Image via Lune

彼らの掲げるサーキュラリティ(循環性)には、下記の10項目が含まれている。

  • Reduce(削減)
  • Re-use(再利用)
  • Repair(修理)
  • Refurbish(磨き直し)
  • Remanufacture(再製造)
  • Recycle(リサイクル)
  • Recover(再生)
  • Rethink(再思考)
  • Redesign(リデザイン)
  • Repurpose(別の用途への捉え直し)

 

ゴミ箱を通じてゴミの分別を促すことでリユースやリサイクルに寄与しているのはもちろん、Luneは汚れてしまったり傷付いたりしたゴミ箱に修理や磨きを施すことで、使えなくなったゴミ箱を再生する取り組みも行っている。

ゴミ箱は部品ごとに取り外すことができるモジュラーデザインになっており、例えば「燃えるゴミのフタ」に不具合があったときには、ゴミ箱全体を工場に移動させなくても該当するフタのみを取り換える作業で修理が終了する。不具合のあったフタは単体で工場に持ち帰られ、正常な状態に修理される。修理や移送に余計なコストをかけないことも、彼らがサーキュラリティを実現するための一つの重要な要素になっているのだ。

すべての作業を一つ屋根の下で行う強み

オランダの内外でゴミ箱を製造する企業は他にもあるが、同業他社とも異なる彼らの強みは、すべての作業を一つの工場の中で行うという点にある。

「私たちはすべての部品を自社で作っていて、すべての作業が一つ屋根の下で行われています。プロデュースもデザインも自社でやるからこそ、オーダーメイドにも迅速に対応することができる。大企業、大学、病院など特別なニーズがある場所に適応したゴミ箱が作りやすいのです。」

Image via Lune

それぞれの部品を異なる企業に依頼し、組み立ても別の場所で行っていたとすると、発注と納品に時間を要する。その点Luneは、デザインの構想から部品の製造・組み立てまでをすべて社内で行っているからこそ、ユーザーの要望に応えるスピードも速い。多様な種類を取り揃えているゴミ箱はすべてシンプルなデザインに統一し、異なる型でも同じ部品が使えるように互換性を高めていることから、工場にストックがある資材を用いて修理や交換にも素早く対応することができるのだ。

ゴミ箱は、所有せずに利用する

彼らのサービスのユニークなところは、ユーザーにゴミ箱を「所有せずに利用してもらう」、PaaS(Product as a Service)モデルを導入しているところだ。ゴミ箱のサブスクリプションシステムとも表現できるこのモデルでは、ユーザーはゴミ箱自体にではなく、一定期間の彼らのサービスに対して対価を支払うことになる。

「もしゴミ箱に不具合があれば、ユーザーはいつでもゴミ箱を返却できるシステムになっています。部品が壊れたり、たとえそれが完全に崩壊したとしても、私たちはゴミ箱を回収し、新しいものに取り換えます。回収した古いゴミ箱は、また新しいゴミ箱を作るための資材にされるのです。」

こうした循環は、常に綺麗で機能的なゴミ箱を使用できるユーザーにとってフレンドリーであるのはもちろんのこと、新しいゴミ箱を一から作るコストがかからないため、環境にとっても、Luneにとっても負荷が少ない仕組みだ。なお、Luneの提供するシステムでゴミ箱を使用しているのは、個人のユーザーだけではない。オランダが最も大切にするミュージアムの一つであるアムステルダム国立美術館でも、Luneのサービスが導入されている。

「アムステルダム国立美術館に導入されているのは、古いゴミ箱を磨き直して作られたゴミ箱です。それは中古のものですが、新しく見え、誰にも安っぽくは見えないように出来ています。テストを重ね、古いゴミ箱もなるべく新しく見えるように工夫を施しているからです。」

美術館のような整然とした空間では、ゴミ箱一つの汚れが目立ち、鑑賞の妨げになる可能性もある。世界に名を馳せるアムステルダム国立美術館で導入されるということは、中古品を中古品に見せない彼らの技術力の高さを表していると言えるだろう。

複数の使い手に寄り添うプロダクトデザイン

とはいえ、ゴミ箱は単に見栄えが良いだけでは役目を果たさない。必要な量を収納することができ、それらを日常的に使う人にとっての使い勝手を考慮する必要がある。

「ゴミ箱のデザイン面では、『捨てる』動作が容易になるような設計にすること、わかりやすいピクトグラムを施すことを意識しています。例えば、身長の高い人が使うのか、低い人が使うのかでゴミ箱そのものの高さを変えます。また、文字や色を使ってゴミ箱にサインを付け、それぞれのゴミ箱のフタの穴の形を変えることで分別がしやすいよう工夫しています。」

ゴミ箱を使う人は、ゴミを捨てる人だけではない。Luneのゴミ箱はゴミを回収する人にとってのユーザビリティも考慮の上、設計されている。

Image via Lune

「ゴミの回収員にとって大事なことは、いかに早くゴミを回収できるかということです。そのため、Luneのゴミ箱はなるべく速く開けられ、ゴミを引っ張り出せる設計になっています。また、ゴミ箱はなるべく壁側に設置するようにしています。壁とゴミ箱の間にゴミが落ちると、回収員の手間が増えるからです。

ゴミ箱の色は白にするケースが多いです。シンプルで空間に馴染みやすいという理由もありますが、汚れが目立つ色にすることで、ユーザーに綺麗に保とうと意識が生まれることも大きな理由です。捨てる人が綺麗に使うことで、回収員の手間を省くことができるのです。」

業務用の施設であれば、ゴミを捨てる人と回収する人は別であることが多い。ゴミを捨てる人はデザインとゴミの捨てやすさを気にし、回収する人は身体に負担をかけることなく、いかにゴミをすばやく取り出せるかを意識する。Luneの作るゴミ箱には、その双方が不快な思いをすることなく過ごすための配慮がみられるのだ。

グローバルな規模で、ローカルな事業展開を

すでにオランダからヨーロッパに事業範囲を広げているLuneは、今後他の地域でも事業を展開していく予定であり、東京もその候補のうちの一つだ。彼らはグローバルな展開を見据えながらも、自身の事業がもたらすローカルへのインパクトを丁寧に捉えていた。

「アムステルダムの外で事業を展開するときに大切にしていることは、現地でパートナー企業を見つけて、現地ですべての作業工程を完結させることです。現地の情報に精通している人は、商品を考案するときにも欠かせません。オフィスにゴミ箱を設置するにしても、現地の人々がどのように働いているのか、どんなゴミが生み出されるのか、それらのゴミをどのように扱うのか、どんなサインを施せば分別ができるのかを知り、商品をマーケットに合わせる必要があります。

また、地元にパートナー企業を見つけ、彼らに製造を依頼することで、輸出入を伴わなくても製品が作れるようにするというのは、ゴミ箱を循環型にする重要な要素の一つです。”de-globalisation”を意識し、地元の経済を刺激する。私たちにとってそれはとても大切なことなのです。」

誰もがお世話になるゴミ箱を設置することで、現地の小さな循環を生み出す。Luneはゴミ箱という製品の製造者であるのと同時に、そうした地域での小さな循環を回す担い手を支援し続ける存在でもあるのだ。

ゴミ箱から始まるサーキュラーエコノミー

サーキュラーエコノミーは、その名の通り、資源を循環させることで実現される。そのためにはまず、循環させる資源を準備しなければならない。しっかりと分別されたゴミはただの廃棄物ではなく、扱いやすい資源となる。Luneが社会に担う役割について、今回のインタビューでは以下のように語られた。

「近年のゼロウェイストの考え方は、ゴミをまったく出さないということではなく、ゴミを原材料と解釈し、それをリユース・リサイクルして循環させることに重点を置いてきました。そのように捉えると、ゴミ箱は『ゴミを捨てる場所』ではなく、『原材料を集める場所』なのです。サーキュラーエコノミーはいつも私たちから始まります。なぜなら、それは原材料を集めることから始まるからです。」

ゴミ箱の持つ意味は、不要なものを捨てるための容器から、新たな価値を生み出すものを収集するための容器へと変容してきている。「これが原材料となって、次はどんな製品が生み出されるのだろう」と考えながらゴミを扱うことは、資源として使いやすいようトレーを軽くゆすいでゴミ箱に入れるなど、私たちの小さなアクションのきっかけにもなるだろう。
サーキュラーエコノミーのスタート地点に立ちながら、Luneは今日も循環の仕組みを整え続け、向上させているのだ。

取材後記

ゴミの分別が重要であることは、徐々に認識されてきている。駅には色とりどりのサインが施されたゴミ箱が並べられ、場所によってはペットボトルキャップ回収ボックスも設けられており、ゴミ袋を有料化することでゴミの量の削減を図っている自治体も多い。しかし、ゴミ箱それ自体に注目する機会は少なく、デザインはおろか、それが環境に配慮されて作られているかどうかを気にしたことがないという人も多いのではないだろうか。

今回の取材を通じて、ゴミ箱は単にゴミを「貯めておく」容器なのではなく、人々の分別する行動を促し、ゴミと環境に対する意識を変容させる役割を秘めているものなのだと気付かされた。ゴミを出す場面が少ない美術館にもあるほどなのだから、どこにだってゴミ箱はあったほうが便利なのだ。どうせ作るなら、環境負荷が少なく、空間に馴染み、地元の経済を活性化するものに、というLuneの豊かな考え方には学ぶことが多い。いまは新鮮に映るその考え方が、彼らのアジア進出によって、より身近になっていくのが楽しみだ。


【参照サイト】Lune – Circular Waste Bins

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