図書館を「ニュース編集室」に。市民が執筆を学び、地元の信頼関係を築きなおすNY発の月刊誌

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もし「地元のニュース」が消えてしまったら、一体どうなるだろうか。米国では今、地方紙の廃刊や縮小が相次ぎ、住民が地域情報を得る術を失う「ニュース砂漠」が拡大している(※)。議会で何が決まったのか、なぜあの店は閉店してしまったのか、今地域の困りごとは何なのか──身近な出来事を知る機会が失われれば、コミュニティの基盤は揺らぎ始める。

一方でSNSや国際メディアでは、遠く離れた場所のセンセーショナルな話題や、分断を煽るような議論ばかり取り沙汰されることも少なくない。足元の暮らしを共有する術がなければ、孤立しやすくなり、地域の課題を解決するなど遠い話だろう。

そんな今だからこそ、住民主体のニュースづくりを通じて地域住民を繋ぎ、メディアや地域への正しい信頼感を取り戻そうとする取り組みがある。

ニューヨーク・ブルックリンで始まり、実験的に実施されている「ライブラリー・ニュースルーム・プロジェクト」だ。月に2度、地域住民が図書館という“ニュースルーム”に集まって地元の話題や最近の関心ごとを持ち寄り、取材やリサーチを経て月刊紙『サンセット・パーク・サン』を発行している。地元のレストランを支える人々の物語から、最近の家賃の値上げについての解説まで、多文化・多言語の地域ならではのストーリーが掲載されるのだ。

このプロジェクトは、20年近くの経験を持つジャーナリスト、テリー・パリス・ジュニア氏によって2024年10月に創設された。立ち上げ当初は、図書館でのカジュアルな食事会を開催し、数十人が集まって地元にまつわる思い出やエピソードを語りあったという。こうした集まりを続けてまずは互いを知り、約8か月後には、ブルックリン公共図書館の支援を受けて月刊誌の発行が始まった。学生からシニアまで多世代が協力して記事の執筆に取り組んでいる。

サンセットパーク図書館でテリー氏がニュースレターの誌面を解説|Photo by Eliana Miller, via Terry Parris Jr.

図書館をはじめ地域に設置される月刊誌『Sunset Park Sun』|Image via Terry Parris Jr.

テリー氏の役割は会話を促し、ジャーナリズムのプロセスを教え、指導すること。毎月のミーティングでは、「次は誰に話を聞くべきか」「これらの質問をどのように組み立てるべきか」など、ストーリーテリングに関する指導を行っている。その後、住民たちは自発的にインタビューを実施し、自らストーリーを集めるのだ。

スタンフォード大学のジョン・S・ナイト・ジャーナリズム・フェローシップの一環として同氏が執筆したエッセイの中で、このプロジェクトについて「新聞や雑誌、ZINE、速報誌と呼ぶ人もいるかもしれません。しかし、これは教室であり、シグナルでもあります。物語がどう語られ、情報がどう収集・検証され、メディアがいかに作られるかを、皆が学ぶ教室なのです」と振り返り、コミュニティ主導のジャーナリズムの重要性を強調した。

ニュースルームに集まった地域の話題|Image via Terry Parris Jr.

また、アメリカにおいて図書館という場を選ぶことの意義を、テリー氏はこう語った。

アメリカの公共図書館の運営方法が日本とは異なることも、注目すべき点です。日本で図書館といえば、本の貸し出しや静かな勉強場所を思い浮かべますが、アメリカでは活発なコミュニティスペースとして機能することが多く、人々が集まり共に時間を過ごす場です。編み物サークル、ダンスや語学教室、アートワークショップなど、幅広いプログラムが開催されます。また、求職活動、履歴書の書き方、デジタルスキルの講座など、住民の日常的な困りごとへの対応も頻繁に行っています。

こうした役割の拡大により、アメリカでは図書館を、対話や参加、そして地域の問題解決を支援する市民空間と捉える考え方が広がっているのです。つまり図書館がニュースルームになることは、多くの図書館が既に行っていることの延長線上にあるでしょう。

本プロジェクトの特徴は、その縦断的な構造にあります。単発のイベントではなく、共有の物理的な出版物を中心とした継続的な市民活動を生むのです。時が経つにつれ、この月刊誌は住民を互いに、そして図書館や地域社会と結びつける第3の要素へと変化していきます。

例えば日本では、これが図書館である必要はないかもしれません。美術館、学校、公民館など、既に集団生活を中心に人々を組織している空間であれば、同様のプロセスを実現できます。中心となるのは建物そのものではなく、人々が時間をかけて集まり、地元に関する知識を生み出し、共有する、持続的で共有された実践の創造です。

テリー氏への取材より

SNSでフェイクニュースが流布する一方でメディアが減少するなど、情報との付き合い方のバランスが問われる中、地域に根付いた住民主体のジャーナリズムという情報との関わり方は、人々に情報社会を生きる上での適切な自信を与えるだろう。

図書館を、住民が自由に情報を協創するニュースルームへと再定義するこのモデルは、グローバルメディアを補完する民主的な選択肢を示す。米国内の公共の図書館すべてに広がれば、その数は1万6,000におよび、国を超えればさらに増える。いつかあなたの街にも、このニュースルームが生まれるかもしれない。なぜならこれは「誰でも」始めることができるから。

Library Newsroom Projectの詳細について

このプロジェクトについて詳しく知りたい場合、また同様の取り組みに関心がある場合は、Library Newsroom Project(hello@librarynewsroom.org)にメールでお問い合わせください。

The State of Local News: The 2025 Report|Local News Initiative

【参照サイト】Library Newsroom Project
【参照サイト】I Have An Idea To Open 16,000 Newsrooms In The U.S.|Medium
【参照サイト】The Discovery That Changed How I Think About Local News|Medium
【参照サイト】What I’ve Learned (So Far) About Building With Libraries, Newsrooms and Communities|Medium
【参照サイト】Journalism establishes a physical presence|NiemanLab
【参照サイト】米国で「ニュース砂漠」拡大、05年以降に3分の1の新聞が廃刊|Forbes
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