秘密にしてくれるなら、隠れた名所を教えます。観光客に“秘密保持“を求める、オーストリアのキャンペーン

Browse By

「隠れた名所」が、SNSをきっかけに一気に広がる。今やよくある話だ。投稿が拡散された途端、人が集中し、気づけば混雑や騒音が日常化。かつては穏やかなペースが保たれていた場所が、短期間で様変わりしてしまうのだ。

一人ひとりの何気ない発信が、結果としてその場所のあり方や価値を変えてしまう。この現象は、いまの観光が抱える大きな課題の一つである。

このジレンマに対し、オーストリア観光局(Österreich Werbung)が打ち出したのが、少し風変わりなキャンペーンだ。それは、旅行者にとっておきの冬の観光情報を共有する代わりに「秘密保持契約(NDA)」への署名を求めるというものである。

このキャンペーンにおいて、特別な観光情報にアクセスするためには、特設サイト上でNDAにデジタル署名を行う必要がある。SNSでの投稿やジオタグの付与、旅の自慢話などを控えることを誓った人だけが、オーストリア人が選んだ特別なスキールートや山小屋、人の少ない雪景色のなかで過ごせる静かな逃避先など、冬の魅力を落ち着いて味わえる場所を知ることができるのだ。

ただ、この契約は観光客を法的に縛るためのものではない。形式としては「NDA」だとしながらも、弁護士が関与したり、違反を理由に法的措置を取ったりすることはないという。観光局が守りたいのは、ビジネス上の機密ではなく、オーストリアの“内緒にしておきたい場所”。あくまで「友人同士の約束」のような感覚で、この体験を大切にしてほしいとのメッセージが込められている。

このキャンペーンは、旅を「一部だけを切り取って発信する」という行為から切り離す。何を共有しようか、と意識しつつその地を巡るのではなく、そこにただ存在し、感じ、味わいきる時間の価値を思い出させてくれるのだ。

これからの旅が、場所や人との距離感をどう結び直していくべきなのか、私たちは改めて考えていかなければならない。

【参照サイト】NON DISCLOSURE AUSTRIA
【関連ページ】旅程も行き先も秘密。地元民しか知らないルートを巡る「ミステリー旅」で、オーバーツーリズム解消へ
【関連ページ】「夏のサントリーニ島はおすすめしません」仏・旅行会社が人気観光地を“ディスる”広告を出したワケ

FacebookX