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メンタルヘルス問題

メンタルヘルス問題とは

メンタルヘルス問題とは、精神的な健康(メンタルヘルス)が十分に保たれていない状況や、メンタルヘルスを支える環境、社会的サポートが不十分であることによって生じる様々な課題の総称です。これは、個人が精神的な不調を抱えることに加え、適切な支援を受けられない社会的な構造の問題も含みます。

世界保健機関(WHO)は、メンタルヘルスを「一般的な健康と幸福の不可欠な一部であり、基本的人権である」と位置づけています。メンタルヘルスは、人が社会や地域と前向きに関わり、充実した生活を送り、社会で活躍し貢献するために必要不可欠な要素なのです。

WHOが2022年に発行した「世界メンタルヘルスレポート」では、メンタルヘルスを次のように定義しています。

「人々が人生のストレスに対処し、自分の能力を発揮し、よく学び、よく働き、地域社会に貢献することを可能にする、精神的に健康な状態。精神的健康は、健康と幸福の不可欠な要素であり、精神障害がないこと以上のものである」
出典:World Mental Health Report : Transforming Mental Health for All. 1st ed. Geneva: World Health Organization, 2022.

日本の厚生労働省も、WHOの「精神的健康状態(Mental health condition)」の定義を参考に「こころの不調」を次のように定めています。

「精神障害や社会的障壁により継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態を指し、重大な苦痛、機能障害、自傷行為のリスクを伴う精神状態を含むもの。」
出典:厚生労働省「令和6年版厚生労働白書-こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に-」

数字で見るメンタルヘルス問題(Facts & Figures)

  • 世界の約8人に1人が精神障害を抱えている(2022 / WHO
  • 世界全体で、統合失調症などの重篤な精神疾患を持つ人は、一般の人よりも平均10~20年早く亡くなり、その多くは予防可能な身体疾患によるものである(2022 / WHO
  • 日本では、1歳未満の子どもを持つ年間約3万組の夫婦がメンタルヘルスの不調に悩んでいる可能性がある(2024 / 厚生労働省
  • 日本で、2020年に精神疾患を抱える総患者数は約615万人に達し、外来患者数も増加傾向にある(2024 / 厚生労働省
  • 日本で、2020年の外来患者約586万人のうち、最も多かったのは「気分(感情)障害」(うつ病など)で約169万人、次いで「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」(適応障害など)が約124万人だった(2024 / 厚生労働省
  • 2020年のデータでは、外来患者のうち75歳以上が約136万人と最多で、次いで45〜54歳が約98万人、0〜24歳が約79万人だった2024 / 厚生労働省
  • 世界全体の全死因のうち、自殺が1%以上を占めている。また、自殺で亡くなる1人に対し、20件の自殺未遂が発生している(2022 / WHO
  • 2023年の日本における自殺者数は21,837人。小中高生の自殺者は2022年に514人と過去最多となり、2023年も513人と依然として高い水準だった(2024 / 厚生労働省
  • 2020年、日本の自殺死亡率(人口10万人当たり)は16.4で、G7諸国の中で最も高かった。特に女性の自殺率(10.5)は、2位のフランス(6.1)を大きく上回り、G7で最も高い数値となっている(2024 / 厚生労働省
  • 2020年、日本の男性の自殺率(22.6)は、米国に次いで2番目に高かった。G7のすべての国で、男性の自殺率は女性の自殺率を上回った(2024 / 厚生労働省

メンタルヘルス問題の現状(Current Situation)

WHOが2001年に発表した『世界保健報告書』以来、メンタルヘルスに対する理解と関心は高まり、多くの国々がメンタルヘルスに関する政策を強化し、改善のためのガイドラインやマニュアルも整備されてきました。しかしながら、依然として多くの国々ではメンタルヘルスケアの改善が遅れており、システムは人々のニーズに十分に対応できていません。

こころの不調は、世界中で広く一般的な問題であり、多くの国々で深刻な状況にあります。ほとんどの国の医療・福祉制度では、メンタルヘルスへの関心が不足しており、人々に十分な支援やケアが提供できていないため、何百万もの人々が苦しんでいます。

若者や働き盛りの人々、高齢者など、ライフステージに関係なく、多くの人々がメンタルヘルス問題に直面し、本来得られるはずの充実した生活を送ることができていない状況にあります。

さらに、COVID-19(コロナ)パンデミックはメンタルヘルスへの影響を一層悪化させ、うつ病や不安神経症などの精神疾患が大幅に増加しました。このパンデミックは、既存のメンタルヘルス支援システムの脆弱性も浮き彫りにし、メンタルヘルス問題に対する対応が一層急務となっています。

メンタルヘルスに関する重要用語

精神障害(Mental disorder)

国際疾病分類第11版(ICD-11)で定義されているように、精神障害とは、個人の認知、感情調節、行動における臨床的に重大な障害を特徴とする症候群であり、精神および行動機能の根底にある心理学的、生物学的、または発達過程の機能不全を反映している。これらの障害は通常、個人的、家族的、社会的、教育的、職業的、またはその他の重要な機能領域における苦痛または障害と関連している。

出典:World Mental Health Report : Transforming Mental Health for All. 1st ed. Geneva: World Health Organization, 2022.

心理社会的障害(Psychosocial disability)

障害者権利条約に沿った心理社会的障害とは、長期的な精神障害を持つ人が、他の人と平等な社会への完全かつ効果的な参加を妨げる様々な障壁と相互作用することによって生じる障害のことである。そのような障壁の例として、差別、スティグマ、排除が挙げられる。

出典:World Mental Health Report : Transforming Mental Health for All. 1st ed. Geneva: World Health Organization, 2022.

メンタルヘルス問題の影響(Impact)

人は日々の生活の中でさまざまな感情の起伏を経験します。これは自然なことですが、その範囲を大幅に超えて、思考や感情、行動に顕著な変化が生じ、強い苦痛や日常生活への支障が続く場合、こころの不調や精神疾患へとつながる可能性があります。

代表的な精神疾患には、次のようなものがあります。

うつ病

気分障害の代表的な疾患のひとつです。一日中気分が落ち込み、興味や喜びを感じられないといった心理的症状に加え、不眠、食欲不振、疲労感などの身体的症状もみられます。日本では約6%の人が一生のうちにうつ病を経験するとされ、女性の発症率は男性の約1.6倍と報告されています。(厚生労働省

うつ病の原因は一つではなく、さまざまな要因が複雑に絡み合って発症します。一般的には精神的・身体的ストレスが引き金になることが多いと考えられていますが、結婚、進学、就職といった本来ポジティブな出来事が原因となることもあります。

さらに、真面目で責任感が強いといった性格傾向や、遺伝的要因、がんなどの身体疾患、妊娠・出産、更年期障害によるホルモンバランスの変化なども、発症に関与すると考えられています。

双極性障害(躁うつ病)

躁状態(気分が異常に高揚する状態)とうつ状態を繰り返す疾患で、気分障害に分類されます。うつ病とは異なる病気であり、治療方法も異なります。

躁状態のときは、気分が高揚して開放的になり、眠らなくても活動的になる、自信過剰になる、次々にアイデアが浮かぶ、自分が偉大だと感じる、高額な買い物やギャンブルで散財するなどの症状がみられます。

しかし、本人はこの状態を病気だと自覚しにくく、うつ状態になってから初めて受診することも多いため、適切な治療を受けられないまま病状が悪化するケースもあります。

適応障害

神経症性障害、ストレス関連障害、身体表現性障害に分類されるこの病気は、日常生活や職場での人間関係など、なんらかのストレスが引き金となって心身のバランスを崩し、憂鬱な気分や激しい不安、頭痛、不眠などの症状を引き起こします。

通常、はっきりとしたストレス要因によって症状が現れます。この際、そのストレス要因に対して一般的に予想される範囲を超えた強い苦痛を伴います。さらに、ストレス要因が解消されてもすぐには回復しない場合があり、仕事や学業、対人関係など社会生活に大きな支障をきたすことがあります。

統合失調症

思春期から青年期にかけての発症率が比較的高く、幻覚や妄想、思考や行動の障害、意欲の低下などが現れます。陽性症状(幻聴や妄想など、正常時には見られない症状)と陰性症状(意欲や感情表現が欠ける症状)があります。例えば、独り言を言ったり、本来言われていないことを信じたり、話が支離滅裂になるなどの症状が見られることがあります。

病状の進行具合は個人差があり、多くは回復しますが、再発しやすく、慢性化することがあります。一部では症状が重症化し、学業や仕事、対人関係に深刻な影響を及ぼす場合もあります。

また、統合失調症患者の死亡年齢は一般人口に比べて約15年〜20年低いという研究報告があります。(松田・他)この原因として、合併症や生活環境、遺伝的要因、そして治療時の薬の副作用による身体合併症など、複数の要因が影響していると考えられています。

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)

命の危険や性暴力の脅威に遭遇した後、その強い恐怖の記憶が適切に整理されず、何度もその出来事を思い出し、その時の恐怖を感じ続ける病気です。恐怖や絶望といった非常に強い感情に圧倒され、逃げられない無力感を抱くこともあります。

何気ないことがきっかけとなって、または突然記憶がよみがえり、フラッシュバックや悪夢に悩まされることがあります。PTSDの発症リスクは、被害後の社会的サポートの不足や高い生活ストレス、児童期の虐待などによって高まることが分かっています。

摂食障害

神経性やせ症、神経性過食症、過食性障害などに分類されます。極端な食事制限や過度な食事摂取、食事後に体重増加を防ぐために嘔吐や下剤を乱用するなど、さまざまな症状を引き起こす病気です。誰にでも発症する可能性がありますが、特に女性に多く、患者の90〜95%は女性とされています。(慶應義塾大学病院

摂食障害は、体重や体型への異常なこだわり、低い自尊心、完璧主義などが原因となり、健康的な食生活が送れなくなることが特徴です。

一つの原因として、社会的な美の基準が挙げられます。社会的な美の基準は、医学的に適正な体重や体型を下回ることが多く、それに合わないことが否定的に捉えられる傾向があります。メディアや周囲からそのようなメッセージを受け続けることで、自尊心の低下や自己嫌悪につながり、摂食障害を引き起こす主要な要因の一つと考えられています。

メンタルヘルス問題の背景と要因(Background & Factors)

個人の日常生活でのストレス

ストレスとは、物理的、環境的、心理的、社会的な要因など、外部からの刺激によって生じる緊張状態のことであり、ライフステージの全般にわたって存在します。人は日常生活を送る中で、常にさまざまなストレスにさらされていますが、多くの場合、意識せずともストレスに対応しながら社会に適応しています。

しかし、強いストレスや複数のストレスが同時にかかる場合、またはストレスが長期間続くことで、ストレスへの対応がうまくいかなくなり、心身のバランスが崩れ、社会への適応が難しくなることがあります。このような状況から、こころの不調が生じる可能性があると考えられます。

具体的には、進学や就職、結婚や妊娠出産、介護や死別といった人生の重要な転機もストレスの原因となることがあります。さらに、日常生活の中での人間関係のトラブルや長時間労働、または、配偶者からの暴力(DV)など、精神・身体的暴力もこころの健康に対する深刻なリスクを引き起こす原因となります。

特に、幼児期などの発達段階におけるリスクは、非常に有害であるとされ、過度に厳しい子育て、体罰、いじめは、メンタルヘルスに対する最大の危険因子のひとつと見なされています。

社会的スケールでのリスク

メンタルヘルスと社会は相互に影響を及ぼし合っています。そのため、社会的な変化は集団全体のメンタルヘルスを脅かすリスクを伴います。例えば、経済不況や疫病の流行、紛争による人道的危機、強制移住、気候変動の深刻化などがその要因として挙げられます。

また、コミュニティからの孤立も、こころの不調を引き起こす要因となります。デジタル化の進展やパンデミックによる環境の変化によって孤独や孤立が深刻化し、コミュニティとのつながりが薄れることで、メンタルヘルスに悪影響を及ぼすことがあります。

メンタルヘルスに関する認識と対応の課題

メンタルヘルスに対する認識や予防策の不足が、こころの不調を引き起こす原因のひとつとされています。例えば、メンタルヘルスへの理解が不十分なため、本人が症状に気づかず、適切な治療を受けられないことがあります。また、精神疾患を持つ人への偏見や、相談しにくい文化や法律があることも問題とされています。

さらに、現行の医療制度では発症後の治療が中心であり、発症前の軽度な症状への対応が難しいという課題もあります。加えて、メンタルヘルスは複数の分野にまたがる問題ですが、国の管轄が分散しており、明確な責任者が不在のため、包括的な対策が難しいという現状もあります。これらの問題が、メンタルヘルスの悪化に繋がる要因となっていると指摘されています。

メンタルヘルス問題への対策(Action)

メンタルヘルスの向上と問題の予防には、社会全体での取り組みが不可欠です。医療だけでなく、教育、労働、福祉、司法など多様な分野が連携し、支援体制を整えることが求められます。

まず、メンタルヘルスを支える環境づくりが重要です。学校では、子どもがストレスへの対処法を学ぶ機会を増やし、職場では、法律や規則の整備、管理者研修、従業員のサポートを強化することが有効です。家庭や地域社会の支援を充実させ、孤立を防ぐことも、メンタルヘルスの維持につながります。

また、精神疾患の早期発見と治療の促進も重要です。発症の初期に適切な医療を受けることで、症状の軽減や社会復帰の可能性が高まります。こころの不調を抱える人が気軽に相談でき、適切な医療を受けられる環境を整えることが不可欠となっています。

メンタルヘルス対策は、個人だけでなく社会全体の課題であり、政府や自治体、教育機関、企業、地域社会が協力して取り組むことが必要です。過去の成功事例を参考にしながら、包括的な支援体制を構築・強化することが求められます。

メンタルヘルス問題に関して私たちができること(What We Can Do)

コミュニティからの孤立は、メンタルヘルスに大きな影響を及ぼします。こころの不調を抱えた人は周囲との関わりを避ける傾向にあるため、私たち一人ひとりも、同じ社会に生きる他者のメンタルヘルスと無関係ではありません。コミュニティとのつながりを大切にし、身近な人の様子に異変を感じたら、否定せず寄り添う姿勢を見せることが大切です。自覚症状がない場合もあるため、私たちの気づきや声かけなどが、その人の生活の質を守り、ときには命を救うことにつながるかもしれません。

もしこころの不調を感じたら、ひとりで抱え込まず、家族や友人など信頼できる人に相談してみてください。相談できる相手がいない場合は、公的な相談窓口や専門機関を活用するのも有効です。また、情報があふれる現代では、過剰な情報に圧倒されることもあります。ストレスの原因となる情報や環境から一時的に距離を置くことも、こころを落ち着ける方法のひとつです。

以下に、関連する窓口やウェブサイト、支援機関を紹介します。

  • こころもメンテしよう
    中高生を含む若者世代に向けたサイトで、こころの健康やメンタルヘルスの問題についてわかりやすく紹介しています。
  • こころのオンライン避難所
    ショックな報道や情報に触れて、こころがざわついた時に活用できるサイトです。インターネット検索をやめる、テレビを消す、スマホの通知をオフにするなど、こころを落ち着かせる具体的な方法を学べます。
  • 遺されたご家族へ ―自死遺族の方へ―
    大切な人を亡くされた方のためのウェブサイトです。電話相談や自死遺族の集いなどの支援情報を紹介しています。
  • こころを落ち着けるためのWebサイト
    モヤモヤした時に、こころを落ち着かせる方法を紹介するサイトです。相談窓口が混み合っている際の活用もおすすめです。
  • こころの耳ホームページ
    メンタルヘルス問題解決に向けて、一歩を踏み出すための相談機関や窓口を紹介しています。
  • いのちSOS
    「生きるのがつらい」と感じたときに、無料・秘密厳守で相談できる24時間対応の窓口です。チャットやメール相談も可能です。電話:0120-061-338
  • 政府広報オンライン「メンタルヘルス
    メンタルヘルスに関する相談窓口の一覧や情報を掲載しています。
  • これらは、メンタルヘルスを支援する取り組みの一部です。相談先が必要な場合は、状況に応じて適切な窓口を活用してください。

    メンタルヘルス問題を改善するアイデア(IDEAS FOR GOOD)

    メンタルヘルス問題を解決するために、できることは何でしょうか?

    IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークなアイデアでメンタルヘルス問題解決に取り組む企業やプロジェクトを紹介しています。

    メンタルヘルスに関連する記事の一覧

    【参照サイト】厚生労働省「メンタルヘルスとは」
    【参照サイト】厚生労働省「こころもメンテしよう 〜若者を支えるメンタルヘルスサイト〜」
    【参照サイト】World Health Organization (WHO). ‘Mental health’.
    【参照サイト】World Mental Health Report : Transforming Mental Health for All. Executive Summary. 1st ed. Geneva: World Health Organization, 2022.
    【参照サイト】World Mental Health Report : Transforming Mental Health for All. 1st ed. Geneva: World Health Organization, 2022.
    【参照サイト】厚生労働省「令和6年版厚生労働白書-こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に-」
    【参照サイト】特定非営利活動法人Light Ring「こころの病の社会問題」
    【参照サイト】国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所「双極性障害(躁うつ病)」『こころの情報サイト』
    【参照サイト】平島奈津子「適応障害の診断と治療」『日本精神神経学雑誌』120, no 6. (2018): 514-520. 【参照サイト】
    【参照サイト】池田朝彦「日本における「適応障害」患者数の増加―メンバーシップ型雇用からの考察―」社会政策学会誌『社会政策』12, no. 2 (2020): 101-112.
    【参照サイト】松岡洋夫「統合失調症」『精神系誌』109, no 2 (2007): 189-194.
    【参照サイト】齊藤千鶴「摂食障害傾向における個人的・社会文化的影響の検討」『パーソナリティ研究』13, no 1 (2004): 79-90.
    【参照サイト】慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト「摂食障害」
    【参照サイト】松田公子 et al.「統合失調症死亡例の検討 – 心電図上のQT延長を中心として–」『精神神経学雑誌』117, no. 10 (2015): 826-836.

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