子どものころ、実験で虫眼鏡を使い、太陽の熱で黒い紙を焦がしたことがあるだろうか。黒い物体は光を吸収し、太陽光を効率的に熱エネルギーへ変換する。一方、白い物体は光を反射し、熱の蓄積を防ぐ。
建築物においても同様で、ギリシャなどの暑い国には熱を反射する白い外装が多く、逆に気温が低い北欧では熱を吸収するような、比較的暗い色の建物が目立つ。しかし、日本のように一年を通し寒暖差がある地域では、季節ごとに建物の色を塗り替えるのは現実的ではない。
ニューヨークを拠点とするデザイナーのジョー・ドゥーセ氏は、自宅を改装中に色によるエネルギー消費の変化に着目し、より実用的な解決策を模索した。まずは自宅の縮尺模型を二つ作成。実験では、一つの模型を黒く、もう一つを白く塗装し、一年間にわたり両モデルの外側と内側の温度を測定した。すると、夏には白い家の内部が黒い家よりも約6.7℃涼しく、冬には黒い家の内部が約4℃暖かいという結果が出た。さらに、夏と冬の季節の変わり目では、建物の色の違いによって最大7.2℃の温度差が生じることが確認されたのだ。
この結果を受けて、ドゥーセ氏率いるJoe Doucet x Partnersのチームは、市販の住宅用塗料をベースに独自の配合を試み、2年間の試行錯誤を経て、温度によって化学的に変化する塗料を開発した。この特殊な「気候適応型」塗料は、2025年4月現在、特許出願中である。
View this post on Instagram
お湯を注ぐと絵柄が浮かぶマグカップや、体温で色が変わるムードリング、温度で色が変わるおもちゃや傘など、温度によって色が変わる製品はすでに身近に存在する。「気候適応型」塗料も同様の原理を応用し、気温が25℃以上になると白くなり、太陽の熱を反射して建物を冷やす。一方、気温が25℃以下になると徐々に黒くなり、熱を吸収して建物内を暖かく保つ仕組みだ。
また、この塗料は他の色と混ぜることもできるため、例えば夏は水色、冬は紺色に見える「青い家」にすることも可能だ。寒暖差のある国でこの技術が建物外壁に使用されれば、エアコンの使用を減らし、エネルギー消費を年間で最大20~30%削減する可能性があるという。
現在、多くの都市がこのように塗料を活用した建築技術に注目している。2019年、セネガル、バングラデシュ、メキシコ、インドネシアのチームは、「100万人の涼しい屋根チャレンジ」の一環として、合計25万世帯の小さな屋根に白い反射塗料を塗布した。また2022年ロサンゼルスのパコイマ地区では、広範囲に及ぶ道路が太陽反射塗料で覆われ、猛暑時の周辺気温が平均約3.5℃下がったことが報告された。
現段階では、気候適応型塗料のコストは標準的な塗料の約3倍から5倍と試算されている。初期投資は高いものの、長期的にはエネルギー消費の削減によるコスト回収が見込めるかもしれない。加えて、耐久性が向上し、コストパフォーマンスの高い製品が製品が開発されれば、一般住宅だけでなく、冷暖房による空調管理が必要な農場や倉庫などの大規模な産業施設においても、大きな効果をもたらす可能性がある。
この技術が普及すれば、私たちの住まいや都市環境はどのように変わるだろう。エネルギー消費を抑えながら快適な空間を維持することが求められる今、建築物の色が気候適応を進める未来はすぐそこまで来ているのかもしれない。もしあなたが家を建てるなら、季節によって色が変わる壁を選ぶだろうか。
【参照サイト】Joe Doucet x Partners
【参照サイト】This new paint changes color with the weather—and cuts down on energy bills
【関連記事】「白い屋根」がエアコンの代わりに?色で室内を冷やすインドネシアの技術
【関連記事】色鮮やかな塗料で街の温度を下げる。LAで進む、地域ぐるみの暑さ対策プロジェクト
【関連記事】気候変動への「適応」は諦めではない。フランスが“4℃上昇”に備える計画を発表
【関連記事】気候変動への適応策とは・意味
Edited by Megumi
