環境問題に対する意識が高まるにつれて、個人や企業によるごみの分別やリサイクル、アップサイクルなどの実践が増えてきた。誰もごみと無縁の生活はできず、日常生活の中に根付いたテーマでもあるためだろう。
一方で、個人や企業でごみの減量や分別を始めて気づくのが、街のごみ分別・回収システムそのものが変わらないと正しいリサイクルができないという現状。市民全員が関わる分野だからこそ、分別カテゴリーや収集方法、処理施設などの既存構造が広範にわたって根を張っており、すぐに現状を変えることも難しいのだ。
それでも、組織内から改革を始め、地域のごみ処理の仕組みまでも変えることができることを、自らの実践で示してくれる組織がある。インドネシアのバリ島南部・スミニャックにあるビーチクラブ併設型のリゾートホテル「Potato Head」だ。
ゼロウェイストを大きなテーマの一つに掲げるこのホテルは、かつて半分以上のごみを埋め立て処分にしていた。しかし、そこからわずか8年で、リサイクル率98.4%という数字を実現したのだ。どのようにその変化を実現し、地域の仕組みまでも再建しようとしているのか。同社のサステナビリティ・マネージャーであるディト氏にその裏側を聞いた。
話者プロフィール:Dito Prahadi(ディト・プラハディ)
Potato Headサステナビリティ・マネージャー。2023年にPotato Headに入社し、現在は廃棄物、水、エネルギー、サプライチェーン全体にわたるサステナビリティ戦略を主導。在職中、埋立廃棄物量を5%からわずか0.5%に削減、リサイクル率98.4%を達成し、同社初のサステナビリティレポートの発行に貢献。インドネシア出身で、ニューデリーのジャワハルラール・ネルー大学で国際関係学の修士号を取得。
廃棄物危機で方針転換。数年でゼロウェイスト間近
Potato Headがゼロウェイストを目指すこととなったきっかけは、2017年にインドネシア政府が明言した「廃棄物危機(Waste Crisis)」の現状。川や海に大量のごみが流出していた惨状を受けて、同社はごみの焼却処理を徹底的に減らす方針へ舵を切ったのだ。当時、同社は2010年にオープンしたビーチクラブに加え、敷地内にホテルを開業したばかりだった。
2017年当初の調査では、ホテル全体の廃棄物のうち約50~60%の廃棄物が埋め立てられていることが判明したという。しかし2023年には埋立処分率を約2.9%、さらに2025年5月現在は約0.5%まで減少(焼却は1.1%、リサイクル率は98.4%)。バリ島の4つ星・5つ星ホテルの平均埋立処分率が約78%であることから、Potato Headの0.5%という数字は圧倒的に低いことが分かるだろう。
この実績は、リサイクル業者を一から見つけることから始まった。バリ島内には行政が管理する廃棄物の処理施設がなく、社内で分別の努力をしてもそれがリサイクルのルートに必ずしも乗らないこともあったという。
「もともとは、基本的に一つのごみ箱にすべてを捨てて廃棄物回収業者に渡していました。そこから多くの努力を重ねて、種類ごとにごみの分別を始めたのです。ところがある日、それらのごみが収集される際、すべてが同じトラックにまとめて投げ込まれているのを目撃しました。せっかく分別しても、結局は混ざってしまっていたのです。
つまり時間をかけてでも適切なパートナーを探すことが重要でした。『やらなければならないから』と急いで物事を進めると、それは『正しい』方法ではなくなるかもしれないのです」

ホテル中心部にそびえる、Potato Headの象徴的なオブジェ。リサイクル素材からできている。
この学びから、現在は環境コンサルタント会社・Eco-Mantraと協働して廃棄物削減の戦略を立てている。政府による正規のごみ処理は主流でなかったものの、豊かな自然環境に感化された人々によるリサイクルやコンポストなどの事業が既に地域に存在していたのだ。
「例えば、アーバン・コンポストというパートナーがいて、長年にわたって有機廃棄物の堆肥化を手伝ってくれています。こうしたパートナーは私たちにとって本当に重要な存在です。
ただ、昨年には、バリ政府もリーダーシップを発揮し始めました。一部の地域で、政府が各世帯に対して『意識向上のための研修を行い、皆さんの家にごみ箱を用意するので、ごみを分別してください。私たちが回収します』と率先して呼びかけ、住民をもっと巻き込むようになったんです。以前よりもはるかに、進歩しています」
現場には4つのごみ箱、そして28種の分別へ
こうしてPotato Headでは、現場でごみを4分別、その後、ごみ分別ルームで28種類に分けるに至った。
Potato Head全体で最も量の多い廃棄物はキッチンから出る生ごみ、次いでガラス瓶、ココナッツの殻だ。そのため、まずは有機物と非有機物の分別から始めた。現在は「非有機物」「飼料用有機物」「コンポスト用有機物」「医療廃棄物」という4つのカテゴリーに細分化されている。それぞれ赤、青、緑、黄色とイメージカラーが導入されたことで視覚的に判別しやすくなり、効率が上がったそうだ。
キッチンなどの現場で4分別されたごみは、ごみ分別ルームに収集され、28種類に分類される。特に、非有機廃棄物はさらに細かく分類され、アルミホイルや使い捨てプラスチック、紙、ペットボトルなどに分けられていく。

ごみ分別ルームの様子。後ろにある黄色いバケツが、非有機物の分別の一部。

ココファイバー(左)と、切った状態のココナッツ(右)
ビーチクラブから多く生じるココナッツの殻は、コンポストに入れても分解されにくい。そこで、殻をプランターやコースターにするワークショップを開催して一部を再利用。大半となる残りは、独自の機械「ココシュレッダー」によって処理される。ココナッツを3~4等分にして投入すると、ココナッツの破片が繊維(ココファイバー)に細断され、同社の非営利事業が経営する農場の培地やガーデニングに使用される。
また、ゲストとスタッフ、そしてサプライヤーも対象に、使い捨てプラスチックの持ち込みを禁止するなど、できる限りごみを生まないための働きかけも行っているのだ。
社内の需要に合わせたユニークなアップサイクル製品
前述の「リサイクル率98.4%」の中には、アップサイクルも含まれている。社内でアップサイクルされるのは、ポリエチレン、発泡スチロール、貝殻、そして農場とガーデニング用の堆肥だ。
特にPotato Headの象徴的なアップサイクルが、発泡スチロールを利用した「Styroshell(スタイロシェル)」という素材だ。野菜やウェブ購入品の梱包として生じる使用済み発泡スチロールを溶かし、牡蠣の殻を砕いたパウダーと混ぜ、アクリル絵具で着色した後、多様な型で成形することで自在に製品を作ることができるのだ。現在は、ハンドソープやティッシュの容器、トレイ、アイテムホルダーなどのホテルアメニティとして使用されている。
また、再利用に工夫が必要だったのが、使用済みの料理油だ。地域にリサイクル業者も存在するそうだが、安価な油として市民に転売されてしまうリスクがあったため、社内で処理する方法を模索したという。現在は月に約2,000リットル使用する料理油のうち10%がキャンドルの原料として使用され、残りはバイオディーゼル燃料として再利用されている。

スタイロシェルの素材を作る場所・Waste Cleaning & Storing。色付け用に、花をお湯で沸かして色を抽出していた。後ろの棚に並んでいるのが、スタイロシェルに混ぜるカラフルなプラスチックの破片。
一方で、こうしたアップサイクル品はほとんど販売されることはない。利益を出そうとすれば、ごみがさらに多く必要になるという矛盾を抱えるかもしれないからだ。そのためアップサイクル品は各部署で必要とされる物品を補うものであり、社内の需要に応じた量だけ、人の手で製造されている。
「Potato Head全体として発生するごみの量はかなり多いので、私たちがここで『必要な量』としてアップサイクルするのは、わずか1~2%程度なのです」
そうして作られたアップサイクル品は、ホテルやレストランなどで使用されている。ゲストが何度も目にするため、ストーリーテリングの役目も担っているようだった。
解決策が、ごみの量や行き先などの新たな課題を生まないように──そんな姿勢が随所で垣間見えた。それは、ディト氏が繰り返し語った「正しいリサイクル」の実践が意識裏にあるからなのだろう。

ホテル内の至るところで、Potato Headのテーマカラーであるピンクのスタイロシェル製品が見られる
ごみ課題を自分ゴトにする「交代制」の役職
Potato Headが構築してきた、リサイクルやアップサイクル。ここまで見てきた取り組みは、決してトップダウンで一夜にして実現するものではない。なぜ、Potato Headではゼロウェイストが持続的に実践され、常に改善のアイデアが生まれてきたのだろうか。取材を通して、その持続的な変化のカギを握る要素の一つが「社内のチーム体制」にあることが見えてきた。
Potato Headでの廃棄物管理は、明確な組織構造を設けている。代表的なポジションが、エコ・チャンピオンとグリーンチームだ。
「エコ・チャンピオンの役割は基本的に、ごみの分別・回収オペレーションでの目標達成を管理することですが、ごみに関する問題に対処するためのクリエイティブな方法を見つけ、興味をそそるような解決策を考え出すことにもあります」
エコチャンピオンは専任のポジションで、現在は2名が担っているという。前述の発泡スチロールのアップサイクルを発案したのも、エコチャンピオンの一人だった。そして彼らの下部組織に当たるのが、グリーンチームだ。
「グリーンチームには各部署のスーパーバイザーレベルから週ごとに1人ずつが集まって構成されます。エコ・チャンピオンが実施する監査に同行して、ごみの発生源を一つひとつ見て回り、目標や基準を守っているかどうかを確認するのです。
例えば、今週はキッチンチームの誰かがエコ・チャンピオンに同行して見て回り、次の週は警備チームの誰かが同行する、といった具合です。実際に現場を体験することは、現状に気づくきっかけとなります。これは、その機会をより多くのスタッフに行き渡らせるための一つの方法なのです」
そして彼らを取りまとめるのがサステナビリティ担当のディレクターとマネージャー(企画戦略担当とオペレーション担当)なのだ。全社員に向けたごみ分別のトレーニングに加えて、社員一人ひとりが責任を持ってごみの管理に取り組む週を設けることで、日常的なごみ分別への視座が揃い、ゼロウェイストへの基盤が作られている。

通りすがりにスタイロシェルの素材や製造過程、ゼロウェイストの取り組みについて学べる展示ゾーン。この時もスタッフ(左)がゲストと話していた。
さらなるインパクト拡大に向けて地域連携をスタート
ここまで、Potato Head社内での変化を追ってきた。しかし彼らは、リサイクルの仕組みとインパクトを地域全体にも広げ始めている。2024年10月に始動した「Community Waste Project」では、バリ島最大の埋立地であるスウンにごみ処理施設を建設したのだ。
「2023年に、もっと大きなインパクトを与えるにはどうしたらいいかと考え始めました。その時点で、私たちは3〜5%を埋立処分していました。ゼロウェイストの目標に近づいていたわけです。しかし同時に、根本的な変化のためには私たちだけの努力では足りず、ホスピタリティ業界全体を巻き込むことが必要だと考えました」
結果として、このプロジェクトは、バリ島内のホスピタリティ業界の大手やレストランなども参加することに。参加企業は、Potato Headと同じカテゴリーのごみ分別に参加することができ、埋め立てごみの減量に繋がっている。地域の住民にも参加を呼びかけ、地域全体で正しいごみ分別が実践され始めているそうだ。
「参加メンバーが非常に熱意を見せていて、多くの企業が『正しい分別方法を学び変革の一部になりたい』と、このプロジェクトに関心を示しているんです。私たちの目標は常に、こうした意識を高め、同じように行動してもらうことだったので、走り出しは上手く行っています」

スウンにある埋立地|Photo by Adrian Morris, Image via Potato Head

その埋立地のすぐ側にできたごみ処理施設|Photo by Tommaso Riva, Image via Potato Head
このコミュニティでのプロジェクトやアップサイクルは、Potato Headが運営する非営利組織・Sweet Potato Projectの活動であり、財務上ホテル事業とは切り離されている。運営資金はPotato Headの事業収益の一部や、参加企業からの寄付だ。開設にあたって寄付を募ることで、企業からの持続的な関わりを促進したそうだ。
ここで重視されているのは、「地域の」廃棄物管理を改善するべく、企業が知識を共有し合うこと。廃棄物管理のノウハウやデータはオープンソースとして公開されており、誰でもアクセス可能だ。コミュニティでの取り組みを通じて、社内に閉じない広い範囲での環境保全が実現しつつある。
ゼロウェイストホテル、次の目的地は
0.5%という圧倒的に低い埋立処分率を達成した、Potato Head。次なる目標は、発生するごみ自体の量を減らすことだ。
「埋め立てごみの割合を50%から0.5%に削減できたとはいえ、ごみの発生量そのものにはまだ満足していません。また、ホテルも忙しくなってきているので、食事をするゲストも増え、ごみの量も増えています。ですから、次のステップ、そして最大の目標はごみを削減していくことです。
ホテルやビーチクラブ、スタッフの食堂などを合わせたPotato Head全体の廃棄物は、1日あたり平均1.5〜2トンほど。何でも有効に使い、何も捨てない仕組みを作りたいと思っています」
ビーチクラブや豪華なホテルが建つ、広々としたリゾート施設。地域住民よりも域外の訪問者を迎え入れることが多い場所であり、どうしても廃棄物が出てしまいやすい。しかし訪問者がいるからこそ、Potato Headがバリ島の現状を伝える場になり、組織内での実践を通して行動変容のきっかけを届けることもできるだろう。
現地を訪れて気付かされたのは、ホテルが大規模であるとはいえ、決してテクノロジーに依存した分別をしているわけではないということ。人の顔が分かる形でごみを分別し、市場ではなく社内の需要に合わせたスローな時間軸でものづくりが行われていた。人が見える仕組みがあるからこそ、無理を強いるようなごみ処理やアップサイクルをしない考えが生まれてくるのかもしれない。
そして、互いに顔が「分かる」と実感させるカギとなっているのが、エコチャンピオンやグリーンチームという関わり方だ。各部署のリーダー層がゼロウェイストの看板を背負う経験をすることで、自身の部署におけるごみの現状を実感できる。これが任意ではなく正式な業務として存在することは、社内でごみの分別・削減に対して支持を得る基盤となっているようだ。
自分の地域や組織の中で、誰が何をごみとして出し、それをどこで誰がどのように資源にしてくれているのか──それをどこまで鮮明に描けるかが、ごみとの向き合い方を左右するのではないだろうか。
【参照サイト】Desa Potato Head
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